おから料理審査会準備
それから、私の日常はせわしなく過ぎて行った。
婆ちゃんの所に行って、爺ちゃんの所に行って、呉服屋に行って女将の所に行って、豆腐屋にも行ったりした。
コック達は城下町を動き回り、寂れた城下町は一時的なものとはいえ、少なからず活気を取り戻したように見える。
そして、ついに審査会の概要が決まった。
一つ、この国の材料を使用する事。
二つ、必ず低コストと高コストの物を作る事。
三つ、審査場所は城内食堂、敷地内仮設、城下町店舗五つの合計七箇所で行う。
四つ、御当主様の参加決定。大臣、閣僚も参加。出す物は高コストに限定する。
五つ、味付け、見た目、コストの各種判定基準は10点を満点とし、合計点数で競う事。
六つ、各自、それぞれの料理の評価対象は、御当主様、大臣閣僚、騎士、立花朱鳥、トキ、領主から必ず1名とする。
複数の対象者に料理を提供した者はその場で失格とする。
七つ、開始は午前10時から行う事とする。
八つ、審査結果は翌日午前9時に、御当主様より発表となる。
という物だった。
その概要は、食堂内に大々的に張り紙にて通知され、コック達はもちろん、騎士達や侍女、大臣閣僚にも伝わった。
城内は、審査会の話でどこに行っても盛り上がっている。
忙しいと理由を付けて断っていた大臣も参加する事を決めたとも噂で聞いた。
そうそう、お祭り的な騒ぎって気になるわよね。分かるわぁ。
「楽しみだなっ! 早く明日になんねぇかなぁ」
隣を歩くテオが浮き浮きしながら、声を弾ませる。
「テオはどこの会場に行くつもりなの?」
「俺、城下町の店の方に行く。オスカーさんもそっちに行くって」
「そう」
騎士達も心待ちにしているようで、浮き足立っていた。
「しかし、御当主様までも参加されるとは。コック達のやる気も更に上がったようだな」
オスカーさんもそう思う?
それが、狙いだからね。ふふふ。
なんせこの国のトップなのだ。
その人に認めて貰いたいというのは、この国のコックならば当然思う事でしょう。
きっと高コスト料理はユリウスに集中するに違いない。
「ねえ、本当に俺も食べていいの……?」
不安そうに尋ねたのは、トキだ。
「当たり前よ。一番国民の舌の味を知ってるのはあなたなんだから。でも、点数制なんだから、全部に満点付けちゃダメよ?美味しくても、厳しく吟味するのよ。その差が一点でも、二点でもね。分かった?」
「そっか……うん、分かった」
「トキは私と一緒に仮設の方に行きましょう」
「うん」
トキが歯に噛んだような笑みを浮かべた。
「でもよ、あの領主ってのなんだよ。領主が集まるのはまだ先だろ? 確かに早く着いてる領主もいるけどさ。さすがに領主は審査会のこと知らないだろ?」
テオが不思議そうに尋ねて来た。
「うん。あれはね、念のためよ」
そう。領主が全て集結するのは3日後だ。
けれど、その当日に集まるわけじゃない。
早い者は昨日、今日には城内へ到着して既に城内に滞在している。
当日目指して遅れたら大変だもんね。
早めの到着を図るのは、当然の事だ。
おそらく、ピークは1日前。もしくは2日前。
それを見越しての、あれである。
審査員の事を領主達に通達した訳ではない。
ただ、否が応でも噂は耳に入ると思うのよね。
城内は明日に控えた審査会の話で持ちきりだし、それに。
「お祭りみたいなモノでしょう? 参加したいって顔出す人もいるかもしれないじゃない。領主なのにそう言われて、参加させない訳にもいなかいでしょ? だから念のため、審査員に名前連ねておいたの」
そう言って、私はヨイショっと、のぼりを突き立てた。
「これ、何個あんだよ。すんげぇ量だな」
テオもオスカーさんも、敷地内通路脇にドスっと突き立てる。
私達は明日のお祭り……じゃなかった、審査会に向けての準備をしていた。
婆ちゃんと女将、侍女一同の手を借りて作った『のぼり旗』である。
のぼりには、デカデカと『おから料理祭り』の文字。
審査会って書いても良かったんだけど、なんとなく雰囲気で祭りにして貰った。
その方が楽しそうじゃない?
「正確な数は分からないわ。生地は婆ちゃんの部屋にも沢山あったし、呉服屋からも調達したの。
後は筆で書くだけだから、作るのは簡単だったのよ」
呉服屋に初めて行ったあの日から、私達はこの『のぼり旗』の制作に励んでいた。
全ては、『領主』の興味を引く為に。
私の中でのターゲットは領主だった。
領主。このアイゼン国に広がるそれぞれの領地を纏める人間。
その人達のおから料理への認識を、公布前にその舌を持って深める為だ。
公布前の布石。これを投じていれば、公布もスムーズに領主達に認められる……と思いたい。
そして後々、そのおから料理をこのユーラに出店すると言えば、来客してくれる……と思いたい。
なんにせよ、悪い事ではないはずだし、それを大々的にアピールする為の、この旗である。
「すんげぇ目立つな、これ」
「派手が信条よ」
「ふむ。これだけの数の旗があれば、領主達の目にも留まるかもしれんな」
うんうん。
因みに準備してあるのは、これだけではない。
各審査会場の案内と、審査基準方法などを記載した紙も準備した。
夜鍋して作ったんだから。
ここコピー機とかないし。
しかも、この世界の文字で書かなきゃいけないし、爺ちゃんに書いて貰ったそれを見ながら書き写した。
そうして、仮設会場の設置を手伝ったり、審査会場となる店舗の様子を見に行ったりして、その日は過ぎ、とうとう開催当日となった。
夜明け前からコック達は各自使う厨房へと乗り込み、下ごしらえに取り掛かった。
そして10時。
敷地内に大々的に用意された仮設会場でユリウスから審査会開始の合図がなされ、大きな拍手と共におから料理審査会は始まったのである。
ついに始まるおから料理審査会!
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