ヤマトの講義
「誰それ」
私がヤマトを見て話しかけると、ロウェル爺ちゃんの眉根がぴくりと動いた。
__この東の大国を創設した神の名だ。
「ここを創った神様?」
「巫女殿、待ちなされ。そこにおる猫殿。ヤマト殿、と申されましたの。もしや何か話しておられるので?」
「ええ、はい。喋ってますね」
「わしにも声を聞かせて貰う事は出来ぬのじゃろうか。ぜひその知恵をわしにも授けて欲しいんじゃがのう」
そう言って、爺ちゃんはじっとヤマトを見つめた。
「前にも皆に聞かせたじゃない。良いんじゃないの?」
ヤマトの金色の目の中で紅い光がすっと立ち上がった。それは蝋燭の火が伸びる様と似ている。
__良かろう。我が知恵、其方にも授けてやろう。
「おおっ! おお……なんと、なんと! 有難い。実に有難い。ヤマト殿御礼申し上げる」
ヤマトの声があの謁見の間の時と同様に外から聞こえた。
お爺ちゃんは驚愕に目を見開き、そう言って黒猫ヤマトに頭を下げた。
私はそれを苦虫を噛み潰したような顔をして見ていた。
__そもそもこのミステス大陸と、そこに建国された国々は名のある神々が創り賜うた地。人が創り出した物でない。
「へっ? そうなの?」
__この東の大国、アイゼンの名を持つこの国も然り。
__この国の創設神はアイゼン・フォン・シュナイザーと言う者である。アイゼンの名が残っておるのは、その縁からであろう。
「アイゼン・フォン・シュナイザー……」
爺ちゃんは慌てて紙と万年筆を取り出してヤマトの言葉を書き留め始めた。
__それらの神々がこの地にある五つの国を建国した。建国した神は国の根源となる力を維持する為、己の恩恵を込めた力の源を創り出したのだ。
__それがその水晶石である。そのクリスタルは元々は一つの大きな物であった。それを神がその土地を与えた人間が使いやすいように、砕いて小さくした欠片がその小さい石であろう。
「はあ、なるほど。じゃあ、あの城門はどういうシステムなの?」
__神々の領域とはそもそも不可侵である。
高位の神々が持つ力は強く、他の力の干渉を許さぬ物。
__あの城門は、その根本たる神の力が及ぶ境目なのだ。それ故に外部からの干渉を許さぬ。その領域をすり抜けようとするには神の力が必要となる。
__即ち、それがその水晶石である。
「つまり、このクリスタルは鍵みたいなモンってことね」
神の領域……それがこの城を中心に城門まで広がっているという事なのだろう。
神の領域に入る為には神が創り出したクリスタルがいる。そこで私は思い出した。
「この城の中で見た、あの転移陣。あれは?」
__あれは、まだ此処に残るアイゼン神の力の名残だ。
「力の名残?」
__アイゼン神がこの地を創り賜うた時、この城を拠点として存在しておった。
__あの転移陣は神が創りヒトに与えた物。長い間このアイゼンに巫女がおらなかった為、その根本たる力も大分薄弱としておるようだ。
神が作った転移陣だったのね、あれ。
ヒトが便利に使えるように作ってくれたって事かしら。なんて気前の良い神様でしょう。
「ちょっと。なんでそこに巫女が出てくるのよ?巫女がいなきゃ力が弱まるって、なんでなの?」
ロウェル爺ちゃんは黙々とヤマトの会話を書き綴っている。質問などする余裕もないようだ。
__この世界に存在する神々は全て、その力の源を常にその身に宿さねばならぬ。
意味が全く分かりません。
__水の神ならばこの地に水がなくては存在出来ず、火の神ならば火がなくては存在出来ぬ。
ああ、なんとなく分かったわ。
でも、国を建国出来るような神様って何が必要なのかしら。
色々と必要なんじゃない……の。
__単一の力の源で存在出来る神を低位の神と呼ぶ。
__存在に必要となる力の源を、二つ、三つ、と多く必要とすればするほど神の位は高くなり、国を建国するだけの力を持った神は当然ながら、更に多くの源を必要とする。
「それを補う為の巫女ってこと……?」
__厳密に言えば違う、と言わざるを得ない。
「違うの?」
__巫女は神々の加護を得る力を持ち、その恩恵を行使出来る力を持つ。それはあくまでもこのミステス大陸の地に活力を与える為である。
__だが、このミステス大陸には五大神が建国した土地がある為、その神々の影響力を地盤とする場所で巫女の力を行使すれば自ずとその神へと還元されるのだ。
「結局は神の力になるんじゃないの」
__結果的にそうなると言う事だ。だがそれを目的として存在する訳ではない。
なんか納得いかないんですけど、それ。
モヤモヤする気持ちが半端ない。
だって神々の影響下にない土地なんて、この世界にないんでしょう?
五つの国はその5大神とかいうのが創ったって言うし。
それ以外は砂漠じゃないの。
どこで力を行使しても、その土地神に吸収されるって事でしょう。なんだか神様嫌いになって来た。
ま、私は元に返して貰う神様探すだけだわ。
「で。話を戻しましょう。そのコンパスの話を聞いてたのよ、私は」
爺ちゃんは私の言葉が耳に入っていない様子で一心不乱にペンを握っている。
「じいちゃーん。おーい。ロウェルさーん」
「んっ? おお……そうでしたの。クリスタルの説明はヤマト殿がしてくれたので結構ですな。
このコンパスに嵌め込まれている五つの石は、五大国にそれぞれある神々の力が込められたクリスタルなのじゃ。
このコンパスに自分が用いるクリスタルの欠片を嵌め込むと、自分の現在位置が判るようになり、自分の場所と五大国の位置で距離感と方向を見ながら進むという物なのですじゃ」
「なるほど」
確かにそれならコンパスと言える。
私が知ってる磁石を使用するコンパスとはまるで違う物なんだわ。車のナビに似てるわね。
「先に目的を定めてそこまで誘導して貰うって方法は取れないの?」
「ふむ。そんな事が出来ればラクじゃろうが。残念ながら、そこまでの機能は持ち合わせておらぬの」
「そっか」
残念だけど、ない物をねだっても仕方ない。
でも砂漠を渡るにはそのコンパスとクリスタルが必要って事は分かった。
使い方も分かったし、まあ良しとしましょう。
その講義の後、私はロウェル爺ちゃんの部屋を後にしたのだけど、ヤマトは爺ちゃんに捕まって部屋から出て来なかった。
ヤマト、ドンマイ。




