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虚構の守り手 〜二つの日本の物語〜  作者: 扶桑かつみ


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第七章「対決」-4

「対空戦闘用意!」


 今は「大和」司令塔に詰めている能村艦長から、各部署に命令が飛んでいる。

 随伴艦艇からも、アメリカ製に置き換えた対空砲が打ち上げられ始める。

 

 対艦戦闘中に思わぬ乱入者があったのだ。

 

 くせ者は、「Tu4」。アメリカのB29をソ連がコピー生産したものだ。

 それが突如距離20000メートルに出現。

 往年の海軍航空隊のように、高度三十メートル以下の超低空を這うようにやって来た。

 

 もともとのB29からは考えられない機動だが、速度もオリジナルより速く低空での伸びが違うことから、機械式タービン付きの大型エンジンに換えた派生型と分析できた。

 

 だが今は分析どころではない。

 

 Tu4改とでも呼ぶべき機体が六機、低空から日本艦隊目指して突進してきたのだ。

 その六機は、低空のまま突進するものと上空目指して翔のぼるものに分かれると、他には目もくれず「大和」に向けて突進する。

 

 そこに詫びの言葉を叫びながら、「信濃」を根城としていた空母艦載機隊が戦闘区域に乱入。

 自軍の対空射撃もお構いなしに、B29のコピーに機関砲弾をたたき込んだ。

 

 攻撃により、上空の二機のうち一機が搭載弾の誘爆で爆散。

 もう一機が片方の翼を失い、激しく回転しながら海面に激突。

 盛大な水の前衛芸術を作り上げた。

 

 しかし航空機による迎撃もそこまで。

 

 「大和」がようやく対空射撃を開始する頃、距離10000メートルからまずは高度3000メートルまで登った機体がかなり大型の爆弾を投下。

 ついで、距離3000メートルで残りの一機(あとの二機は弾幕射撃ではたき落とされた)が翼下と弾倉内のロケット弾をぶちまけた。

 

 なお、「大和」の方が急ぎ変進したため砲撃戦は一旦お預けとなり、それまでに放った砲弾はそれぞれ見当違いの場所に虚しく深紅の水柱を噴き立てていた。

 

「面舵一杯!」


 敵が距離8000メートルまで詰めた時点で能村艦長が号令。

 癖のある進路変更を見事に決めた「大和」だったが、迎撃と回避は万全とはいかなかった。

 投下された爆弾が、自らも進路を変えながら目標を捉え続けているからだ。

 

 着弾の寸前バークが呻く。

 

「フリッツX!」


 そう、上空から落とされたのはナチス・ドイツの亡霊、誘導爆弾、もしくはその派生型だ。

 

 恐らくソ連がドイツ占領時に奪ったものか、新規に生産したものを、人民軍に機体共々供与したものと思われた。

 しかし、今の今まで戦争に姿を見せなかった兵器だっただけに、奇襲効果は大きかった。

 

 さしものアメリカ最新鋭の迎撃システムも、低空からの奇襲と誘導爆弾の同時攻撃を防ぎきる事はできなかった。

 

 「大和」には、投下された四発のうち二発が直撃、至近弾となった一発がどす黒く大きな水柱を奔騰させる。

 

 また、低空から突進した機体が放った無数のロケット弾が「大和」艦上に十数発が着弾。

 

 当面の損害集計を受けた有賀を蒼くさせた。

 

 1000ポンド程度の爆発威力と思われるフリッツXのうち、一発は艦首甲板を貫き爆発。

 ただし強化した隔壁のおかげもあって被害は最小限。

 兵員居住区の多くを破壊、まるで地層のような艦内区画がむき出しになったが、戦闘に影響はない。

 

 だが残りの損害がある意味致命的だった。

 

 フリッツXのもう一発が、司令塔近くで炸裂。

 1000ポンド程度の爆発威力では司令塔の装甲を破壊するには至らなかったが、周囲の無防備部を破壊。

 さらに爆風が司令塔内部を襲い、能村艦長以下主要なスタッフの半数以上が負傷。

 彼らの任務続行も多くが不可能になっていた。

 

