おから料理審査会②
それから城下町へと繰り出してみると、にわかに騒がしい。城下町には、騎士とコックしかいないはずなんだけど……私服を着た人達が、あちらこちらに見える。城下町に残ってる人にしては人数が多い。
私は、はてと首を傾げる。
「なんだろう、あの人達。領主様……じゃないよね?」
トキも不思議に思ったようだ。
私達は首を傾げながら、その人混みの中へと進んだ。
……農民?
そのうちの一人をつかまえて、尋ねてみる。
「あの、失礼します。あなた方は? このユーラの方ですか?」
「ああ。いやいや、違うよ。俺はナプタールから来た農家なんだがね。コックから審査会に使う野菜の調達を頼まれた者なんだ。今日すげぇ大会が開かれるって聞いてよ。どんな料理作るのか見に来たってわけよ」
なんですって。
「ここにいる人達も、そうなんですか?」
「ああ。そうみたいだな。この国じゃ、こんな大きな催し物はもう何年もなかったからよ。皆面白がって見に来てるみたいだぜ」
なんと。
お祭り騒ぎに便乗して、外部から人が流れて来てたなんて。
「コックの家族なんかも、応援で来てるみたいだぜ」
応援。
これは、ユリウス効果なのかしら。
優勝者の発表はユリウスが行う事になってる。
この数ある料理の中から優勝し、ユリウスが発表するともなれば、コックとしての株も上がると言うもの。
やる気アップと、大臣閣僚の勧誘、私の出店の資金援助の為にユリウス巻き込んだけど、まさか外部の人間まで呼び込むことになるなんて!
「でも、俺たちは食べられねぇみたいだなぁ。残念だよ」
「待って。おじさん。いま、食べられるようにするから。ここで待ってて! ねっ!」
そう言って、私は再び食堂会場まで全力疾走して戻り、ユリウスの許可を貰って、使われていない空き店舗を解放し、そこへ客を誘導した。
審査で使われた料理のおこぼれを提供する為に。
私は手空きの騎士と侍女を動員し、皿やフォーク、仮説会場や食堂会場で出た料理の残りを城下町へと運ばせた。
外部から噂を聞きつけて来た国民は予想以上に多く、時間が経つにつれてその数を増している。
皆一様に廃れたこの国で開催されたお祭り騒ぎを楽しもうと見に来たようだ。
娯楽って大事よね。わかるわ。
本来なら、城内から出ない侍女達もその着物姿で店舗内を動き回り、カトラリーを手渡したり、料理を切り分けたりと忙しい。
「はいはーい! こっちまだ席空いてますよ〜!5名まで! 今はおからコロッケと、おからチャーハンありますよー!」
のぼりをバタバタと振り回しながら、私は店舗前に立ち、客寄せに奮闘していた。
向かいの店舗では、トキが同じように旗を振りながら、小さな声でいらっしゃい、いらっしゃいと声を掛けている。
頑張れ、トキ!
これはあくまで審査会の一環なので、お金は取らない。
取らないけど、万が一って事もある。
私は手作り募金箱を用意して、お気持ち頂戴しますの文字を貼り、店頭に並べて回った。
婆ちゃんからは、何がお気持ちじゃ、と鼻で笑われたけど、お小遣い程度に貰えるかもしれないじゃない……ね?
