まさに、運命だ。
アフターストーリーでちょっとずつ再開させていきます!
今日は、フローラとフレイに、僕の両親と会わせると約束していた日だ。
「ついに……ついにっ! リオのご両親にお会いできる!」
「そんなに期待されても、本当に普通の両親だよ」
「嘘だね! 絶対スーパーヒーローだよ!」
なぜかフローラに力一杯否定された。
「嘘って……ていうかスーパーヒーローって」
「だってリオの両親なんだよ! 普通なわけないじゃん!」
「いやいや、普通だよ……フレイはどう思う?」
「……正直、なんともいえないわね……普通だとは思うけど、だってリオだし……しかもリオの両親だし、普通とは思えないわね……」
「なんなのそのよくわからない評価……」
なんだか両親が過大な期待をされている。ま、まいったな……本当に普通の両親なんだけれど……。
-
久々の家だ。パーティハウスに移り住んでから、帰ることは全くなくなっていた。それだけ雪花魔術団としての毎日が忙しかったともいえる。
「わー、ここなの? 私の家も大概変な場所だったけど、リオのおうちってすっごい山奥だー」
「人の目が好きじゃないし、他の人を見るのもあまり好きじゃない変わった両親だったからね。フローラの両親もそのうち見せてね」
「やだ」
会話の流れで普通にとりつけられるかと思ったら、思いの外はっきり拒否された。
「え、ええ……?」
「また今度ね」
「永遠に会えなさそうな気がするよ……でも一度は挨拶に向かいたいんだけど」
「うっ! そ、そうだね! ご挨拶しないとね! っていうかそうだった、迂闊に押し込めたまんま結婚なんてしようものならあの二人が出てきてしまう可能性があったんだった……」
「出てくるって、フローラの両親が?」
「うん……出てきたらチョー目立つから困るんだよぉ〜……」
「そんなに目立つんだ。じゃ、やっぱり会いに行かないとね」
「ううう……うん、わかった……そのうちね……」
よし、言質は取ったぞ。でも、そんなに会わせたがらないものかな?
僕とフローラが話をしていると、フレイが横から袖を引っ張ってきた。
「ちょっと、この扉の前で待たされるとかないんですけど。早く入りなさいよ、あたしから入るわけにいかないでしょ」
「ああ、そうだったねごめんごめん。じゃ、久々に帰りますか」
フレイに催促されて、僕は自宅の扉を開けた。
「ただいまー。あ、入っていいよ。狭いけどリビングにでも向かおう」
僕は二人を招き入れて、そのまま入って行こうとして、リビングの扉が開く音を聞いた。
「リオ、その声もしかしてリオかい!?」
「っぽいよなさっきの? 急だなー」
久々、といっても3年ぶりぐらいの両親がやってきた。さすがに数年で見た目は……そんなに変わってないかな?
「自分の家だし、わざわざ連絡もいいかなと思って急だけど帰ってきたよ」
「ええ。ひさし、ぶり……ね…………」
母さんの様子が……父さんも…………? ……ああ、そうか。そりゃそうか。
「紹介するよ、僕の所属しているパーティメンバーのフローラとフレイだ」
「わあ、これがリオのママなんだね! どうもどうもー! フローラでっす!」
「あの、えっと、あたしフレイ・エルヴァーンです。そこの、男……じゃなかった伯爵家の者です。よろしくお願いします」
フローラは明るくいつもどおりに、フレイはがっちがちに緊張して挨拶した。
「……ええっと、とりあえず立ち話もなんですから、あまり綺麗ではないリビングですが、そちらまでどうぞ」
「はーい!」
「お、おじゃまします……」