 また、多数放たれたロケット弾は、多くが艦橋構造物周辺に集中。

 ほとんどはむき出しの対空火器を破壊したに止まったが、一部が前部マストと後部艦橋を直撃。

 さらにマストが倒壊するとき、艦橋トップに据え付けられた射撃電探をかすめてしまう。

 

 このため、水上捜索、射撃管制能力は大幅に低下。

 レーダーによる射撃管制はほぼ不可能となっていた。

 上がかすめ取られただけなので、主砲射撃管制所や十五メートル測距儀は無事と思われたが、こちらは実際撃ってみないと分からない。

 

 何にせよ、砲戦能力低下は避けられないだろう。

 

(クソっ!)


 有賀は内心でひどい罵り声をあげた。

 この攻撃のために戦闘を引き延ばす会話をしてきたのかと思ったからだ。

 

 だが、冷静に判断すれば思い違いとすぐに分かる。

 だいいち、それほど彼らの軍全体の統制が取れているとは考えられない。

 また、戦闘開始時間自体に変化はない。

 偶然と必然の結果という、悪魔の計算が成し遂げた成果なのだ。

 

 冷静になったところでバークの声がした。

 

「有賀提督。指揮を」


 まるで主人をうながす従者や乗馬の声を聞くように気を取り直した有賀は、一瞬怪訝な顔をした。

 

(「大和」が被弾しただけ、艦の指揮なら艦長か副長が……)


「ありがとうバーク提督。……砲術長聞こえるか、緊急事態だ。

 本職が艦の指揮も代行する。君はそのままそこを指揮してくれ。損害が気になる」


 バークへの礼もそこそこに艦内電話で砲術長に用件を伝える。

 砲術長の方も、自らが詰める指揮所が気になるらしい。

 本来艦の指揮を引き継ぐべきだが、有賀の言葉に安堵しているようだった。

 

 そして指揮権を掌握した有賀は、全艦に改めて命令を発した。

 

「全艦最大戦速。空襲を警戒しつつ砲雷撃戦に復帰。缶室へ、二十分でいい、限界まで圧力をあげてくれ。今は足が欲しい」


 ◆


「距離二六五、「大和」進路戻ります。船団に向けて進撃再開。速度上がります」


 見張りから報告が入るが、状況は立花や神からも遠望できた。

 大和級戦艦の巨大な前檣楼からは、双眼鏡を使えば三十キロ近く先の艦艇を見ることもできる。

 

「敵進路固定しだい諸元算出、砲撃再開」


 すかさず立花が命令を発する。

 それを横で聞きながら、神が小声で話しかけてきた。

 

「艦長。敵の様子どう思う。見張りは電探用マストが倒壊したと言ってるが……」

「ハイ。ですが、まだ戦闘可能ということです。向こうはアメリカからも指導を受けた海軍です。無茶なことはせんでしょう」

「そうだな。で、こっちも大丈夫か?」


 神はそちらの方が気になるらしい。

 

 なにしろ「大和」の第六斉射でさらにもう一発の九一式徹甲弾を受けたのだ。

 

「ヴァイタル・パートを打ち抜かれ、発電用ディーゼルの半分が全壊。アンテナの一部も損傷。電探の能力が落ちました。ですが、全力発揮は可能。この天気と距離なら光学照準だけで十分です。けど、こっちも接近しますよ」


 言葉の最後に立花が挑戦的な顔を向ける。

 

 それを目にした神は、しばらく神妙な顔をしたあと破顔した。

 

「立花どん、よか顔ばい」


 そんな神に立花の態度もほぐれ、また戦意が高まるのを感じた。

 

(そう、ここを凌がなければ、西たちの乗る船団を、そして国を守ることができなくなる)



 ◆


「バーク提督。A部隊はなんと?」


 敵に向けての突撃を再開した「大和」指揮中枢は、再び重苦しい雰囲気で包まれていた。

 

