おから料理審査会③
「女将さん! 朱鳥です! 女将さん! いますか!?」
ドンドン! と扉を叩く。
このお祭り騒ぎに便乗して店を開けていればいいと思ったのに、まさかのまさか。
店は閉めたままだった。
「女将さんっ!」
「はいはい。も少しお待ち下さいねぇ」
この喧騒の中、女将さんの柔らかな口調が奥から聞こえた。
がらっと音を立てて扉が開く。
「女将さんっ! 店開けましょう! 見てください、こんなに人が来てるんです。今開けなくて、いつ開けるんですか!」
私の勢いに面食らったように、瞬きを繰り返して、やっとその視線を外へ動かした。
「まああ、凄い人ですねぇ。今日おから料理の審査会があるのは存じていましたけど、こんなに人がいるなんて。驚いてしまいますわぁ」
驚いてる場合じゃないよ、女将さん。
「店開けましょう。金持ち大臣とか金持ち領主が城下町に降りて来てるんです。お金落として貰いましょう!」
そのヤラシイ根性を隠そうともせずに、そう言ってのけた私に女将さんは、くすりと笑った。
「大層良いお客さんがおるようですねぇ。ミヤビも良い勉強になりますでしょう。今開けますから、お待ち下さいな」
そう言って店の扉を開け、ミヤビを呼びに奥へと下がって行った。
よしよし。ここで上手く着物もアピール出来ればそれに越した事はない。
しかし、接客に不慣れなミヤビちゃんと、あののんびり女将さんで、上手く客寄せ出来るかしら……不安。
私も手伝おう。
それはすぐ決めたんだけど。
もう一人くらい誰か……あ。
私は女将さんが戻る前に、また客寄せ店舗へと疾走して戻った。
「オスカーさんっ!」
「アスカか。どこに行っていたのだ? 大変な混みようだ。猫の手も借りたいとは、こういう事だろう」
「ヤマトっ! あなたそんな所に座ってないで手伝いなさいよっ!」
__お主が此処に座っておれと申したのではないか。
むむむ。しかし、ヤマトに手伝わせるって言っても、こんな所でまた空中浮遊なんてされたら、客が居なくなってしまいそうだ。
やっぱりヤマトには招き猫として、ここにいて貰おう。
「オスカーさんの手を借りたいんです。ここは、他の人に任せて。行きましょう」
有無を言わさず、オスカーさんの手を引いて私は再び呉服屋へと舞い戻った。
オスカーさんは黒髪黒目。
顔立ちは日本人みたいに平たくないけど、絶対和服似合うと思う。
モデルには、レディースとメンズ。
これ不可欠。
呉服屋へと舞い戻った私は女将さんに事情を説明して、ミヤビの手も借りて和装チェンジした。
オスカーさんもである。
「まあああ。若い男の方が着物を着ると色気が出ますわねぇ、ふふふ」
ふふふ、じゃないのよ、女将さん。
ミヤビも少し頬を染めてオスカーさんを陰からチラチラ見ている。
カッコイイよねぇ。
分かる分かるよ。
「じゃあ、行きますよ、オスカーさん。目指すは、着物販売です。着物は高額ですから、まずは手拭いとか生地とか、安い物から売りましょう。これキタ! と思ったら着物に誘導です。いいですか?」
「分かった。安価な物から高価な物へ誘導すれば良いのだな?」
「そうです。頑張りますよ!」
私達は少し高めで目の引く、柄の物を身に纏い、城下町を歩き回る事から始めた。
店舗前で呼び寄せても良かったけど、店舗には女将さんもミヤビもいる。
4人で客寄せするより、バラけた方がいいと思った。
洋服を身に纏ってる人しかいないこの城下町で、和装は目立つ。
侍女達も和装だけど、柄は地味だし。
私は舞妓さん宜しく紅を基調とした着物を着付けて貰い、化粧も施した。
髪も纏めて貰い、簪も何本も飾り付けて貰った。
これぞ外人が振り向き、写真を要求するジャパニーズ舞妓。
オスカーさんと腕を組み、ゆっくりゆっくりと道の真ん中を行く。
その様に皆が振り返り、注目し、足を止める。
子供が指を指し、見覚えのあるコックからは、アスカさん? の声も聞こえた。