因みにヤマトは募金箱の真横に静かに座っている。
招き猫代わりだ。
「アスカ! お前何やってんだ?」
声を掛けられて振り向くと、オスカーさんとテオが肩を並べて歩いていた。
「二人ともお疲れ様! この審査会の噂を聞きつけて、外部から人が流れて来てるのよ。せっかくだし、皆にも分けてあげようと思って」
「ほう。それは良い案だ」
オスカーさんが微笑みながら、店内の様子を覗き込む。
「沢山入っているな。我々はつい先ほどまで審査していたから、外の様子は分からなかったのだが。まさか、これほど国民が集まっていたとは」
「本当にお祭りみたいだよなっ! あれ? トキは一緒じゃねぇの?」
キョロキョロと私の周りを見渡してテオが尋ねる。
「トキなら、ほら。あっちよ」
私が指差す方に顔を向けると、トキがその小さい身体で旗を振りながら客寄せしている姿があった。
「なに。あいつも頑張ってんだ?」
「そうよ。偉いでしょう」
にっこり笑ってそう言うと、なぜかテオのやる気に火が付いた。
「あんな声で聞こえねぇだろ。おい、トキ! もっと声出せよ! 旗は俺が持ってやる!」
そう言ってトキの元へ行き、旗をどちらが持つかで言い合っていた。
二人で客寄せしてくれるみたい。
「ならば、私はここで手伝おう」
オスカーさんが申し出てくれる。
なんたってオスカーさんもイケメンだし、いてくれたら、それは心強い。
「でも、疲れませんか?」
「食べ過ぎて、動きたいと思っていた所だ。丁度良かろう」
「そうですか。じゃあ、一緒に頑張りましょう」
私もまだ、お腹が苦しい。
騎士達がどれほど食べられるか知らないけど、城内からも結構な量の残り物が流れて来ている。
それからオスカーさんには、出来るだけ女性に声がけをして貰い、私は男の人を担当した。
ヤラシイと言うべからず。
そして、お気持ち募金箱を持って歩いたりしてみた。
そんな折。
「アスカさん? アスカさんじゃ、ないっすか!」
「うん?」
呼ばれて振り返れば、私が一番最初に食べた鳥の丸焼きを作ってくれたコックだった。
「ああ! こっちに来てたのね。皆の様子見に来たの?」
「そうなんです。やっぱ気になっちゃって。遠目に見ただけっすけど、凄い料理ばかりで。でも、やるだけの事はやりましたから」
うんうん。とっても美味しかったわよ、あの鳥の丸焼き。
「ところで、アスカさんは何してるんすか?」
そう問いかけて来たので、私は事の流れを説明した。
「へぇ。なるほど。俺、もう審査終わっちゃったし暇なんですよ。なんか手伝いましょうか?」
なんかって言われてもなあ。
私は客寄せ店舗内を見渡す。
「ねぇ。もしかして審査に使う料理の材料、余ってたりしない?」
「余ってますよ! 失敗すると大変だし、多めに調達しましたから」
んお。
「じゃあ、それ。使っちゃわない?」
ダメって言われるかな……少し不安になりながら尋ねてみると、彼の顔に笑顔が咲いた。
「そんで、ここで提供しようってわけっすか?」
「うん、まあ。無料でって事になっちゃうけど。それでも良いなら……」
「俺! 全然いいっすよ! ここに食材持って来ますんで。待ってて下さい!」
ええ、ホントぉ! やったー!
もう本当にお金取りたくなっちゃうなぁ。
でも、我慢我慢。
これは、全国民に対するアピールなのだ。
快く受け入れて貰わねばならない。
無料。それ即ち最高の快楽(収入)へと続く道。
by朱鳥
というわけで、彼の名はナットと言った。
ナットは、それはもう嬉しそうに客寄せ店舗の厨房を陣取り、料理を作り始めた。
本当に料理を作る事が好きなんだろうなぁ。
ナットが余り物の材料で料理を作り始めた事は、城下町で審査を終えてプラプラしていた他のコック達にも口早に伝わった。
私とオスカーさんが言いふらしたからだ。
そのうちの何人かが、有志で自分も作りたいと申し出てくれたので、他の店舗に回した。
城下町の会場がにわかに活気付いているという噂は、城下町と城内を行き来する侍女や騎士から大臣や領主達にも伝わったようで、気が付けば城下町会場にも大臣や領主の姿がチラホラと見られるようになっていた。
噂って凄いよねぇ。
こんだけ人が来るならもっと色々準備しておけば良かったなあ、なんて思った時。
あっ! と思い付いた。
私はその場をオスカーさんに任せ、呉服屋目指して走り出した。




