神頼み
「巫女様、お着物はどうしましょう? 念のため、何着か持って行った方が宜しいでしょうか」
「そうねー……」
「巫女様、巫女様がお持ちになられた荷物はどう致しましょう? こちらも全部お持ちしますか?」
「そうねー……」
頬杖を付いて、私はミカンが荷物を纏める様子をボーッと見ていた。
明日の朝早く、サワナの領主と一緒に出発する為だ。
「ねぇ、ミカン。私にお金貸してって頼んだら貸してくれる?」
何気なくそう尋ねてみたら、ミカンはキョトンとした顔をした。
「巫女様、私、お金持っていませんよ」
そっかー。貧乏国だもんね、ここ。
安月給なんだわ、きっと。
「そうよねー。婆ちゃんとか爺ちゃんなら、持ってるかなぁ」
ユリウスの教育係なんてしてるんだもん、それなりに高給取りのはず……最初から婆ちゃんに頼んでみれば良かったかなぁ。
「ミズノ様もロウェル様も、ご自分のお金はお持ちでないはずですが」
「どうして?」
「だって、お給料、ないですから」
んっ? 耳のアンテナが遠くなったのかしら?
私は瞬きを繰り返し、ミカンを見つめた。
「もう一度言ってくれる?」
「ですから……私達にお給料はありません」
「給料が、ない?」
何それ。どんなブラック企業なの?
ハローワークと労働基準局に訴えなきゃダメよっ!!
「はい。私達のお給料は、食事代なんです」
「しょ、食事代?」
「はい。この城に勤めているものは、全て生活を保証して頂けます。三食の食事も、お風呂も、寝床も衣類も全てです。それがお給料代わりなのです。それはミズノ様もロウェル様も同じ事なのですよ」
「なんですって……」
じゃ、じゃあ、最初から誰にもお金借りれなかったって事じゃないの。
でもそうなってくると、トキだけ食費を払わないのは確かにおかしい。
トキはここに雇われてる訳ではないし……
うぐうっ、あの詐欺紛いの台詞に聞こえた言葉が正論に聞こえるっ! ううっ!
私は頭を抱えて畳の上でゴロゴロとのたうち回り始める。
嫌だぁぁっ、嫌だぁぁっ、こんな国嫌だぁぁっ!
「みっ、巫女様? どうかされたのですか?」
______お主は時に奇怪な行動を取るな。しかし今のは、お主の寝ている時と良く似ている。
余計なお世話よっ! きっ、とヤマトを睨見つけてハッと思いつく。
私はヤマトを掴み上げると、その顔をまじまじと見つめた。
「ヤマト。ヤマトさん。いえ、ヤマト様」
__嫌な予感しかせぬが、申してみよ。
「お金、貸して下さい」
猫にお金を借りる女、立花朱鳥。
猫の手? そんなの、いらない。
欲しいのは、猫のお金である。
____我は生きる為にお金を必要とせぬ。それ故、お金など持ってはおらぬ。
「ねぇ、ねえ? なんかこう、お金持ってる神様知らない? その辺にいないかしら? 打ち出の小槌持ってるような神様とか、知らない?」
_____知らぬ。ヒトの運命に干渉出来る神はいる。それは、武運を上げたり、商売に関する運を上げるような神だ。だが直接金銭を授ける神はおらぬ。
終わった……
神頼みすら、無理だなんて。
この世界には神様いっぱいいるんでしょう?
祈ったらお金じゃらじゃら出してくれるような神が一人くらい、いても良いじゃないの……
ずぅーんっと重たい闇を背負い、私は項垂れた。
「み、巫女様?」
おろおろするミカンの前で、私はきっ! と顔を上げる。
「腹を括るしかないわね。仕方ない。行きましょう、サワナへ。それで、なんとかかんとかして、お金稼いで、ライザーに突き返してやるのよっ!
オーッホッホッホッホッ!!」
その夜、一大イベントを終えて静けさを取り戻したアイゼン城に、オーッホッホッホッホッ! という貴婦人の不気味な高笑いが響き渡ったのだった。