 それは、バークが最高位ということで通信長から受けた電文にこう記されていたからだ。

 


発:国連日本援助軍司令部 宛:作戦参加全部隊

 国連日本援助海軍A部隊・D部隊に、人民空軍による大規模な攻撃あり。

 

 D部隊は健在。

 A部隊は主力艦二隻に大損害。

 

 さらにA部隊はソ連義勇艦隊の追撃を受け、現在残存艦艇が交戦中。

 

 なお、A部隊司令部は敵船団追撃を断念せり。

 


 バークから受け取った紙面を見ながら、有賀の顔が無表情に近くなった。

 緊張、嘆息、重責への心理的圧迫。

 様々な想いが顔を無表情にさせているのだ。

 

 だが逡巡も一瞬。

 表情を改めた有賀は、バークへ言葉をかけようとした。

 もっとも、バークの方もすでに心理的衝撃からは立ち直っており、有賀の気持ちに気付いて小さくうなづき返す。

 

 そこに、危険分散のため第二艦橋で操艦に当たっていた航海長から通信が入る。

 

「進路固定完了」


 続けざまに通信が続く。

 

「敵艦隊との距離260(26000メートル)。その後方の船団との距離430(43000メートル)。敵艦隊速力24ノット。完全に反航しました」

「射撃装置正常に作動中、いつでもいけます」

「敵艦発砲!」


 最後の報告を聞いた有賀は、六年半ぶりの命令を発した。

 

「撃っ!」


 それからは、激しい砲火の応酬となった。

 ただし双方電波の目がかすみ、相対速度50ノット(時速90キロ)ではなかなか命中弾を得る事は難しい。

 

 距離はますます接近していたが、十分もあればすれ違う。

 その間十数斉射が精一杯。

 四十秒に一度斉射弾を浴びせるとしても、二十回が限度。

 しかも進路は少しずつ朝鮮半島に近づいており、「大和」の方は交差するまで戦闘をするわけにはいかない。

 その上「武蔵」を撃破するか振り切るなりして敵船団に達しなければ、作戦目的を達成できない。

 

 しかも国連軍全体で、目の前の獲物を捉えることができるのは、今や「大和」ただ一隻。

 そして全ての障害をはね除け目的を達成したとしても、行う事は十万人の将兵の大殺戮だった。

 

 任務は苛酷になるいっぽうだというのに、達成したとしても人として喜べるものではない。

 

(二律背反とはこのことかもな)


 相変わらず真っ赤に奔騰する、場違いなほどカラフルな水柱を見ながら有賀はそう思った。

 


 ◆


「損害報告!」


 今日何度目かの同じ命令を発した立花は、今一度大和級戦艦に惚れ直していた。

 

(すごい艦だ。自分と同じ武器をちゃんと弾いてるぞ。

遠距離で貫かれた時はどうかと思ったが、どうだか、たいしたもんだ。しかも向こうも同じだ。命中弾の半分以上は弾く上に、いまだに元気いっぱいだ。よほど中身を強化したんだろうな)


 ただ、思うだけでは済まされない。

 それに損害は着弾のたびに確実に増えていた。

 

 不沈艦といえど無敵ではない。

 しかも鏡に殴りかかっているようなものなのだから当然だ。

 

 もっとも、地獄の扉が徐々に広がっているというのに、隣りに立つ神はいまだに上機嫌だ。

 

(ただ眺めているだけなんで、神の旦那は気楽なもんだな)


 立花は内心悪態をついておいて、矢継ぎ早に指示を出す。

 次が来るまでたったの四十秒。

 人間の方が被弾の衝撃から回復する時間を差し引けば、三十秒あまりしか時間は与えられない。

 

 そして、今日十数射目になる轟音が響き渡った。

 

 相変わらずの全門斉射だ。

 

 自分と同じモンスター相手に、交互斉射などしていられない。

 

 だが、それももうすぐ終わりだ。

 

 それを象徴する報告が、敵弾着弾の数秒前飛び込む。

 

