公布
ユリウスが現れた。
真っ白な上下に金の豪華な飾りがセンスよくあしらわれ、金糸の刺繍が施された物だ。普段は付けないマントまで身に纏っていた。
いつもの胡散臭い面影は消え失せ、品格が漂う。元々顔はイケメンだから、更に際立つ。
あらま。本当に王子様みたいじゃないの。
ユリウスは壇上まで上がると、椅子の前で正面を向き、皆を見渡した後、優雅に腰掛けた。
そして、その朗とした声が発せられる。
「皆、此度は良く来てくれた。これより重大な発表がある故、心して聞くが良い」
ユリウスの言葉に続いてライザーが傍に立つ。
その手には公布状。
「此度は、御当主様より重要な発表がある。
皆心して聞け。
まずは、『おから』について発見された事を発表する。
今まで我々は時見の巫女様の格言により、その歴史と功績を重んじ、大豆は豆腐と味噌に限定して食して来た。
しかしこの度、その豆腐に『おから』の使い道がある事が判明した。
おからは、豆腐を作る際に出る余った材料である。
今まで我々はそれをゴミとして処分して来た。
だが、それはゴミではなく食料として重宝されるべき物であった。
それを発見し、料理を考案したのは、そちらに居られる立花朱鳥殿である。
おから料理がどれほど素晴らしい物なのかは、先日行われた、おから料理審査会に参加した者ならば誰でも認める所であろう」
場が騒然とする。
豆腐のゴミ? あれが? 信じられん!
審査会で食した者は驚愕し、混乱した。
食さなかった者は、ゴミを料理にすると聞いて難しい顔をしている。
「それ故、この先我々は時見の巫女様がお作りになられた大豆を余す事なく使い切り、貧窮する民へとその救いの手を伸ばす為、『おから料理』を大豆から作る料理の一つとして、世に広める事とした」
騒めきが収まらない。
食べれるんだから、食べようよと言って納得してくれれば良いと思ったけど、やはり時見の巫女様の影響力は大きい。
領主からは、本当に食べれるのか?
いや、でも素晴らしい料理ばかりで……
などと混乱しながらも、認める意見もチラホラ聞こえる。
前評判もあり、おからについての高評価を聞いてる者もいて、僅かだが頷いてる人も見えた。
「しかし、皆懸念するのは、やはり時見の巫女様が残された格言であろう。だがそれも、新たなる発見によって、見直す時が来た。これを見よ」
ライザーがそう述べると、奥からロウェル爺ちゃんが一つの書物を持って現れた。
ロウェル爺ちゃんから恭しくその書物を受け取り、ライザーはそれを手に掲げた。
「この書物は、我らがアイゼン国御当主様にのみ受け継がれて来た物だ。
この書物は、彼の時見の巫女様が自国の言葉を用いてご自身で記された、時見の伝承である。
この度、御当主様は荒廃し飢えに苦しむ民を想い、心を痛められ、歴代当主にのみ伝えられたこの伝承をここに開示する事を英断された」
ざわっ!
騒然とした空気の中に熱がこもったような、空気の変化が生じる。
皆、掲げられた伝承を凝視していた。
「これは今まで、歴代の御当主様にのみ引き継がれて来た物である。
時見の巫女様が用いられた言語は、我らには読み解けず、長年大切に保管されていたが、そこにおられる立花朱鳥殿が時見の巫女様と同郷の出自だった為、その知恵をお借りし、読み解く事に成功したのである」
ほほう。そうなりましたか。
まあ、いいですけど。
ニヤリと笑いたくなるのをグッと我慢してポーカーフェイスを保つ。
「彼女の尽力により、読み解かれたこの伝承の書には、大豆には他にも多くの用途があると記されていた。
時見の巫女様は、ご自身で育てられた大豆の使い道を全ての国民に伝え切れなかった事を無念に思い、この書に記されたのである」
へぇ〜。
ニヤニヤ。おっといけない。
チラリとユリウスに視線を向けると、真っ直ぐに領主達を見つめたまま、その表情を崩さないでいた。
それがまた面白い……じゃない、私も笑ってはいけない。
「時見の巫女様は大豆を使用し、より多くの料理を生み出し、民へ広げて貰いたいと、この書に想いを綴られた。
我らはその意を汲み、この先は時見の巫女様の夢をここに実現させるものとする!」
ライザーが声高らかに発すると、領主達から歓声と拍手が湧き上がった。
なにこれ、面白い。とんだ茶番だわ。
ま、私が提案したんですけど。
「それに伴い、まずは此処にいる多くの者も食したであろう、おから料理から民へ広げる事とする。
おからは豆腐から作られる為、材料費も掛からず、僅かな野菜で完成する。
貧窮に苦しむ民の飢えを癒す為には、適した料理と言えよう。
その為に、まず我々はおから料理とは如何なる物なのかを国民に知らしめる必要がある。
それ故、既に各領から集めたコック達に朱鳥殿が作り方を享受された。
ここに集められた領主は、彼らの協力を得て、尽力するように」
領主達は皆一同に力強く頷いた。
「そして、おから料理を出来るだけ多くの民へ周知させる為、御当主様は期間を定めた上で、無料で民へ配布する事を決められた」
領主達が驚きに声を上げる。
「期間は二か月間とし、コック達を現地に派遣し、民の前で作り方を実践して見せ、その場で食させるという形を取る。各領主はその概要をよく理解した上で対応に当たるように」
やはり立食スタイルは馴染みのない物なんだろうな。日本じゃ立ち食いなんて当たり前スタイルなのに。
期間は二か月か……思ったより長く設定したわね。
でも全国民に知らせると考えればそれでも急いだのかもしれない。
「そして最後に。
これから先、そこにおられる立花朱鳥殿が考案したおからを使用した料理と、大豆料理に金銭の対価を求める場合に、朱鳥殿と我が国へ課税を課し、徴収する事が法案として可決した事をここに発表する事とする!
徴収の取り零しがあった場合は厳しく咎められる為、徹底して領主各位は領民に通達を行い、取り締まるように!」
最後の言葉だけが、やたらと嬉しそうな響きを以て聞こえたのは、私だけだろうか。




