おから料理審査会①
会場は敷地内仮設。
ずらりと横並びに座る大臣達、騎士達、私と、トキの審査員。
それぞれが用意された席に腰掛けた途端にコック達が列に並び、料理を差し出す。
「うわぁ」
隣に座るトキが、思わずと言ったように声を上げた。
「まあ」
私まで声を上げてしまう。
同列の騎士や大臣達の前にどんな料理が出てるのか分からないけど、みんな驚いたように声を上げていた。
私の前にまず出されたそれは、低コストのもの。
スープ仕立てだった。綺麗な琥珀色のスープに入ってるこれは、団子かしら。お野菜などが彩り鮮やかに飾り付けられている。
そのスープを一口すくって飲んでみる。
「スープの味がいいわ。おダシが素晴らしい。おから団子の方も、アクセントになってる味があるわね」
「はい。アクセントにしたのは、シガという野菜で、余り料理には多様されない物なんですが、おからの淡白さには合うと思って入れてみました」
シガ。なんか生姜に似た味だわ。
美味しい。
「こっちが、高コストです」
出されたのは、鶏肉だった。
よく手に入ったわ。
小振りだけど、綺麗に照りのついた丸焼きだ。
その鶏肉の中におからが詰め込まれていて、肉汁を吸い、ギュッと旨味が凝縮されている。
「凄く美味しいわ。肉汁が染み込んでて、おからじゃないみたいね。お肉の方もおからが程よく脂を吸って、しつこくない。よく頑張ったわね」
そう言うと、コックは凄く嬉しそうに笑って涙を浮かべた。
この5日。本当にコック達は死に物狂いで頑張ったのだろう。
その努力が滲み出ている料理ばかりだ。
私が考えた事もないような料理が次々と出てくる。
ただ、料理は300人のコックが作る二種類。
総量600品である。
一つずつ丸ごと食べていたのでは、すぐにお腹が一杯になってしまう。
食べるのは本当に勿体無いけど、一口か二口。
あとは、審査員に回っていない騎士達のお腹の中に行く事になっていた。
味、見た目、コストに厳しく点数を付けながら、私は必ず最後にはコック達を労う事を忘れなかった。
私の無茶振りとも思えるこの審査会。
5日という短い期間。
本当によく頑張ってくれたと思う。
その後、私はお腹が苦しくなって、騎士の一人に後釜を任せ、消化する為にトキを連れて城内会場へと向かった。
「混んでるね」
ひょいっと中を見たトキが目を丸くした。
当然だわ。
何せここには、ユリウスがいる。
ユリウスは審査員列の真ん中で、あの胡散臭い爽やか笑顔を振りまいて、まだ食べていた。
「知らない人もいっぱいいるね」
トキが視線で指すその先には、見かけない服装の人達が何人か固まって、コックに話しかけていた。
あれ、きっと領主だわ。
大臣達なら変わり番こに審査員になるはずだし、この開催を知らない人はいない。
ここに来てコックに尋ねる人など、領主以外いない。
「行きましょう」
私はトキを連れて、彼らの元へと赴いた。
「ご機嫌よう、皆さん」
しきりにコックが持っているおから料理について尋ねていた領主達に声をかけると、皆が振り返った。
「これは、また美しいお嬢様ですな。ご挨拶致します。私は西方ナプタール領主、タルト・ナップナースと申します」
次々と挨拶がなされ、対して私も挨拶を返す。
「本日は、このおから料理審査会の開催日。このような日に皆様とお会い出来た事、光栄に思いますわ」
「おから料理審査会、ですか?」
「ええ。明日公布されますが、新しく考案された料理ですの。私が考案した物なのですが、それをコック達にアレンジして貰って、点数制で審査する大会なんです。よければ、皆様もご賞味下さいな。お席も用意してありますのよ」
にっこり。
笑顔、笑顔、笑顔。
「我々も食べる事が出来るのですか?」
「勿論ですわ。せっかく遠方からお越し下さったんですもの。是非参加して行って下さい。
このおから料理審査会の開催は、本日で終了ですから、今日この場におられる方にしか参加の権利はないんですのよ」
ここにいる者だけ。今日だけ。
限定。
なんと甘美な響きでしょう。
「皆様、本当に運が宜しいですわね」
うふっと笑って見せると、一同が喜びの声を上げた。
「さあ、皆様も是非その舌で厳しく審査して下さいませ。コック達は安い食材を使ったおから料理と、高い食材を使った高級のおから料理の二種類を提供しています。
その審査基準は、こちらに……よくお読みになって、点数をお付けになって下さいませ」
そう言って夜鍋した紙を全員に配る。
なるほど、味、見た目、価格価値、の3点で点数制。10点満点か。ふむ。
領主達は穴の開くほど紙を熱心に読んで、審査員席に着いた。
「お腹が一杯になりましたら、騎士と代わって下さい。良ければ他の領主様にもお声がけ下さいませね。自分だけ知らなかったとなれば、悲しむでしょうから」
なーんてね。
今から全員呼んで来い! と言いたいのをグッと我慢する。
「皆さん! ナプタール領主様もこの度の審査員として、参加して下さる事が決まりました。こちらには、アバアール領主様、ギムソナ領主様、ヘッドウール領主様もおられます。是非審査して頂いて下さい!」
私がコック達に声をかけると、ぞろぞろと列がこちらに流れて来た。
「是非、お願いします。俺、ナプタール領のコックなんです」
そう言って一人のコックが料理を差し出す。
こちらはハンバーグ仕立てだった。
「おお……食欲をそそる香りに美しい盛り付けだな。そうか、我が領の……どれ、頂いてみよう」
一口、食べて領主は料理をまじまじと見つめた。
「なんだ、これは。肉ではないな。しかし、肉のような食感だ。ソースも絶妙で、よく合っている。実に美味しい。流石我が領のコックだ」
などと、領自慢しながら、満足気に笑った。
他の領主達も食す度に絶賛して、高らかに笑い声を上げている。
自分の領主がいると分かったコック達がそこへと列を作ったようだ。
なるほど、賢い。
そして領自慢。
めんどくさい、この人達。
私は笑顔でさっさとその場から退散した。
「ユリウス様」
私はユリウスの元へ行き、にっこりと笑って声をかけた。
その隣の席にはライザーがいる。
私が来た事にも気付かず、料理を褒め称えている。笑顔が眩しいぞ、ライザー。
「おお、朱鳥か。見よ、この料理の数々を。其方が作った料理も実に素晴らしい物であったが、コック達のそれは、其方の料理に匹敵する物だぞ。これが、あの豆腐から作られた物とはにわかに信じがたい出来上がりだ」
匹敵? 何を仰いますやら。
あれは、テキトー料理と言うのですよ。
コック達の真剣さに失礼ではないですか。
謝れ。
そう言いたかった。
「ええ。私も食べて来ましたが、本当に驚く仕上がりの物ばかりです。これからは、コック達におから料理を作らせては?」
にっこり。
「うむ。確かにそれも良い案だが、やはり一番は其方が作る料理である事に間違いはない。心配せずとも、其方の生きがいを奪ったりはせぬ。安心せよ」
生きがいじゃなくて、心労だわよ。
私は料理係の任を解かれない悲しさに打ち震えながら、その場を後にした。