母さんに先導され、僕たちは家の中に入っていった。母さんと父さんは、しきりにフレイと、特にフローラの方を見ていた。
フローラはフローラで、父さんと母さんを見て、首を傾げていた。
-
煉瓦造りの狭い部屋だけど、そこそこ長いテーブルがあったことと、椅子の予備があったので、全員が座ることができた。
……さて、何から話したものかな……。
「ええっと、とにかく話すことが多いんだけど、まずは報告。フローラをリーダーとして僕と彼女で雪花魔術団という冒険者パーティを作って、そこにフレイが途中参入して、3人でSランクになりました」
「……なるほど、Sランクか……」
「うん」
「まあ、メンバーにさせてもらえてるなんて、パパすごいわね」
父さんと母さんは、二人ともフレイを少し見て、フローラをじっくり見て、特に驚いた様子もなく頷いた。
「リオ、お前いいメンバーを捕まえたなあ……」
「本当にそう思うよ」
「大した才能に産んでやれなかったが、ここまで運がいいなんて、いやはや天運に恵まれたってやつかな」
「はは、それ僕もずっと思ってるよ。勿体なさ過ぎるなーって」
「あまり足を引っ張って恥をかかせるなよ」
「自信はないねー」
僕と父さんが久々に明るく会話していると、フレイが口を挟んだ。
「ま、待って下さい! お言葉ですが……! リオは非常に優れたサポートコマンダーとしてたくさんの知識を備えて、それに魔術の指導もしてくれました! 彼は運だけでSランクのメンバーになったような人ではないです!」
急にフレイが大きな声を出したので驚いた。フローラは腕を組んでうんうん頷いている。……フレイ、もしかして僕があまり褒められてないと思って怒っている?
……ああ、やっぱりこういうところ、フレイっていい奴だなあ……。
「フレイはやっぱり優しいね」
「えっ——!? な、なによ!? 当然のことじゃない! 今みたいな会話されて! あたし! あたしあんたに随分世話になっちゃったのに、それを運だけなんて!」
「いや、僕にとってはそうだと思う話だよ」
「なんでよ!?」
今の会話で急にフレイが僕のことで怒ったことに、父さんだけでなく母さんも驚いていた。
「……何か気に障ったようですね、フレイ殿と言いましたか。申し訳ないことをしました。ここまで出来の悪い息子を買ってくれて、親として本当に嬉しいです」
「それ! そういうところです! リオはあたしに魔術を教えてくれて、あたしに雷が得意なこと、光魔術が使えることも教えてくれたすごい人なんです!」
「雷が得意なこと、って、そんなの誰でも見れば分かるじゃないですか」
「————えっ」
「……それにしても大きい魔力だ。隣のフローラ殿に比べれば大幅に見劣りはするが、それでも尋常ではない。息子の数倍は軽くありそうだ。どうしてそこまで魔力を持っていて息子のパーティを選んでくれたのか、気になりますね」
「パパ、多分それはフローラさんがいたからじゃない?」
「ああ、そうか。フローラ殿ほどの魔力の持ち主がいれば惹かれるのは当然か」
「—————」
フレイは、二人の会話を聞いて完全に固まっていた。フローラはなんだかすっごい笑顔になって目をきらきらさせていた。
……そうだった、そこから説明しなければいけなかった。
「えーっと、父さん、母さん。冷静に聞いて欲しい」
「ん、なんだい改まって」
「今、魔力総量と色を見ていたね」
「見ていたねって、まあ見ていたよ」
「そのことなんだけど———
——普通の人間は魔力は目で見えないんだ」
…………。
「はは、何言ってるんだ」
「見えないんだよ。僕も魔術学園に入ってフローラと会話するまで気付かなかったけど、普通の人は魔力は見えないんだ」
