おから料理審査会④
夕暮れ時。
コック達は、無料で提供されている他のコック達の料理を楽しもうと、今では殆どが城下町へと下りて来ていた。
その料理の数々も、もう殆どない。
久しぶりに賑わいを取り戻した城下町では、それでも多くの人達が笑い声をあげながら、未だにその余韻を楽しんでいる。
聞けば今日訪れた殆どの人が明日の結果発表までユーラに留まる事を決めたようだった。
しばらく店を閉じていた宿屋もそれに応じるように、数件店を開けた。
私達はすっかり席の空いた店舗内の席に並んで座り、城下町の喧騒を眺めていた。
結局、呉服屋の手伝いをした私とオスカーさんは、ミヤビのフォローに助けられながらも、着物8着とハンカチ等の小物を売り上げた。
女将さんとミヤビからは何度もお礼を言われて頭を下げられた。
頭を下げられるような事をした覚えはないっていうのに。
私は元々モデル業をしていた事もあって、何かを売り出すとなると気合が入る。
衣装なんかは特に。私の勝手な自己満だったのになあ、とぼんやり思う。
城内からは、審査終了の報告が続々と届いて来ていて、そろそろ私達もお城に帰る時間が迫っていた。
「俺、夕飯食べれねぇかも」
私の隣で夕陽に赤く染まる空を見上げながらテオが腹が苦しいと呟いた。
なんでも、よそられている料理を摘み食いしていたそうだ。
「私もだ。女性の方が色々と食べ物を持って来てくれたからな」
オスカーさんも、ずっと接客していた為か疲れが見える。
騎士としてずっと男連中の中で仕事しているのに、私が差し向けたとは言え、女性の相手をするのは大変だっただろうなあと思う。
ごめんね、オスカーさん。
「俺も、お爺ちゃんとかお婆ちゃんに沢山貰ったよ……」
トキ。なんか孫みたいに見えたんだろうね。
身体が小さなトキが旗を持って客寄せする様は微笑ましいものがあったもの。
「私も疲れちゃったわ。皆、協力してくれてありがとう。呉服屋の女将も凄く喜んでたしね」
ミヤビが懸命に接客する様子を見れたのも嬉しかったんじゃないかな。
久しぶりに店を出して、疲れましたと、女将は早めに店仕舞いをしたが、それでも今日の売り上げで、この先は悠に過ごせるんだそうだ。
「ここの会場も審査終わったんだろ? あとは、集計だけだな」
テオがぽけーっと放心しながら、何気なく言う。
そうなのよねぇ、集計。
こんな所でボサッとしてる余裕なんてないんだわ。明日の9時までには集計しなくちゃ。
「みんなは、接客頑張ってくれたんだから、後は休んでね」
「しかし……一人で集計するのは難しいのではないのか?」
「なんとかなりますよ」
多分。
すっかり、集計のお手伝いメンバー考えるの忘れてた。
とりあえずロウェル爺ちゃんの手は借りよう。頭良さそうだし。あと婆ちゃんの手も借りて……
皆には散々肉体労働してもらったし、これ以上働かせたらバチが当たる。
「大丈夫! さあ、戻りましょうか」
そう言って、私達は夕陽に背を向けて城へと向かった。
敷地内仮設会場では、早々に仮設の解体作業が行われ、騎士達がのぼりの撤去業に追われていた。
食堂会場でも後片付けが行われ、キッシュ達が忙しそうに動き回っているのが見える。
この後は夕飯の準備だもんね。
ユリウスや大臣閣僚の姿は見えないけど、あの様子だときっと堪能してくれたと思う。
食堂でミカンを見つけて合流し、私達はその場で別れた。
「集計なんだけどね……ミカンも手伝ってくれる?」
「はい。勿論です。私はほとんど食堂会場から動きませんでしたから、まだ体力は残ってますよ」
にっこり笑って頼もしい台詞を言ってくれる。
あとはー、だーれーにしーよーうーかなー。
食堂内で各審査会場から纏めて上がって来た審査表の束を寄せ集め、トントントン、と指で叩いて遊びながら、ぼーっと考える。
「ユリウスとかライザーとか頭良さそうだけどなぁ」
まっ、そりゃダメか。
「私がなんだ」
「私、私、私ー」
「聞いておるのか。アスカ殿」
「ほえ?」
なんだか接客に精魂使い果たしてしまった。
幻聴だと思ったら、そこにはあのライザーが立っていた。
「あれ。なんでここにいるんですか」
「其方、暫く城内にいなかっただろう。その間、審査表が私の所に集まって来ていたのだ。こっちの分は既に集計が済んでいる。後は、城下町会場の分とそこにある物だけだ」
ぱちぱち。
思わず瞬きしてライザーを見てしまった。
ライザーが束のように抱えてる紙に目をやる。
すんごい量だった。
そっちの集計、もう済んでる?
「本当ですか、ライザーさん」
「本当だ」
「お礼に何か作りましょうか」
「結構だ。明日の朝になっても、腹は空かないだろう」
「そうですか……」
思わぬ戦力に茫然としてしまう。
あのライザーがお手伝いしてくれたんだって。
信じられない。
「あの、ライザーさん。良ければ、こっちの表の集計も手伝ってくれたりしませんか?」
ダメ元で聞いてみる。
ライザーは私の手元にある表の束をじっと見つめてから、静かに頷いた。
「良いだろう。手伝ってやる。その量では、少し手が足りんな。私の部下を一人連れて来よう。その表を持って会議室に参れ」
「はい……」
そう言うと颯爽と食堂から彼は姿を消した。
「え?」
なんかよく分からないけど、まあいいか。
ライザー、計算早そうだし。
美味しい物沢山食べれて機嫌良いのかな。
「巫女様、良かったですね。ライザー様がお力添えをなさって下さるなんて百人力ですよ」
ミカンがニコニコしてそう言った。
百人力……
ユリウスの傍にいる人間なのだし、実は有能な人なのかも。
いや、有能でしょう?
いつの間に集計したのよ、あの量。
「俺も手伝う……」
側にいたトキが、ライザーの背中を見ながらぽつり、と呟くように言葉を発した。
トキって計算出来るのかしら。でも、やる気が大事よね。
「よし。じゃあ、気合入れ直してやりますか。ミカン、案内宜しくね」
「はい。会議室までご案内します。私も手伝いますからね」
それから私達はキッシュに夕飯はいらないと告げて、会議室へと赴いたのである。
FA提供 幡ヶ谷 誓様