大臣、閣僚の皆々様の顔ぶれもある。
よしよし、見てるわね。
とんとご覧あれ。
「なんと美しい……」
思わず感嘆のため息を漏らした、領主っぽい男の元へゆるりと進み、手を差し伸べる。
男は無意識に私の手を取った。
「男前のお方。どうか私をエスコートして下さいますか?」
にっこりと笑ってそう言うと、男は光栄ですな、と申し出を受けてくれた。
その男の手を掴んだまま、城下町を見て回り、自然な流れで呉服屋へと舞い戻った。
「私が着ているこの服は、こちらのお店でしか取り扱っていない着物と言う物なのです。
このユーラに一店舗しかない店で、扱う物も一点物ばかり。宜しければお土産にでも、如何です?」
「ほぉう。着物ですか。また洋服とは違う趣がありますな。どれ、少し覗いてみましょうか。良ければ貴方様にも、私から何かプレゼントさせて貰えると良いのですが」
え。マジで。
もしかしてこの人、貢ぎ君要素あるんじゃ。
「まあ。本当ですか? 私は着物が大好きなのです。でも高値でなかなか手に入りませんもの。あの着物など、以前から素敵だと思って眺めていたのです。似合うでしょうか?」
「あれですか? きっと良くお似合いになるでしょうな。試されては? おい、女将! あの着物を寄越せ」
「はいはい。あの着物ですね? まあ、お綺麗なお嬢様ですこと。きっと良くお似合いになりますわ」
うふふ、と笑って女将がそんな事を言った。
やはり女将も商売人でした。
それから私はその着物を試しに着させて貰って、その領主の前でくるり、くるり、と回って見せた。
「領主様。いかがでしょう? 似合いますか?」
「とても良く似合っている。見目麗しい。それを買ってやろう。他に欲しい物はないのか?」
あらやっぱり貢ぎ君だった。
「でもそんなに、出させる訳にはいきませんわ。初めてお会いした方ですのに……」
「其方と会えたのも運命であろう。気にせず欲しい物を申せば良い。それを身につけて、私を思い出してくれ」
あらやだ、束縛の気まである。
「嬉しいです……」
と言いながら、黙って視線をもう一つの着物へと向けた。
あれが欲しい無言アピールである。
「あれか? あれが気になるか。女将。あれも持って来い」
私の無言健気アピールを敏感に感知した男が、女将にまた着物を持って来させた。
私は着替えてくるくる回り、笑顔を振りまいて、その男から二着の着物をプレゼントして頂いた。
領主様が自己紹介をしてくれたけど、次のターゲットを絞った後にはその名前は彼方へ消し飛んでいた。
オスカーさんも、良い仕事っぷりを発揮している。
彼の周りには女性が多く集まり、少しずつではあるけど、安価な物が数多く売れていた。
私は領主っぽい人をターゲットに絞り、声をかけて店まで誘導し、褒めて持ち上げて、娘さんにとか奥様に、とか言いながら着物を売り捌く。
その中でミヤビが良い仕事をした。
ミヤビのセンスが抜群だったのだ。
相手の特徴をつかまえて、相手に似合う事細かな色味や色彩、肌触り、などを説明し、またそのアレンジ方法なども教えていた。
さすが呉服屋の娘。
その知識は、私なんかとは比べ物にならなかった。その説明に納得した何人かが見事に着物を手に取り購入して行った。
「ミヤビ。あなたやるじゃない。凄いわ」
私がそう言うと、ミヤビは照れたように小さく笑った。
「接客するのは初めてですから、緊張しました。でも、アスカさんの接客を見て、私感動しました。一人のお客様にあんな高額な着物を二つも購入して貰えるなんて。
恥ずかしいとか、緊張するとか、そんな事言っていられないと思ったんです。でも、私はアスカさんみたいに美人じゃないですから、出来る事を一生懸命やろうと思って……」
その健気さにうるっと来てしまった。
ごめん、そんな純粋なあなたに腹黒の健気見せちゃって。
どうか私のようにはならないで貰いたい。
そう心の中で願った。