「……。本当なのか?」
「それどころか、王国に10人もいないぐらい貴重な能力らしいんだ」
「さすがにそんなことは…………そんな、ことは……? えっ……魔力ですよ? ほら、フレイさんの体に赤とか紫とかでくっついている……見えます、よね? 見えませんか?」
父さんも、隣でぶんぶん首を横に振っているフレイを見て確認を取って、段々と言っている内容を理解し始めた。
「リオの言ったとおりですよ。というか、あたしリオに比べてそんなに魔力あるって今知りました。その上であたしとフローラって、そんなに差があるんですね」
「えっと、フレイさん、ホントに見えてないんですね?」
母さんの方も会話に参加してきた。
「ええ、全く。フローラも見えてないわよね?」
「まったくみえないよ! ていうか私どんだけ魔力あるんだろうね! 自分で自分の魔力見てみたいよ!」
フローラの疑問、そういえば必要なかったから正確には言ったことはなかった。
「フローラはね、僕の30倍以上かな」
「ちょっとリオ、あたし初めて聞いたんだけど。このぽんこつ巨乳馬鹿どんだけなのよ魔力、リオ基準だとまだよく分かんないんだけど」
「こないだ会った聖女様4人分、魔術王様で比べても3人分だね」
「は——————!?」
フレイはその具体的な比較対象を出して絶句した。……まあそりゃそうだろう。比較対象が比較対象だ。魔術王様はこの国でも有名な国王陛下の弟で、王国最強の魔術師と言われている。
「ねえ、待って。じゃあフローラって」
「文句なしに、今王国で最も強い魔術師は、フローラだよ。全員を横に並べると恐らくフレイも10位以内の上位に入るだろうけど、2位の魔術王様を含めて2位以下が横並びになってしまうぐらい、ぶっちぎりで1位がフローラ」
「……はは……そんなに、なのね……改めてこいつに挑んで負けたことに凹んでいた、あたしの時間の無駄さ加減に呆れるわ……」
フレイはがっくりとしながら、隣のフローラをじっとり睨んだ。フローラは僕の評価を聞いて、えっへんと胸を張ったところで、フレイにそれを鷲づかみにされていた。
フレイは「ここかー! ここに溜め込んでるなー!?」と叫んでいたけどそこじゃないですっていうか両親の前でやらないで!
「……そうか、魔力って見えないものなのか」
「ん、そうだよ。魔力視っていって結構王都に行ったら貴重で人気な能力なんだ。仕事でも探しに行ってみたら」
「……いや、やはり他の人と会うのはあまり得意ではないからね。この能力はひっそり腐らせておくことにするよ」
「そう? まあ僕も公には秘密にしてるし、広まると面倒事に巻き込まれそうだからそのままでもいいと思うよ」
「そうか。しかしあれだなあ、リオに魔術を教えたけど、もう一人、教えちゃった人がいたんだよなあ……」
父さんは懐かしそうに視線を上に向けて思い出すようにしていた。
「……もう一人? 僕以外にも誰かに魔術を教えたことが?」
「ああ。といってもリオが産まれるもっと前さ。それこそ、私もママも……5歳ぐらい、だったか?」
「ふふ、懐かしいわねパパ」
母さんも話に加わってきた。5歳ということは知らなくて当然だ。父さんと母さんは現在33歳、つまり28年前の話だ。
「……ま、待って下さい! 30年ぐらい前で、二人とも魔力視で…………も、もしかして、もしかして……!」
フローラが急に声を上げて立ち上がった。
「ローレンス様ですか……!?」
———え!?
フローラが挙げた名前は。紛う事なき僕の父親の名前だった。……今までの話の流れで、まだ、言ってないはずだ……よな?
