ロウェルの講義〜朱鳥〜
「次はシュテーゼン砂漠に於ける地理ですじゃ。これを知らねば、精霊の泉には辿り着けませんからの。最も大切な事ですから、しっかりと覚えなされ」
「シュテーゼン砂漠には、中央大国セノーリアを構え、その周辺に五箇所の精霊の泉があるのじゃ。
それは聞いておりますな? それらの場所は、本来はヒトの目には見えぬ物。
しかし、長年に渡りこの国の巫女様や他国の巫女様の情報を元に、凡その場所の見当は付いておる。それを覚えて貰わねばなりませんのう」
ずず、とお茶を啜ってロウェル爺ちゃんは目を細めた。
「本来は人の目には見えぬって、どう言う事なのお爺ちゃん」
「精霊の泉は、神聖な場所ですのじゃ。その場所は、それぞれの精霊が護っておる。
その護りによって、その力に関与する力を持たぬ者は弾かれ、その場所すら目にする事が出来ぬという事ですじゃ」
関与する力……巫女の器の力ってことかしら。
「それ故、もう何百年と我が国では精霊の泉に行った者は誰もおりませぬ。あの『眷属の欠片』でさえも、精霊の泉を探す事は出来なかったのですじゃ」
眷属の欠片……確か神様の後釜の、弱っちい同属の神様の力を持って生まれた子、だったわよね。
特殊な力を持ってるとかなんとか。
そんな人間でも探せないなんて……結構シビアね、精霊の泉って。
「精霊の泉の恩恵は巫女にしか与えられぬ、と言うのは、それ故ですのじゃ」
「大体分かったわ。その精霊の泉の場所も見当は付いてるのね?
それで、私ね。この世界に来た時から思っていた事があるんだけど、あの砂漠の中、どうやって方向や方角を確かめるの?
あまりにも広大で、見る限りじゃ分からないわよね?」
コンパスとかあるのかしら。
「おお。巫女殿は大変良い所に気付かれましたな。実は、大まかな方向を知る手段はあるのじゃ。少し待ってくれぬかの」
そう言って立ち上がると、ロウェル爺ちゃんは机の引き出しから何かを持って戻って来た。
それは、四角い掌サイズの物だった。
ことりと畳に置かれたそれを私は上から覗いてみた。
真ん中に一番大きなピンク色の石があって、その石を中心に上下左右に4色の石が嵌め込まれて居る。
一見、時計のようにも見えるけど、針がない。
「爺ちゃん、これなぁに?」
「コンパスじゃ」
「コンパスぅ?」
ええ? コンパスって、N極とS極があってぷらぷら動くヤツよねぇ?
これ、針ないわよ。
「しかしそれだけでは用を成さぬ物での。ほれ、コレが必要なのじゃよ」
そう言って爺ちゃんは懐から何かを取り出した。
それは、涙型の水晶だった。
私は爺ちゃんが差し出したそれを手に取り、透かして見てみる。カットが入ってキラキラと輝くそれ。
「これは?」
「水晶石じゃ」
そのまんまですね、はい。
そうですか、クリスタルでしたか。
「ただの石ではないぞい。巫女殿も見たであろう。城内に入る時には必ずこの石が必要となる。
御当主様の自室に入る時も必要なはずじゃ」
オスカーさんが門番に手渡したり、ライザーの部下君が手渡したりしてたヤツね。
最近は城下町に行く際には婆ちゃんやミカンがそれを持って門番に渡してた。
もうあの門を潜るのも慣れたのよ、ふっふっふっ。
未だにどういう構造なのか分からないけど。
「このクリスタルは、このアイゼン国の神の恩恵を閉じ込めた物での。御当主様より賜る物じゃ。
これがなければ、城下町と城内を行き来する事は叶わず、また他国への入国も出来ぬのじゃ」
そうか、あれはユリウスから貰うのね。
しかし、この国の神の恩恵って何?
「この国の神々の恩恵はなくなったんじゃなかったの?」
意味が分からない。
しかし、私の問いかけに答えたのは、爺ちゃんではなかった。
__あれは、アイゼン・フォン・シュナイザーと申す神の力が込められた物だ。
「誰それ」
私がヤマトを見て話しかけると、ロウェル爺ちゃんの眉根がぴくり、と動いた。
__この東の大国を創設した神の名だ。




