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おから料理審査会⑤

 会議室には何十人も座れそうな長テーブルが一つ、何脚もの椅子がずらりと並べられたそこに、ライザーともう一人男の人が既に席について集計を始めていた。


 あれ、あの人って……ユリウスの部屋に行く時案内してくれた人だ。


 ライザーの部下だったのね。


「お待たせしました」


 そう声をかけると、ライザーは表から目を離さずに、ああ、と短く答え、部下の男は私に向き直った。


「この度は大盛況でしたね。領主の皆様も大勢が参加されていました。大好評だったようですよ」


「そうなんですか。食堂からは離れていましたから……でも、良かったです」


「さっさと始めるぞ。夜には仕事がある。今の内にしか動けんからな」


 私と部下の会話を遮ったライザーの言葉に、私達は慌てて席へ着いた。


「トキ、やってみる? 終わったら私に見せてね?」


「うん、分かった」


 トキに数枚渡して、ミカンにも分け渡し、私は真剣に集計に取り組んだ。 


 真剣に取り組んだつもりだったけど、計算とか苦手なのよね。数字見てると眠くなっちゃう。


 ふあああ。


「真面目にやらんか!」


 思わず欠伸した私を見て、ライザーが目を吊り上げる。


 うう、先生厳しいよ。

 ええと、5+7+7……18……いや違う19……


 私が一枚の集計を終わらせる間に、ライザーと部下君の手はサラサラと淀みなく動き、3枚は終わっている。


 頭良いのね、ライザーさん。

 少し分けて欲しい。


「アスカ。見て」


 不意にトキから声がかかって、私に集計した紙を寄越した。


 自分で確認するって言って何なんだけど、私の確認て当てにならない気がムラムラする。


「ライザーさん、これ、合ってるか見て貰えませんか」


 集中力を微塵も切らさずに、スカスカ計算を終わらせていくライザーに声を掛けると、ちらっと視線だけをこちらに向けて、集計表を受け取り、さらりと確認した。


「合っている」


「おおっ! トキすごーい! 天才! その調子よ。ゆっくりで良いから、間違わないように。ね?」


「うん」


 それで私は更にトキに紙を渡し、自分の分も取りかかった。


 次第にトキの『アスカ、見て』の間隔が短くなり、その都度ライザーに確認を頼む物だから、終いにはライザーはトキの隣に移動してしまった。


「終わったら、ここに置いておけ」


 コンコンと、自分のテリトリーのテーブルを指で指してトキにそう言うと、トキは頷いた。

 私の分も不安なんだよね……トキいいなあ、確認してもらえて。


「ライザーさん、私の分の確認も……」


「其方は一人でやれ」


 なんですと。冷たいよ、ライザー君。


「良ければ自分が確認しますが」


 部下君が、小さく笑って助け舟を出してくれた。 


 優しさが滲みる……


「計算苦手で。お願いします」


「はい」


 その笑顔が心に滲みる。ありがとう部下君。


 私はテストの解答を手に入れたような安心感を手に入れて、計算を始めた。


 ええーと。ええーと。

 あ、なんかお腹空いてきた。

 ええーと。これはー。

 おお、高得点。なになに?

 豚の腸詰?はあ、なるほどねぇ。


 集中力?なんですか、それ。


 そして私の集中力が切れ、メニューにばかり目が行くようになって暫くが経ち。


 夜まで更けて来た頃。


「これで終わりだな。トキとやらも良く頑張った」


 ライザーの声に顔を上げると、彼の手元には山のような集計表。 


 部下君の手元にも同量ほどの紙の山があって、私の手元には小山があった。


 ミカンを見るとミカンの方が量が多そうだ。

 がーん。一番少ない……


「私はこの集計表を持って御当主様の元へと向かう。皆ご苦労であった」


 そう言って、ライザーは集計表を一纏めにして部下に持たせた。


 そのまま二人は会議室を後に……


「アスカ殿」


 不意に、ライザーから声が掛かる。


「はい」


「この度の催し物、実に有意義であった」


 扉の前で振り返りもせずに、一言そう言って、出て行ってしまった。


 部下君もにっこり笑って会釈すると、ライザーを追って退室した。


 呆気に取られている私を見てミカンが笑う。


「ふふっ、良かったですね」


 私も一つ、息を吐いて笑った。


「うん! やっぱり皆楽しいのが一番よね。トキも最後までお手伝いありがとう」


「うん。計算……楽しかった」


 計算が楽しい?

