ロウェルの講義〜トキの実力〜
あの審査会結果発表後、続々と各領主達が城へと集結し始めた。
婆ちゃんの様子が気になって部屋に行ってみたら、泣きながら何故か怒られた。
ロウェル爺ちゃんは、それを笑いながら見つめていた。
そんな中でも、騎士達は厳重な警戒態勢を敷き、一度は開放された敷地も、領主各位に限定されて入城審査も厳しいものとなっていた。
身分の高い人達が集まりだすと、城の雰囲気も一転して緊張感が増し始める。
午前中の、あの和やかで明るい活気に満ちた雰囲気はもうない。
城内の装飾品も、一つ一つがピカピカに磨かれて、床に塵一つ落ちていない。
私は女将の手伝いでもしようかと思って申し出てみたのだけど、あっさり断られてしまった。
なぜでしょう。
つまり、やる事がなくなってしまったので、こんな雰囲気だと言うのに、私は今現在、ロウェル爺ちゃんの講義を受けていた。
何も婆ちゃんの部屋が近いからって、それを良い事に婆ちゃんの講義ばっかり受けてたわけじゃない。
ないったらない。
あまりにも爺ちゃんの講義をサボるから呼び付けられたとかそんなこと、ないったらないのだ。
「このミステス大陸の大まかな地理はおぼえられましたかの?」
「ええと、はい」
「では、このアイゼン国内の地理は如何ですかの」
「ええと……それは、まだあやふやで」
このポンコツの頭をなんとかしたい。
「このアイゼン国内では、24の領地が御座います。その全ての領地をまずは覚えて頂かなければなりませんのう。ほっほっほっ」
ほっほっほって。
実はこの勉強、だいぶ前から始めてる。
しかし進まない。
なぜならそれは、私が覚えられないから。
「このユーラの南は?」
「ええと、パッセル」
「パッセルの東は?」
「シュテリア」
「シュテリアの北は?」
「……ヘッドウール?」
「ヘッドウールの北は?」
「……ぎ、ギムソナ…」
「間違いですのう。ほっほっほっ」
こんな感じである。
合格点貰えないといつまでも泉に行けない。
おーのー!!!
「アバアール……」
「おや? トキ君。当たりですな」
不意に小さく聞こえた声を爺ちゃんは聞き逃さなかった。
爺ちゃんの目が楽しそうにトキを見つめる。
「アバアールの西は?」
「ルックナー……」
「ほっほっほっ、ルックナーの北は?」
「ナプタール……」
え。
「こりゃ、驚きましたのう。トキ君、もしや全て覚えたのでは?」
「……」
トキは爺ちゃんの問い掛けには答えなかった。
しかし、そんなトキを爺ちゃんは見逃さない。
問題を投げかける相手を私からトキへと変更し、また一からユーラを起点として、領地の名前を次々と答えさせた。
そして、トキはその全てに正解してしまったのである。
「うっそ……」
私が夜な夜なぶつぶつ念仏のようにして復習しても尚、覚えられなかったこの国の地理。
トキはノートも取ってないし、ただ聞いていただけだ。
「ほっほっほっ、驚きましたのう」
本当よ。驚いたなんてもんじゃない。
どうやって覚えたの。聞いただけで覚えたなんて言わないでしょうね。
「トキ……あなた、本当に凄いわ。どうやって覚えたの? 復習とかしたの?」
「俺は……黙ってここにいただけだから。アスカやロウェルさんが話してる時もずっと繰り返してただけだよ」
ずっと繰り返すって、頭の中でって事でしょう?
「トキ! あなた天才ねっ!」
私はがばっとトキに抱きついた。
トキは身悶え一つしないで、腕の中に収まる。
「ほっほっほっ、ならばこの国内の地理はこれで終わりとしましょうかの。トキ君が巫女殿の傍におれば大丈夫でしょうからな。まだまだ覚えねばならん事は沢山ありますぞ、巫女殿」
おおっ! 課題が進んだ! 進んだわぁっ!