急に名前を出されて、フレイはもちろん怪訝な顔をしていたけど、父さんが「なぜ私の名を……?」とつぶやいたことにより、驚愕の顔と共にフローラを見た。母さんも驚いていた。
「ほ、ほんものだ……ほんものだーっ!」
フローラはそのまま立ち上がると……なんと椅子に座ってる父さんに飛びついて、そのまま抱きついた。急に動いたので反応が遅れる。
父さんは固まっていて、母さんも固まっていた。
「———!? ななななにやってんのよーーーッ!」
それに真っ先に反応したのはフレイだった。僕の父さんの体にその胸を押しつけていたフローラの脳天を、フレイのチョップが直撃する。明らかにヤバイ音とともにフローラは「ギャーッ!」と女の子らしさのない本気の声で叫んでうずくまった。
そのフローラの頭を掴んで、こめかみに握り拳を当てた。
「まってやめてまってごめんなさいリオの前でやめてグリグリはやめて本当にやめてくださいごめんなさいごめんなさい何でもします全部あげます許して下さい」
フローラは顔を真っ青にしながら涙目になっていた。……よっぽど痛いんだろうなあれ……。
フレイはじーっとフローラを見ていたけど、やがて大きく溜息をついて両手を離した。フローラは本当にほっとしたという顔でへたり込んだ。
そんなフローラの脳天に、フレイは再びげんこつをお見舞いする。当然ものすごい激痛で、フローラは再び「ギャーッ!」と叫んで頭を抱えた。
「折角の彼氏のご両親にご挨拶に来れたというのに、初対面で母親の前で父親に色仕掛けするガールフレンドがいてたまるかこのクソアホサキュバスがァーーーッ!」
「あああっ! ごめんなさぁ〜い!」
「折角あたしの両親をクリアしたってのに、あたしまで巻き添え喰らって追い出されたらマジで二度と口利かんぞ!?」
「ううう〜っ……」
「…………あ、えっと、あの、お母様、これはその、この子は別にそういうその、あれではなくてですね、悪気はなくてですね……」
最悪の展開の可能性に、恐怖に震える顔をしながらしどろもどろで説明するフレイに、目の前で起こった急展開に目を白黒させていた母さんだけど、やがて状況を理解して、父さんと目を合わせた。
「ええと、その、私は気にしてないわ。だからあんまりその子のこと、いじめないであげてね。可愛い子だから、かわいそうで」
「ううっ優しい、さすがあのリオの親、ありがとうございますお母様……」
フレイは心底安心したといった様子でへたり込んだ。そこへ父さんが声をかける。
「……今、彼氏とか、ガールフレンドとか……両親をクリアしたとか言っていたように思いますが」
「———あっ!」
「もしかしなくても、結婚するつもりがあるのですか?」
……まあ、そりゃあそこは聞き逃さないよな。そこからは僕が話を引き継いだ。
「うん、父さんと母さんにはさすがに話を通そうと思って。僕もフローラも爵位持ちになる上にフレイは元々貴族でね、二人とも僕の妻にしたい」
ここまではっきり宣言したのは初めてだった。フレイもフローラも、顔を真っ赤にして俯いていた。
「えーっと、ホントに? この二人とリオが?」
「そうだよ」
「弱み握ってとかじゃないよな?」
「ないって」
「そ、そうか……」
父さんと母さんは、二人の方を見る。二人とも緊張した様子で椅子に座り直す。
父さんは軽く宣言した。
「私は反対する理由がない。ママは?」
「ちょっと確認したいわ」
そう言って母さんは、二人を見た。
「本当に二人とも、この息子でいいんですか?」
「えーっと、リオには私から好きだって伝えたようなものというか。リオみたいに優しい男の人っていないから。みんなスケベだしいたずらするし。リオって本当に理想的で、一番好きで、私はリオが駄目なら一生独身でいいです」
「フローラさんはそこまでリオを……。フレイさんは?」
「あたしもです。あたしが出会った騎士学校の男は乱暴だったし、貴族の男は平民を見下すようなヤツだし、討伐対象になった男はエルフを見下すようなヤツだし。リオが駄目ならあたしも多分誰とも結婚しません。
……あ……すみません思い出しました。あたしはその、混血、なんですけど、あたしみたいなの、大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫って、何がでしょうか。混血だと、何か問題があるんですか?」
「……いえ、体は人間そのものです。ただ十六分の一ほどエルフなんですが……」
父さんが口を挟んできた。
「言ってる意味がよくわからないですが……」
「あっ、パパ。多分これ差別問題みたいな話よ、多分。自信ないけど」
「ああ、そうか。世間には疎いので、全く思い当たりませんでした。差別の話だと気付かず申し訳ありません」
「…………」
