表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/70

第29話 妖精の勘は当たるのか?

 俺たちがそばへ行くと、おっさんは回廊に立ち並ぶ石像の一体を指差した。見るからに聡明そうな女……いや、女神の像だ。右肩に梟、左腕に鴉を止まらせてる。


「知恵の女神クレネの像ね。梟は英知、鴉は狡知の象徴よ」

「この像がどうかしたのか?」


 デュラムが腕組みして、おっさんに問いかける。するとおっさんは、石像の台座を指差した。


「見たまえ。ここに、何か書いてあるようなのだよ」

「どれどれ……ああ、確かになんか書いてあるな。擦り減ってて、よく見えねえが……」

「あたしにも見せて♪」


 むぎゅう! サーラが俺を押しのけるようにして、台座をのぞき込む。あんまり俺の方に顔を寄せてくるもんだから、内心どきっとした。

 そ、そんなにくっつくなってんだ。俺たちゃ別に、恋人同士とかじゃねえんだぜ……?

 幸い魔女っ子は、俺の動揺なんかにゃ気づく様子もなく、一心に台座を見つめてる。


「うーん……これまた魔法(ルーン)文字の文章ね」

「な、なんて書いてあるんだ?」

「せっかちね、ちょっとは待つってことを知りなさいよ」

「へいへい!」


 やれやれだぜ。

 魔女っ子は、消えかかった文章を穴が開くほど見つめた後、溜め息まじりにこう言った。


「読み取れるのは、ごく一部ね。『リュファトは回り、セフィーヌは進む。ロフェミスは退き、道は開かれる』って書かれてるわ」


 謎めいた文章だな。どうやら英知と狡知を司る女神は、謎々好きの獅子女(スフィンクス)のように、俺たちと知恵比べがしてえらしい。


「道は開かれる? 『道』ってのは、この宮殿の入り口を指してるんじゃねえかな?」

「ありえるわね」


 だが、それ以前の部分は、なんのことやらさっぱり。俺にゃちんぷんかんぷんだ。


太陽神(リュファト)は回り、月の女神(セフィーヌ)は進む? 星の神(ロフェミス)は退き……わけわかんねえぞ」


 人間の姿をした神々が、両手を頭上で合わせて「あ~れ~っ!」って回転したり、偉そうに腕を組んでずんずん前進、後退したりする様を想像してみる。

 ……なんだか、すごく滑稽だな。

 特にくるくる回るなんざ、馬鹿っぽくて、とても神様のすることとは思えねえ。


「回る、進む、退く……そうか」


 尖った顎に右手の親指、人差し指をそえ、考え込んでたデュラムが、何か思いついたようだ。


「森の神ガレッセオと風神ヒューリオスにかけて、謎はすべて解けたぞ」

「本当かよ?」


 妖精(エルフ)の美青年は、自信ありげにうなずいた。


「ここにある石像の中から、リュファト神とセフィーヌ女神、ロフェミス神の像を見つけ出し、この文章の通りに動かす。そうすれば、隠された入り口が現れるに違いない」

「『回る』とか『進む』『退く』とかっていうのは、石像の動かし方を示してるってこと?」

「そういうことです、サーラさん」

「そう思う根拠は、何かね?」

妖精(エルフ)の勘だ」

「勘かよ!」


 それってつまり、なんの根拠もないってことじゃねえか。


「けど、やってみる価値はあるんじゃない?」

「そりゃまあ、そうだけどさ……」


 結局、デュラムの言う通りにしてみようってことになった。隠された入り口が現れりゃそれでよし。何も起きなくたって、ちょいと骨折り損をするだけだしな。

 まず最初に動かすのは、太陽神リュファトの像。これは、すぐに見つかった。宮殿の右手に、そこそこきれいな状態で残ってたんだ。

 神々の頂点に君臨する最高神の像は、日輪みてえな冠をかぶり、右手で太陽をつかんで高々と持ち上げてた。

 魔法(ルーン)文字の文章にゃ「リュファトは回り……」とあったよな。ってことは、この像をぐるりと回転させりゃいいわけだ。


「「「「いっちにーのっ、さんっ!」」」」


 四人がかりで少しずつ、少しずつ回していく。


「い、意外と回るもんだな。この大きさだから、もっと、苦労するかと、思ってたが……!」

「しゃべってないで、もっと力を入れなさいよ!」

「へいへい! ……ちぇっ、また姉貴面しやがって」

「何か言ったかしら?」

「い、言ってねえって!」


 軽口を叩き合いながら、ちょうど一回転させたときだった。何やらゴトンと妙な音がして、像はそれ以上動かなくなった。どうやら、これでいいみてえだ。


「よっしゃ、次いってみようぜ!」


 お次は、月の女神セフィーヌの像。これは宮殿の左手――リュファトの像のちょうど反対側にあった。月輪のような小冠(ティアラ)をかぶり、両手で三日月を抱えてる。顔にゃ、太古の大らかさと神秘性を感じさせる古拙な微笑み。リュファトの像より一回り小さいが、状態はこっちの方がずっといい。

 魔法(ルーン)文字の文章にゃなんてあったっけ? 確か……「セフィーヌは進む」だったな。これは、像が向いてる方へ押せってことなんだろう。


「「「「そーれっと!」」」」


 しばらく押すと、再び妙な音がした。


「残るは一つね♪」


 リュファトがセフィーヌとの間にもうけた息子の一人、星の神ロフェミスの像。こいつは見つけるだけでも一苦労だった。七つの星がちりばめられた剣を持って、宮殿の裏手に立ってたんだが、三つの中じゃ一番小さくてさ。おかげで、なかなか気づかなかったんだ。

 魔法(ルーン)文字の文章にゃ「ロフェミスは退き……」とあった。それなら、像の向きとは逆の方向へ押してやろう。


「「「「いっせーのーでっ!」」」」


 ズズズズズーッ! もういいだろうってところまで動かした、ちょうどそのとき。三度(みたび)妙な音がしたかと思うと、宮殿が――いきなり地響き立てて、震動し始めた!


「な、なんだ?」


 最初は地震――大地の女神トゥポラの怒りかと思ったが、違うみてえだ。〈樹海宮〉の中で、何か起こってるらしい。


「危険だわ、離れた方がいいみたい!」


 砂や小石が、パラパラと降ってくる。両手で頭をかばい、どうにかその場から逃げ出した。昨夜野宿した泉のほとりまで逃れ、ほっと胸をなで下ろす。


「――ふう。ここまで来りゃ、もう大丈夫だろ」


 そう言いながら、俺は〈樹海宮〉の方へと向き直り――そして、見た。〈樹海宮〉の正面に、ぽっかりと穴が開くのを。壁の一部が轟音を上げて左右に開き、隠された入り口が現れるのを。


「驚きの女神ラプサにかけて、なんてこった……!」


 どうやら、妖精(エルフ)の勘が当たったらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