「距離180(18000メートル)」

「ダンチャ〜ク、今!」


 ◆


 着弾の瞬間、今までにない衝撃が襲う。

 思わず有賀は七年前を思い出したほどだ。

 そして、彼の感覚は間違っていなかった。

 

 ヴァイタル・パートをまともに貫かれたのだ。

 

 今までにない激しい衝撃に、隣のバークが尻餅をついている。

 

(どうだい、バーク提督。これが四十六センチだぜ)


 尻餅をついたバークにチョットしたおかしみを感じた有賀は、ほんの少しだけニヤリとすると、次の瞬間にはこちらもお馴染みとなった言葉を次々に口にしていく。

 だが、今までになく緊迫感を含んだ声となる。

 

 そう、今のはかなりやられた筈だからだ。

 

「左舷外側機械室被弾。機能停止。死傷者多数発生」


 有賀が思った瞬間、決定的な報告が舞い込んだ。

 

 有賀が命令を発するより先に、内務長や副長が迅速に対処しているが、4つのタービンのうち一つが完全に破壊されたことは疑いない。

 

 他の隔壁を貫かれたり、誘爆しなかっただけ幸運だと考えよう。

 ソフト、ハード両面でのアメリカ製防御方式のおかげだ。

 戦中の「大和」なら、どうなっていたか分からない。

 

 しかも生まれ変わった「大和」も「武蔵」に負けていない。

 

 有賀が「武蔵」を一瞥したとき、堅固なはずの三番砲塔からの発砲炎がなかったからだ。

 


 ◆


「やってくれたな有賀」


 先ほどの上機嫌もどこへやら、「武蔵」を大きく傷つけられた立花の怒りは大きかった。

 

 カウンターで浴びた「大和」の砲弾が二発、まとまって三番砲塔前楯に激突。

 650ミリの装甲は貫通こそされなかったが、主砲のうち一本が衝撃で折れ曲がり、九万トンもの運動エネルギーでバーベットリングが歪んで旋回も不可能となった。

 

 内務長からは、砲塔内の誘爆なし、ただし砲塔員の過半が昏倒という報告もあった。

 

 誘爆していないのはけっこうだが、これで戦力は三分の一減だ。

 

(手早く片づけなければ)


 この戦いで始めての焦りが立花に押し寄せた。

 

 そう、相手はいまだ全力で砲撃可能な大和級戦艦なのだ。

 前年倒したヤンキーのブリキ戦艦とはワケが違う。

 

 しかし、次の発砲をする頃、ヤンキーの力によりさらに巨大無比となったはずの「大和」に変化が訪れた。

 足が鈍りだしたのだ。

 



「左舷外側機械室被弾の影響で、内側のタービンも機能低下。最大速力概算は二十一ノットです」


 追撃を断念するかどうかの数字だ。

 巡洋艦や駆逐艦だけでは、まだ戦闘力を維持している「武蔵」に追いつく事は出来ても、砲撃で追い散らされるだけだ。「武蔵」以外の艦艇も、大きな脅威となる。

 

 しかも状況はもっと悪い。

 だからこそ有賀はあえて問いかけた。

 

「主舵は大丈夫か。事実上の右軸二つで無茶をできんだろう」

「はい、できれば十六ノット。長い時間走らせるなら十二ノットがいいところですね」


 艦内電話から航海長の残念そうな声が響く。

 

 だが有賀は、その雰囲気を押しのけるように続ける。

 

「だが、惰性でしばらくは持つ。それまで砲撃の諸元のため二十一ノットで持たせろ。あとは十六ノットあれば、敵船団にはギリギリ追いつける。全艦隊も、こっちに合わせさせる」


 有賀の言葉は、「大和」が釜山沖で朽ち果てる可能性の極めて高い言葉だ。

 二ノットの差では、船団を捕捉できても朝鮮半島ギリギリ。

 たとえ停泊に入るであろう船団を壊滅できたとしても、自らも沿岸砲台や遮二無二攻撃してくる空軍の餌食になるだろう。

 しかも他の友軍艦艇も巻き添えだ。

 