フレイは、ぽかんと気の抜けた顔をしていた。そしてフローラを見て、肩を上げてくすりと笑った。フローラは満面の笑顔をしていた。
「わー! やっぱリオの両親だねー!」
「あたし、差別に気付かなかったことで謝られるとか初体験だわ」
僕は二人の様子を見て、両親の反応が良かったことに安心した。
「二人とも反対しないということでいいのかな?」
「逆にどうやったらこんな超優良物件の魔術師二人を逃せなんて言うんだよ、リオお前この野郎とんでもない色男になってたな!」
「僕自身なんでこんなに凄い二人にモテているのか自分でわからないから妥当な評価だと思うよ!」
「私は幼なじみのママ一人捕まえるのがやっとだったから驚きだ」
「その魔力視持ちの万能魔術師の母さんを幼少期に捕まえてた時点で父さんも大概だと思うよ!」
僕は父さんと軽口を言い合って笑った。うん、本当に幸せな相手に恵まれたなって思う。理由を聞いた今でも僕を選んでくれたことが信じられないほどだ。
「……ところで、先ほどの……結局よく分からないので説明していただきたいことがあるんですが」
父さんがフローラの方を見た。
……そうだ、結局二人の正式な挨拶でその問題を流してしまったけれど、僕も気になったことだった。
「なぜ私の名前を?」
「えと、その前に。ローレンス様ということは」
フローラは、母さんの方を見た。
「ドロレス様で間違いないですか?」
……やっぱり。僕の両親の名前を知っていた。
「は、はい。ドロレスです」
「す、すごい! ほんものだ! ほんものの——
——ラリーくんとローリちゃんだ!」
……なんと、フローラは。
僕の両親を愛称で呼んだ。
しかも年下のように呼んだ。
両親は、お互いのことをパパとママと呼ぶ。だから、愛称のことは僕でさえ知らない。つまり……フローラは、既に僕よりも両親に詳しい。
これにはさすがに本気で驚いた。もうフローラ以外この展開に置いてけぼりだ。
……一体なぜ?
「あっ、お二人ともまったくわからないって顔をしてる!」
「全く分かりません……」
「ええ、フローラさんはなぜ私たちのことを? しかも愛称なんて、リオが産まれた時にはやめていたのに……」
フローラはその展開を予想していたように、僕の方を見た。
「やっぱり、運命ってあるんだよ! 全ては繋がっていたんだ! フレイが英雄譚の主人公なら、リオは主人公でありヒロインだから、私が観測できるのは必然のことだったんだ!」
「ど、どういうことなの!? 全くわからないよ」
「魔力視だよ!」
その単語。
その言葉がこの場面で出てくるということは……。
「私が魔力視を知った切っ掛けは、英雄譚なの。最初は冒険者物語だと思っていたけど、パパに確認したらその答えがあった。『魔術王伝説』。そこにはね、当時落ちこぼれだった英雄の卵である魔術王さまが土精霊に魔術を教えてもらって強くなる過程が書いてあるんだ。
まーいわゆる主人公最強モノっていうやつで、主人公が最弱かと思ったら、あっさり一瞬で最強になっちゃって最後の最後まで一方的に無双しちゃうのが人気英雄譚の『魔術王伝説』だよ。もう十版以上作られたの」
魔術王様。今挙がった名前のうちの一人だ。
王国最強の魔術師である王族。……ただし、フローラを除いて。
「でもね、うちにあったのはスーパーレアな本なんだ。『魔術王伝説 第一版』。その内容はね……ちょーっと違うんだ。……山の中で出会ったのは土精霊じゃないの。魔力が視える少年と少女、ラリーとローリという二人の茶髪の子供たちに山奥で出会い、魔法を教えてもらったという内容なんだ」
…………!
ま、間違いない、両親のことだ……!
ってことは、両親が魔術を教えていたという人物は、当時の王国屈指の人気兄弟の第二王子様である、若き魔術王様その人……!?
「魔術王さまの自叙伝として語られたそれは、まずは第一版はそのまま少部数で出版されたの。私のパパとママは英雄譚とか冒険者物語大好きだったから真っ先に買ってきていたんだ。でもその内容のあまりにも荒唐無稽さに失笑を買って修正されることになったんだ。
……当たり前だよね、王国が血眼になって探しているレア中のレアである現在年寄りだらけの魔力視持ち、それが子供でしかも二人同時に見つかって、魔術王伝説の核心部分が「5歳の子供に教えてもらったら一瞬で最強になったよ」だなんて。
魔術王自身も、さすがにそんな偶然は有り得ないと思ったのか、次からは修正されちゃって、『魔術王伝説 第二版』ではラリとロリという、人間ではなく精霊だったということになったの。
だから、第一版の魔力視を持った人間という話自体がすごくマイナーなんだよ」
……知らなかった。魔力視の話が、そんなところから発見されていたなんて。
じゃあ、フローラが魔力視の話を持ちかけたのは……!
