コック達との別れ
そして、とうとうこの日が訪れた。
私はまたしても気付けば食堂へワープを果たしており、コック達と最後の朝食を楽しんだ。
テーブルには目一杯の料理の山。
おから料理に限らず、それぞれが得意とする料理が並ぶ。
「アスカさんには、本当にお世話になりました。これは俺達からの感謝の気持ちです」
そう言って笑顔を見せたのは、高コスト部門でめでたく三位入賞を勝ち取ったナットだった。
「私こそ、本当に楽しい時間を皆と過ごせる事が出来て良かったわ。派遣先でも、審査会に来てくれたお客さんの笑顔を思い出して頑張ってね」
そう言ってから、私はミカンに持たせていた袋を受け取り、よいしょっと膝の上に持ち上げた。
「アスカさん、それなんっすか?」
その場にいたコックが、興味深そうに袋を見つめる。
「これはね、本当に大した物じゃないんだけど、私から皆にプレゼントよ」
私の言葉に一同が騒然とする。
アスカさんからプレゼントだってよ! と遠くに座っていたコック達にも声を掛け始めた。
私にとっては有難い。これは遠征して集まっていたコック全員にあげる物なんだから。
袋の中からその一つを取り出して、目の前にいるナットに手渡す。
「ナット。今までお疲れ様でした。これからも頑張って下さい」
そう言って手渡したそれは、和紙で出来たメッセージカードだった。
一言ではあるけれど、全部手書きで作った。
一言メッセージと私の名前と相手の名前を入れてある。
「えっ、こ……これ、俺に……?」
「そうよ、全部私の手書きよ。この世界の文字はまだ下手だから、上手くないけど……全員分あるわ」
ナットは小刻みに震える手を伸ばして受け取った。
あの募金箱で集めたお金。何に使おうかすごく悩んだ。
出店の投資にでも使おうかとも思ったけど、そんなのユリウスに出させれば良い。
皆が頑張った結晶みたいな物なんだから、やっぱり皆の為に使いたいと思ったのだ。
「すげえ、嬉しいっす……本当に、嬉しいっす」
手で滲んだ涙を拭きながら、そう言ったナットの周りをコック達が取り囲んだ。
なんて書いてあんだよ! 見せろよ、おいっ!などとはやされている。
「さあっ、次の人の分もあるのよ、皆並んで!」
そう言うとコック達は朝食の手を止め、列を作った。
ミカンがお手伝いしましょうか、と申し出てくれたけど断った。
自分の手で渡したかったから。
次々と名前を呼んで、お疲れ様と声を掛けながらカードを手渡す。
どれくらい時間が経ったのか、同じようにカードを手渡した時だった。
「あの……アスカさん。お店はいつ頃出す予定ですか?」
そう尋ねて来た声があった。
彼は高コスト部門で一位を獲った男の子だ。
「そうね……皆の派遣が終わった後かしら」
「具体的にはいつ頃になりますか?」
「無料配布が終わったのと同時に店は出す予定よ」
「じゃあ、俺、無料配布の期間が終わったら、ユーラに戻って来ます。そしたらアスカさんが出す店で働かせて貰えませんか? お願いします!」
そう言ってその子は頭を下げた。
ええ? もちろん、そうしてくれれば私は大助かりだし、嬉しいけど。
「でも、あなたもお店持ってるんじゃないの? そこはどうするの?」
「俺が働いているのは、自分の店じゃありません。雇われて働かせて貰っているだけですから。辞めます」
自分のお店じゃないのね。それなら良いかもしれない。
「そういう事ならあなたの好きにするといいわ。私は大歓迎よ」
笑って手を差し伸べると、彼は力強く握り返して来た。
「有難うございますっ!!」
やったぁ! コック一人ゲット!
「アスカさんっ! 俺もっ、俺も、アスカさんの店で働きたいっす!!」
そう言って列を掻き分け入って来たのはナットだった。
「俺は店ありますけど……絶対なんとかして来るんで!! お願いします!」
なんとかって。大丈夫なのそれ。
「ナット、気持ちは嬉しいけど店があるなら……」
「俺はっ! アスカさんと働きたいっす!!」
掴みかかるような勢いでそう言われてしまって、参ってしまう。
気持ちは嬉しいんだけどね。
せっかくなんだし、自分の店でおから料理広めてくれれば……
「絶対、俺もここに戻って来ますから!!」
そう言い捨てて、彼は戻って行ってしまった。
自分の人生は自分で決めるのが一番よね。
ナットが戻って来た暁には、快く受け入れてあげようと私は思った。




