ユリウスのご飯①
天井には大きなシャンデリアがキラキラと光を反射して部屋を照らしていた。
謁見の間より、この部屋の方が豪華な気がする。
なるほど。それでドレスなのね。
一人納得しながらも、ご飯は和食だし、着物だって豪華にしなくて良いって言ったのに婆ちゃん気合い入れるし、格式としては合格点なはず。
「ああ、ようやく来たか……」
キョロキョロと部屋を見渡す私にユリウスの声が届く。
そして、それから何も言わなくなった。
このランプ凄い……デザインが細かいわ。
私の世界ならアンティークとして高く売れそう……元の世界に帰る時に、一つくらい貰えないかしら。
あら、あっちのキャビネットも素敵じゃない?
さすがにキャビネットは持って行けないかしら……
「朱鳥」
「あっ、はい」
振り返ると、すぐそこにユリウスがいた。
整った顔立ちの、今日も素晴らしきかなイケメンっぷりだ。長い睫毛の下にある、澄んだ青空のような瞳がじっと私を捉えている。
「実に美しい」
一体何の事ですか。
キャビネットですか。
「元よりその美しさは隠せるものではなかったが、今宵は予の為に化粧まで施してくれたのだな。其方のような美しい娘は初めて見た」
あ、私。いえ、貴方の為ではないのよ。
化粧品持つと火がつくのよね。
「その着物……其方の為にあるようだ。ドレスよりも格式高く、其方の黒髪ともよく合っている」
ユリウスは私の髪に手を伸ばし、サラサラと指先で遊びながら次から次へと褒めちぎる。
その時、私の髪の毛を嫌らしい手付きで撫でながら褒めちぎっていたスポンサーを思い出した。
そして、はっとする。
そういえば、ユリウスもスポンサーみたいなものなんだわ。
接待か! 接待なんだわ。これ。
気分良くして、更なる特権を勝ち取るのよ、朱鳥!
「まあ……ユリウス様にその様な事を言って頂けるとは、恐縮ですわ。恥ずかしくて、なかなかお伝え出来ませんでしたけど、私ユリウス様のその整った顔立ちに見惚れてしまう事もよくあるのですよ」
そう言って、ふふっと笑い視線を逸らす。
実際は笑いが出そうで堪える為だった。
「其方の輝きには敵うまいよ。今宵は月の輝きにも勝る其方と食事を共に出来るとは、予は幸せ者だな」
月の輝きだって。ぷっ。
ユリウス語録でも作ってやろうかしら。
____お主から不穏な空気が伝わってくるのは、なぜなのだ。
その様子を見ているヤマトの声が聞こえる。
ちょっと笑わせないでよ。
良い雰囲気作ろうとしてるんだから。
「ええ……ユリウス様の為に心を込めて、作りましたのよ。是非召し上がって」
____嫌いな奴に愛情は込めないと、言っておっただろう。
黙れ。
「そうか。それは実に楽しみだ。さあ、席に着くと良い」
そう言って私に腕を差し出す。私はそっとその腕に手を掛けて、出来るだけ品よく歩いた。
椅子が引かれ、優雅に腰掛ける。
続いてユリウスが席に着き、給仕が料理を運んで来た。
その料理を見て、私の笑顔が固まった。
そうだ、これだった。
「こちらが、アスカ殿が作られた料理で御座います」
私達が席に着いたのを見計らって、給仕が私が作ったテキトー料理を運んで来た。
そこに並ぶ料理から出来るだけ視線を逸らし、笑顔を絶やさない。
「ふむ。朱鳥。説明をしてくれるか?」
説明……ですか?
私は貼り付けた笑顔を崩さないように努めながら、料理を指す。
「まず、そちらは大豆を使った豆ご飯でございます。大豆は、大豆そのものとして多様する事が出来るので、その素材の自然で豊かな味を堪能して頂きたくて作りました」
____大豆をぶっ込んだだけであろう。
「そして、そちらが、鍋、と言う物になります。私の国では多くの者に愛される料理です。ふんだんに野菜を使い、味噌で味を整えた物です。豆腐も入って栄養面は申し分なく、味わい深いものとなっております」
____味見などしておらぬかったではないか。
「そしてこちらが……」
フライパン型のそれは……
ええと……
「こちらは……」
「ふむ、焼き物のようだな」
「焼き物です」
そう言って手を戻した。
説明出来るか、あんなもん。
「実に良い香りがするな。では、頂こう」
え。頂いちゃう?
私も食べなきゃダメ?
「其方の噂は予の耳にも届いているぞ。なんでもよく食べるのだとか。存分に食すと良い」
存分に……食さなきゃダメ?
「ええ、そうなのです。お恥ずかしいですわ。ユリウス様の前では緊張して食も進みませんわね、おほほほほ」
さりげなく食べれないアピールをする。
「気にするな。其方の故郷の味なのだ。堪能すると良い」
笑みを浮かべて、ユリウスは給仕が選り分けた私の料理を先に私へと運ばせた。
おおう、私からだよ。
神様……
「で、では……頂きますわ」
とりあえず、間違いなさそうなご飯から。
あら、わりと美味しいじゃない?
しかもこれ、塩味効いてるわよ?
傍にあった豆ぶっ込んだけど、塩入ってたのね、あれ。
うん、うまい。おかわりしたくなっちゃう。
よし、次。鍋。
それも給仕が皿によそってくれた。
ちょっとしたスープみたくなってる。
味噌味だけど。
よくよく見てみると、キャベツやらネギやら、人参やら、本当に具沢山だった。
試しに食べてみると、豆腐に沢山の野菜のダシと味噌が染みてとても美味しい。
私天才じゃないの。普通に美味しいわよ、この鍋。
そして最後に、給仕がフライパン型の焼き物を切り分け私の前に置いた。
「……」
「どれも、本当に美味いな。初めて食べる物ばかりだが、実に味わい深い。其方の国ではこのように大豆を使用するのか。感服する思いだな」
ユリウスは満足しているらしい。
それは、良かったわ。本当に良かった。
ユリウス、このフライパン型の食べたのかしら。
私は小さく、本当に小さくそれを切って口に入れた。
「……んっ!?」
んんっ!?
これって、これってあれだ!!
もう一度、大きく切り取って口に入れる。
おから使ってるから、少しだけ風味は違うけど……
「お好み焼……」
お皿に乗せられたその焼き物を凝視して、私は驚愕に言葉を失った。




