結果発表①
そして、翌日午前9時。
場所は敷地内。仮設舞台。
当初は食堂内で発表する予定だったのだけど、コック達の頑張りと、その家族も多くユーラを訪れていた事もあり、ユリウスは城敷地内への入場を一般客にも解放し、そこで発表すると決めた。
その場には発表を待ち兼ねる総勢300人のコック、その家族と材料を提供した農家の皆さん達、それに混じって領主達の姿もあった。
ユリウスの姿がある傍には、ライザーに続いて参加した大臣閣僚の皆様がずらりと並び、私もそこへ参列していた。
雲一つない澄み切った青空の下、ユリウスが壇上に上がると、一斉に拍手が湧いた。
「おはよう、諸君。この度のおから料理審査会は皆の尽力のもと、大いに賑わい大盛況を収めた。
コック達の料理は皆素晴らしく、その趣向は汗水流した努力が窺える物であり、予も大臣達も皆が満足する物であった事を伝えたい。皆、誠にご苦労であった」
一度そう区切ると、大勢からコック達に労いの拍手が送られた。
ユリウスの言葉を聞いて泣いているコックさえもいる。
「この度の審査会では、実に多くの国民がこのユーラの地を訪れ、城下町でおから料理の味を堪能したと聞く。
それも、騎士や侍女、そして他ならぬコック達のお陰である。また、ここに異例ではあるが、功労賞として特に尽力した者の名を上げ皆で褒め称えたいと思う」
功労賞の発表は事案に組み込まれていないものだった。
その場の全員が驚き、ユリウスの言葉に注目する。
「審査会当日、審査に使用した残り物を料理として国民の為に提供した者の名が上がって来ている。
彼らの尽力もあり、大いに観客はこの催しを堪能したであろう。その行為に敬意と賞賛を称し、ここに名を挙げるものとする。
ナット・バークナー
アイリア・シーモット
マルコス・ウォックナー
ハリス・テント
以上の四名に、拍手を」
ユリウスがそう告げると、盛大な拍手が沸き起こった。
呼ばれた者は驚き、戸惑いを隠せないようだった。それでも、次第にそれは笑顔へと変わり、照れたように皆からの賞賛を受け止めていた。
そう、あの日。
ナットが無料で料理を提供してくれて、その噂を聞いた数名が同じように残った材料で皆に料理を提供してくれた。
材料費だってタダではない。
それでも、あのお祭りを盛り上げたくて、やってくれた事だった。
誰も強制はしてないし、朝早くから自分の審査に使う料理を調理して疲れていたはずなのに。
彼らのその尊い行動に私はとても感謝した。
陰ながら努力するのは、確かに素晴らしい。
でも人は、その努力を誰かに認めて貰う事が出来た時、報われたと感じるものだ。
私は見ていた。
けれど、どうせならユリウスの口から褒めて貰った方が喜びも大きいはず。
だから、私はこの表彰式の前に彼らの名前を出して貰えないかユリウスに頼んでみた。
そうしたら、彼は快く了承してくれたのだ。
ユリウスにも感謝しなくちゃね。
「それと、もう一名。このユーラに多大な貢献をした者がいる」
んっ? 私は他には何も頼んでないわよね。
じゃあ、きっとユリウスが認めた人がいたんだわ。
誰なんだろう。何をしたんだろう。
私は他にも貢献した人がいたと聞いて嬉しくなった。
ふと、壇上のユリウスと視線が交わる。
「それは、この審査会の発案者でもあり、使われたおから料理の発案者でもある。
首都ユーラには、彼の時見の巫女様が残された歴史ある貴重な物が多くある。
その中でも、着物と呼ばれる和装は、細々と我らの中で受け継がれて来た。
この場にいる者の中でも、祭りの最中にそれを目にし、手に取り、または購入した者もいたのかもしれぬ。
長く閉ざされた呉服屋の扉を叩き、その着物を今この世に再び蘇らせた功労者。
立花朱鳥。彼女に、盛大な拍手を」
おおおおおおおおおおっ!!!!
