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宰相 思案する

新年明けましておめでとうございます。

本年も宜しくお願い致します。

 宰相執務室に戻っては来たが、先程のことで頭がいっぱいで仕事が手に付かない。


 リィナが行方不明? 騎士団の寮を退団と同時に退寮? 私と結婚した後も寮にずっと暮らしていた? 侯爵家の屋敷ではなく?


 体が不自由になるほどの大ケガをした? 白魔法の加護を受けた装備を使っていたはずなのに?


 母が、妹が、使用人たちが……リィナになにかしたと言うのか?


 まさか、とんでもない妄想だ。


 母は侯爵家とは遠縁に当たる伯爵家の出で、貴族の夫人としてお手本のような人だ。どちらかと言えば、血統を重んじる方だが極端ではない。穏やかで物静かな貴族の女性だろう。


 妹は母に外見も内面もよく似た女で、西方の辺境伯家の遠縁になる伯爵家へと嫁いだ。領地ではなく伯爵家の王都のタウンハウスに暮らしているが、夫である伯爵との仲も悪くない。跡取りにある男児も生まれ、父を亡くしひとりになった母の相手を時折している。


 使用人たちは祖父母の代から仕えてくれている者も多く、代替わりをしながらよく仕えてくれている。


 侯爵家の人間に問題などあるわけがない。監査官になにを調べられても、一切の問題などない。そう信じている。


 だが、だとすれば、あの手紙のことはどう説明する?


 騎士団を退団し一般人となったリィナに、騎士団が討伐任務など命じるはずがない。間違えて任務を出すなどあり得ないのだ。


 しかし、侯爵家からヴァラニータ夫人への手紙の返事は〝討伐任務中にて留守にしている〟という内容で間違いない。日付もここ最近にもので、日付の頃にはリィナはとっくに騎士団を辞している。


 つまり、侯爵家の人間はリィナの騎士団退団を未だに知らない。知らない理由は、彼女が侯爵家にいないから。


 貴族からの手紙に使用人が勝手に返事をすることはない。つまりリィナ宛ての手紙に対して、母か妹が指示して返事の代筆をさせている……ことになる。


 だが、リィナに無断で母や妹がそのようなことをするなんて、考えられない。


 そもそも、彼女も彼女だ。


 騎士団を退団しなくてはならないほどのケガを負ったのなら、なぜ私に連絡をしてこない? 私の白魔法使いとしての腕が信じられないのだろうか。


 それに行方が分からないとはどういうことだ。なぜ侯爵家に帰らない? 侯爵家に部屋を用意してあるのだから、そこで暮らしケガを治せば良い。ケガの療養を王都以外の場所でするにしても、まずは侯爵家に帰るのが当然だろう。


 なぜだ? なぜこのようなことになっているのか、私には全く理解出来ない。


「閣下、先程から顔色が優れないようですが?」


 温かい紅茶の入ったカップが目の前に置かれ、思考が戻って来た。宰相執務室で仕事をする部下たちの不安そうな視線が突き刺さる。


「あ、ああ大丈夫だ。紅茶をありがとう」


「いいえ。そうだ、現在急ぎの仕事はありませんので……そちらのお家の書類や手紙に目を通されてはどうでしょう。随分溜まっておられますよ?」


 補佐官が苦笑を浮かべる。


 確かに、書類箱や手紙箱の中で一番重要度が低いとした箱のことは忘れがちだ。数ヶ月は溜めておくばかりで、決して小さくない箱の中には沢山の書類と手紙が入っている。


「そうだな、これらも片付けねばな」


 紅茶を口にしながら、書類箱の一番上にある封筒を手にする。


 上品な薄黄色の封筒は東方の辺境伯家からで、リィナが結婚式にも参加してくれない、息子が生まれたと言っても連絡なし、王都に来た時のお茶会にも参加してくれない、侯爵家では友人同士の交流を許してはくれないのか、連絡が取れないがどうなっているのかと文句が書き連ねてあった。


 手紙には不満と苛立ち、怒りが込められている。


 差出人は辺境伯令嬢ポリーン・ルピノ。リィナとは黒騎士としての同期で友人らしい。


 次の手紙は青みがかった白い封書で、内容はほぼ同じだ。リィナと連絡が取れない、夜会でも会えない、結婚式にも不参加、子どもの顔も見に来てくれないという感じの内容。


 差出人はホクライトン侯爵家次期当主の夫人マキシーン・クライトン。嫁ぐ前はこの国で一番古い騎士家系の貴族、ホーナー伯爵家の長女だ。彼女もリィナの黒騎士としての同期で友人。


 しかも、両家からの……いや、彼女たちからの手紙がこれだけではなく、何通も箱に入っていた。

箱の底の方にあった手紙は五年近く前のもので、リィナと私へ連名で届けられており、私たちの結婚を祝う内容だった。


 平民であるリィナと高位貴族である私の結婚を心配しつつも、祝福する内容となっていた。


「……どうなっている?」


 宰相執務室にこのような内容の手紙が届くことが、すでにおかしいのだ。

お読み下さり、ありがとうございます。

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