「……ね、ね! すごいよね! 私がリオの魔力視のことを知った切っ掛けが、リオの両親が英雄の物語の登場人物になってたからなんだよ! こんな偶然ってあるんだね!」
「ははっほんとだね! まさか僕の両親がやったことが、巡り巡って僕とフローラの関係に繋がっていたなんて……!」
「もう、何もかもが運命だよーっ!」
フローラは僕に抱きついた。……今までの道のりの全てがフローラに繋がっているとは思っていたけど、まさか、僕が産まれる前から僕とフローラの道が繋がっているとは思わなかった。
まさに、運命だ。
フローラは僕から離れると、父さんと母さんを見て両手を握って力説した。
「だから、ローレンス様とドロレス様は、私の中では憧れの英雄譚の登場人物である先輩なんです! あっ私の夢は物語の登場人物になることでした! フレイの英雄譚で書かれるかなって思ったらサーリアさんの方で書かれちゃったけど!
だからもう興奮しちゃって! しかも、まさかラリーくんとローリちゃんが実在の人物だったなんて大発見ですよ、『まじゅでん』もう一度修正だーっ!」
「いやはや、私の方こそ驚きました。そうですか、マット君……あの身なりの良い男性、王子様だったんですね。魔力も大きく成長も早く、教えていて楽しかったです」
「平民には世界が違うってぐらいすっごい美男子だったわね、金髪の長い髪をした男の人。王子様っていうのなら納得だわ」
父さんと母さんは、その頃を思い出して懐かしんでいた。……すごいな、本当に教えていたのが、あの魔術王様だったんだ。マット君……間違いなくマシュー・ムーンライト様のことだ。
魔術王様はこのことを知っているんだろうか。
「……じゃあ、魔術王様に、挨拶にでもいく?」
「え?」
「せっかくこうやって知ることが出来たのなら、もう一度会うという選択肢もあると思うんだよね」
「で、でも王族だぞ? 今更私たちが出て行くというのは」
「———あたし思うんだけど……多分、魔術王様、会いたがってると思いますよ」
そこまで黙っていたフレイが、声を挟んだ。
「えっとですね、あたし、感謝したい人に感謝を伝えられないって、結構心残りだと思うんですよ。魔術王様が今の立場を手に入れて、結果自分の自叙伝を出しているのなら、恐らくその目的の一つにあなた方への感謝があるはずです」
「……」
「お二方に迷惑をかけるつもりはありませんが……もしもう一度会える機会があったのなら、話してみたいとは思いませんか?」
「それは、もちろん、もう一度会えるのなら会いたいですね」
「わかりました。……言い出したアタシ自身、そんなにうまくいく自信はないので、あまり期待しないで待っていて下さい」
そう言ってフレイは話は済んだというふうに僕の方を見た。……ん、もう話すことは一通り話し終えたかな?