地響きのような喝采が響き渡った。
私は驚きに目を丸くする。
壇上のユリウスと視線が合い、ふっと小さく笑ったような気がした。
なんでそんな事知って……
ユリウスの視線が私から観客の奥へと動いた。
あっちを見ろ、とでも言うように。
私は思わず振り返る。
そこには、着物の袖を抑え、品よく手を振る呉服店の女将さんとミヤビの姿があった。
その二人が私の視線に気付き、その場で深々と頭を下げた。
「女将さん……ミヤビ……」
私は溢れそうになる涙を必死で堪えた。
なんで。そんなつもりじゃなかったよ。
私は日本人で。
この世界にも着物があるって知って、凄く嬉しかった。
600年もの長い間、失わずに大切に残してくれていたミズノ婆ちゃんや女将さん、ミヤビを尊敬した。
手作りで全部作ってくれてるって聞いて、感動した。
その努力を誰かに知ってもらいたくて。
それが売れたら、きっと生活もラクになるだろうなって思った。
もしかしたら、それを目当てにユーラに人が戻るんじゃないかって打算的な事も考えた。
自分勝手に動いただけなんだよ。
だから、頭、下げないでよ。
「朱鳥。壇上へ」
ユリウスの声が響き、私に手を差し伸べる。
大臣達やライザーまでが拍手して私を壇上へと誘った。
「皆に伝えたい事があれば、この場を借りて伝えると良い」
いつも胡散臭い笑みが、今日は心からの優しさに満ち溢れていた……ように見えた。
私は壇上から皆を見渡した。
コック達、女将さん、ミヤビ、端には着物で目元を拭うミズノ婆ちゃんと、その隣に立つロウェル爺ちゃんの姿も見えた。
「立花朱鳥です。今日、この日を迎えられた事を心より感謝します。
私が考案したおから料理は、元々はなんの変哲もない、素朴な味のする料理でした。
その料理を元に、たった5日という本当に短い期間で、ここにいるコック達は実に見事で素晴らしい料理へと進化を遂げる事に成功してくれました。
それはきっと、私の想像も付かないような努力があって成し得た事なのだと思います。その努力があったからこそ、今回のおから料理審査会は大盛況を収める事が出来ました。
私からも皆さんにお礼を述べたいと思います、本当に有難うございました」
盛大な拍手が沸き起こった。
それはきっと祭りを楽しむ事が出来た皆からコック達へ向けられた物だ。
私は言葉を区切り、ひと呼吸付いて、言葉を続ける。
「時見の巫女様が残して下さった着物は、600年の間、一手間一手間を掛けて、手作りで残されて来た物です。
その歴史は長く、作りは綿密で繊細且つ豪華です。
今回のお祭りで幸運にもその素晴らしさに触れた方は、驚いた事でしょう。それを手にした方は、どうか大切にして頂きたいと思います。
その着物を歴史の中に埋まらせる事なく、紡いで来たミズノ婆ちゃんと、呉服店の女将さん、ミヤビちゃんにも感謝の意を込めて、盛大な拍手をお願いします」
そう言ってミズノ婆ちゃんの方向を手で指し示した。
わあっと大きな拍手が婆ちゃんに送られた。
ミズノ婆ちゃんは目を大きく開いたかと思ったら、袖で顔を全部隠してロウェル爺ちゃんの肩に顔を埋めてしまった。
続いて観客の奥、女将さんとミヤビを指し示す。皆がそちらを振り返り、歓声と共に拍手が湧いた。
私は満足してユリウスに向き直り、頷いた。
「ありがとう」
ユリウスは頷くと、私の肩へそっと手の乗せて場所を変わった。
そしてついに、ユリウスの口から発表されるその時が来たのである。