 私にはない感覚だわ、それ。

 トキは理系なのかしら。


 でも、明日の朝まで掛かると思った集計はライザーと部下君の優秀な頭脳を借りて、こんなに早く終える事が出来た。


 あとは、まだ片付けが終わってないようなら、そっち手伝おうかしら。


 そう思って、敷地内や城下町の様子を騎士に聞いてみたら、もう全部片付いたとの事。


 それじゃあと、私は女将……侍女長の元へと向かった。


 女将もとい侍女長の部屋は、ロウェル爺ちゃんと同じ棟にある。


 コンコン、とノックすると彼女が姿を現した。


「はい……巫女様」


「侍女長。今日はお疲れ様でした。急遽、侍女の皆さんを駆り出してしまって申し訳なかったです。でも、大変助かりました。本当にありがとうございました」


 そう言って、深々と頭を下げる。

 本来は城から出ない侍女達。


 一般客の対応に力を借りたいと申し出た時、侍女長はすぐに了承してくれて、方々へ働きかけてくれた。


 侍女長の采配がなければ、あんなにスムーズに事は運ばなかったと思う。


「巫女様。頭をお上げ下さい。私共は城内務めが長いものですから、侍女達も城下町に出られて喜んでいたようです。


 会った事もない沢山の民と会話し、食べ物をよそい、客寄せした者もいたとか。皆疲れたでしょうが、顔は晴々としておりました。それも、巫女様のお陰でしょう」


 そっかぁ。そう思ってくれたなら、嬉しいなぁ。


「侍女長のスムーズな指示のお陰です。私の至らない所まで細かに気付いてくれていましたし。侍女長もお疲れになられたでしょう。今夜はゆっくり休んで下さいね」


 そう言って頭を下げ、立ち去ろうとする私に侍女長がお待ち下さい、と声を掛けた。


「巫女様。城下町の各所に設置してありましたこの募金箱とやらが、そのまま置かれていたそうで、侍女達が持って帰ってきたのです。私が一時的に預かっておりました。どうぞお持ち帰り下さい」


 あ。


「それは、お手数おかけしました」


 私はトキとミカンの手を借りて募金箱を持って侍女長の部屋を後にした。


 その後、私達は部屋へと戻り、三人で募金箱をひっくり返した。


 ジャラジャラジャラ、と音が重なって、コインやら紙幣やらが出て来る。


「まあ……」


 全部の募金箱をひっくり返して、畳の上に広がったお金の数々。


「おお……」


「大金だね……」




 __我も頑張ったのだ。




 ヤマトも頑張ったのか。

 招き猫の真似でもしたのかしら。


 にしても、思ったより集まったんじゃないの、これ?


 そこで、私は丁度良いとばかりにミカンにお金の種類を教えてもらった。


 見慣れないコインと見慣れない紙幣。

 絵柄はまったく違うけど、外国の硬貨と紙幣と似たようなものだったから、すぐに覚えられた。


「どうしましょうか。このお金……」


 うーん、そうねぇ。

 きっとこれには、あのナット達が無料奉仕でご飯を提供してくれたお礼とかも入ってるのだろうなと思う。


 でも、300人で割ったら大した金額にはならないし、他の物で何か返せれば良いんだけど……


「一先ず、これは私が預かるわ」


 二人の了承を得て、私はそのお金を預かる事にした。




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― 新着の感想 ―
[一言] 認めるところは、ちゃんと認めるライザーさん、かっこよす! 普通は感情が先に立ってなかなかできないものなんですが。 それにしても、主人公の機転と行動力は凄まじいですな。 見習いたい
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