 そして国連軍司令部が、そんな無茶を認める筈がない。

 随伴する重巡洋艦や水雷戦隊からは突撃の許可を求める通信が入っているが、「武蔵」が健在な以上、許可するわけにはいかなかった。

 

 だから、それ以上有賀は言葉を続けない。

 

 今はただ砲撃戦を凝視するだけだった。

 とにかく相手の戦闘力を奪えば、彼の勝利なのだ。

 



 双方がそれぞれ重大な損害を受けた後、戦闘は下火へと傾いた。

 3分ほどは同じように殴り合いを続けていたが、「大和」は数分で速力が定まらなくなり、「武蔵」は相手の速力低下にかえって翻弄された上に、火力の三分の一を失っていたからだ。

 強いて言うなら、砲力で勝る「大和」優位というレベルだ。

 

 通常なら、双方とも撤退を考えなければならない潮時といえるだろう。

 

 立花の目にも、「大和」の速力が大きく低下しているのが分かる。

 だから数分前の焦りも消え、希望的考えを持ちつつあった。

 

(おそらくこれで……)


 そんな想いが通じたのか、それとも冷静に判断しているのか、神が双眼鏡に目をつけたまま独白するように口を開いた。

 

「立花どん、そろそろ潮時じゃなかか」

「しかし次長。このまま押せば「大和」を撃沈できるかもしれません。それに「大和」はまだ戦闘力を失ってはいません」

「そげん気張らんでもよか。「大和」ば沈めても意味はなかよ」

「……次長」


 立花の次長という言葉にようやく我に返ったのか、双眼鏡を下ろすと立花に静かに告げた。

 

「失言だった。だが、我々の任務は殿として船団の護衛であって、敵艦隊の撃滅ではない。同じ日本海海戦だからといって、東郷さんに習わなくてもいいとは思わないか」


 神の顔はいつもの憑き物が落ちたような穏やかさだった。

 その顔は告げている。

 

 もう国へ帰ろうと。

 

 そこに衝撃は訪れた。

 

 超越者の気まぐれか、それとも人の執念か、「大和」の砲弾が一発命中したのだ。

 もちろんこの距離、舷側装甲を打ち抜かれている。

 

 神の言葉を聞いた後では、なんだか「大和」までがもう帰れと殴ってきたように感じた。

 

 そんな「大和」にも、「武蔵」の砲弾が一発命中している。

 どうやら艦首喫水下に命中したらしい。

 

 これで彼らの船団撃滅は、完全に不可能だ。

 

 立花も決断した。

 

「分かりました次長。帰りましょう我々の国へ」


 神は静かに頷くと、各所に命令を発し始めた。

 

 全艦隊、最大戦速にて戦場を急速離脱せよ、と。

 


 ◆


 「大和」の第一艦橋では、煙を噴き上げる巨大戦艦が悠然と立ち去るのが目撃できた。

 

 見張りの報告では二十七ノット以上出ているらしい。

 随伴する妙高型の重巡洋艦や駆逐艦も、こちらの動きを警戒しつつも同じように離れつつある。

 それに引き替えこちらは、最後の被弾で頑張っても十四ノットが限界だ。

 四十ノットでる駆逐艦もいるが、突撃させるわけにはいかない。

 

 さすがの有賀も、追撃を断念するしかなかった。

 

 しかしその瞳は「武蔵」を見据えたままだ。

 

 そんな有賀の肩に静かに手が置かれた。

 

「有賀提督。いや、幸作。もう終わったのだよ。君は十分任務を果たした。もうよいのだ」


 手の先には険しい顔の中にもやさしい目を湛えたバークがいる。

 

「それに見たまえ。彼らは帰るのだよ、彼らの国へ」

「彼らの国へ、ですか」

「そうだ、彼らの国。彼らの祖国ホームへだ」


 最後にバークは力強く言った。

 

 それに釣られるように有賀も呟いた。

 

 リターン・トゥ・ホームと。


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