ユリウスのご飯②
何が入ったか知らないそれの食感はふわふわでパサつきはなく、キャベツ多めで野菜の甘みがある。ここに豚肉あれば……
いやそれより、青海苔とソースが欲しい。
青海苔はさすがにないかな。
じゃあ、試しにパセリかけちゃう? 不味くなるかしら。いーや、やってみよう。
「すみません」
私は傍に立ち、ユリウスにおかわりを分けていた給仕に声をかけた。
「はい。何でしょうか、お嬢様」
お嬢様……ありがとう。
「パセリの微塵切りと、食堂の厨房からキッシュに頼んで今試作しているソースを貰って来て下さい」
キッシュは、おから料理を教えた日から、その味付けの為に様々なソースを作り始めていた。
私は目玉焼きにはソース派だったので、それに合うソース作りを任せてみた。
まだ完成してはいないけど、この前味見した時はまあいーんじゃないかって程度の味にはなっていた。
あれがあれば!
「朱鳥。そのような物をどうするのだ?」
食べる手を止め、ユリウスが尋ねる。
「この焼き物を更に美味しくする為に必要なのです。本当は青海苔が有れば良いのですけど、ないと思うので。お願い出来ますか?」
私が頼むと給仕は戸惑ったように、ユリウスを見た。
「持って来させよ」
ユリウスの言葉に一礼して、給仕は出て行った。
給仕が戻るまでの間、腹がよじれるような褒め言葉合戦を繰り広げながら、私達は実に楽しい食事を進めていた。
____なぜだか、胸がムカムカするようだ。
ヤマトが一人呟いている。
私も同じよ、と言いたい。
しかし彼はスポンサーなのだ。
おから料理を広げる為のスポンサー。
強いては、おから料理審査会のスポンサーでもある。
気を良くして貰わなければ。
この人には、色々とこの後も動いて貰わなきゃいけないんだから。
「お待たせ致しました。こちらで、宜しいでしょうか」
給仕が戻り、その手にはパセリの微塵切りとソースがあった。
どれどれ。
「わざわざ御足労おかけして申し訳ありませんでした。そちらで大丈夫です。どうも、ありがとうございます」
にっこりと笑って、受け取る。
給仕は頬を染めて、いえ、と小さく返事をした。
ではでは。
パセリを少々、ソースたっぷり。
「頂きます」
ぱくっ。
んおーーっ! うまーーい!!
キッシュ! あんたソースめっちゃくちゃ良くなってるじゃないのっ!!
明日からこれ使わせて貰おう!!
興奮を笑顔で抑えながら、私はにっこりと笑ってユリウスを見る。
「大変美味しいですわ。ユリウス様もどうぞ、お試しになって」
やり方を見ていた給仕が、ユリウスのお好み焼に同じようにパセリとソースをかけた。
「この、茶色のソースはなんだ?」
「それは、私がキッシュに頼んで作らせていた物です。中濃ソースと言います。好みもありますが、私はこのソースが大好きですの」
「ほう……中濃ソース。これをかけて食すのだな」
マジマジとソースを見てから、お好み焼を切り分けて口に運ぶ。
目が、大きく見開かれた。
「これは……なんと……」
うまい、美味い。ユリウスそっちのけで私はパクパクとお好み焼を食べまくっていた。
____緊張して食べれぬのではなかったのか。
緊張? するわけないでしょ、そんなもん。
私は給仕にお好み焼のおかわりを催促し、ソースをたっぷりかけて、また食べる。
しっかし、なんでドロドロしたのかしら。
何をよこしたのよ、コック達め。
後で確かめに行かなくちゃ。
またやる事が増えた。
「美味い。実に美味いな。この焼き物……お好み焼と言ったか?それだけでも十分に美味しかったが、このソースが良いアクセントとなっている。素晴らしい」
そうでしょう、そうでしょう。
日本人に感謝すると良いわ。
「ユリウス様。実は私、おからの無料配布の期間が終わりましたら、おから料理のお店を出したいと思ってますの。その時にこのお好み焼を商品として出したいと思いますわ。是非お力添え頂けませんか?」
うふっ、と語尾にハートマークでも付きそうな声色で頼み込む。
少し上目遣い。これ大事。
「其方が店を? しかし……其方がこの城から居なくなるのは……」
「私が店に立つわけではありませんわ。私はメニューを提供するだけです。何人かコックを付けて下されば、私はこの城におりますし、たまにはこうしてユリウス様にも料理をお作りしますから。
私もユリウス様とは離れたくないですもの……」
悲しげに、そっと視線を逸らす。
せっかく食べたお好み焼を吐いてしまいそうだった。
「また、作ってくれるのか?」
「勿論ですわ。ユリウス様の為に作る事が私の生き甲斐となるでしょう。でも、ユリウス様の愛する国民にもこの味を知って欲しいのです。ダメ……でしょうか」
ダメって言ったらぶっ殺す。
「其方は、本当に心優しい娘なのだな。良いだろう。その時には私が力を貸してやろう。城からも数名コックを連れて行くと良い」
きらーん! 私は目を輝かせてユリウスを見た。
あの胡散臭い優しげな笑顔がそこにある。
「嬉しいですわ!」
決め台詞!!
「ユリウス様! 大好きですっ!!」
おげぇっ! 吐くな、まだダメよっ!!
しっかり、朱鳥っ!!
「其方は……積極的な娘だな……この様な場所でそのような事を言う物ではないと言うのに……」
接客! 接客! 私は銀座の一流ホステス!!
「じゃあ……ふたり……」
二人っきりになった時に、と言いかけて、やめる。
アカン。
そりゃマクラだ。
私はマクラ営業はしないと決めている。
「二人で。頑張りましょうね。お店を出す時には。ユリウス様のお名前もあれば、お墨付きですもの。より格式高いお店になる事間違いないですわ」
にっこりと笑うと、ユリウスも微笑みを返してくれた。
「そうだな。そうしよう」
そうして、私の接待は無事に幕を下ろしたのであった。にやり。