「それじゃ……さすがに三人で家に厄介になるというわけにもいかないので、僕たちは帰るよ」
「そうか。まあ確かに、積もる話があるとはいえ息子一人を残して二人を帰すわけにも行かないな」
「ふふ、リオも二人との時間を作りたいのよね。後でも先でもいいけど、結婚式には呼んでね」
なんだか母さんがとんでもない爆弾発言をねじ込んできたけど、聞かなかったことにした。フレイがついに顔を真っ赤にして固まってしまった。
「ああもう、帰るよ!」
「じゃーまたねー! ラリーくん! ローリちゃん!」
「やっぱグリグリの刑かしら」
「ごめんなさいほんとごめんなさい調子乗りました許して下さい」
フローラとフレイがコントを始めたところで、僕はさっさと家を出た。父さんが玄関まで来て声をかける。
「リオ、たまには帰ってこいよ」
「いやいや、そっちがこっちまで下りて来なよ。いつまでも山奥で人嫌いやってるようじゃ帰るに帰れないよ」
「はは、すっかり成長して言うようになったな。……わかった、考えておくよ」
父さんとの会話を終えて、母さんが前に出てきた。
「リオ、すっかり立派になって……」
「会ってないの3年ぐらいだったけど、我ながらいい成長したなって思うよ」
「ええ、ええ……きっと才能がなかった分がいい出会いになったのかもしれないから、きっとこれでよかったのよね」
「もう一度言うけど魔力視つけて産んでくれた時点で才能もらいすぎだからね!?」
母さんの、いい話っぽいけどどこかまだずれた感覚にフローラもフレイも苦笑していた。……なんだか締まらないなあと思いながらも、僕は両親の……僕の家を後にした。
さて、それじゃあ僕の……僕たちの家に戻りますか。
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「助けてマルガーっ!」
「ホホホいいですわよ!」
アタシはリオの話を聞いて、後日速攻でマルガにヘルプを求めた。困った時の公爵令嬢様って感じでちょっと便利な人扱いしちゃって申し訳ないけど。
でも、やっぱりアタシ、さすがに英雄になって堂々とあの場所に立ったからって、王女様やその周りの人達に絡んでいくとかできないわ。
「……ってことなのよ」
「まあ、あのリオ様のご両親が、魔術王マシュー様の恩人! 素晴らしい人の縁ですわね……!」
「そうなのよ。でも、詳細は伏せるけどリオの両親が凄すぎて、まるで非現実の出来事だったかのように扱われて今は修正されてるらしくてさ。アタシその話聞いて、絶対魔術王様は修正したこと納得してないと思うのよ」
「なるほど、わかりましたわ。恩人の話を削るなど、納得しないでしょうからね。いいでしょう、その話は私から伝えておきます」
「助かるわ! どうしてもアタシからじゃまだ気が引けてね」
「このぐらいお安いご用ですわ、あなたのお願い事はどれも十二分にわたくしが動く、動きたくなる話ばかりですから」
「あんたほんと、いつ会っても気持ちのいいヤツね!」
「ふふっ、もっと褒めてくださいまし!」
アタシはマルガに約束を取り付けた。こういう時のマルガは超やり手で全面的に信頼しているから、きっとこれでうまくいくだろう。
……リオ、たまにはアタシに、お礼させなさい!
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後日。なんと両親の家に直接魔術王様が会いに行ったらしい。
魔術王様は今や国の重鎮中の重鎮。自ら出向くなんてそうそう有り得ないことだった。だけど、両親のために護衛もなく出向いた。
両親は、久々に会った魔術王マシュー様と、三人とも愛称で呼び合って仲睦まじいひとときを過ごしたらしい。
……改めて、自分の両親が本当に英雄譚の登場人物だったという事実に驚いている。驚きすぎて、自分が驚いていることにさえ現実感がないぐらい驚いている。
なるほど言われたとおりだ。確かに僕の両親は、普通の人じゃなかった。
両親の事実は、フローラに教えてもらった。
魔術王様は、きっとフレイが呼んでくれた。
「……ん? どったの、リオ」
「じろじろ見ちゃって、今更惚れた?」
「うん。やっぱり僕、フローラとフレイ、好きだなあって」
「な————なななななな」
「え、え……!? どうしたの、めっちゃうれしいけどそういう不意打ちリオっぽくないよ! んもう! 私も好き! ぎゅーってしちゃう!」
「あっフローラずるいわ! あ、アタシも、リオ、逃がさないんだからね!」
僕は、仲良く二人に挟まれながら、今の幸せを噛みしめた。
ずっと助けられてきて、その分戦い以外では助けていこうと思ってたけど、今度は僕の両親を、助けられてしまった。
両親への恩返し、難しいかなって思ってたけど。まさか二人がしてくれるなんて。
ありがとう、二人とも。
本当に、僕には勿体なさ過ぎるほどの二人だよ。




