愛情のないご飯作り
「余ってる野菜頂戴」
腕まくりをして厨房に声をかけると、コック達が驚いたように集まってくる。
「アスカさんが、料理するんですか?」
「えっ? マジで? なんの料理作るんです?」
「おい、余ってる野菜誰か持ってこいよ!」
「良いですか。料理とは愛情です。愛情込めて作れば、美味しくなるのです。でも、愛情がない人に、愛情を込める必要はないのです」
自分に言い聞かせるようにそんな事を言いながら、中身も確認せずに、手渡された余り野菜を適当にザクザク切って炒め始める。
「あ、これも余ってます」
「これも、もう使わないだろ?」
次から次へと余り野菜が渡ってくる。
それを鬼のような形相で流れ作業の如く切り刻む。
「これも、もういいんじゃないか?」
「これ何? これも渡しちゃえよ」
「なんでも、アスカさんが嫌いな奴に料理作るんだとよ」
「え、何それ。じゃあ、これもやっちゃう?」
「これも入れればいいんじゃねぇか? ぷぷっ」
私はよく分からない材料を渡される度に切り刻んで炒め、おからと混ぜ合わせる。
気がつくと、大量のおからが出来てしまっていた。
これ味付けして、フライパンで炒めるの、一苦労の量なんだけど……ドロドロしちゃってるし。
なんでドロドロしちゃってんのかしら、ぷぷっ。
もうこのまま、焼いちゃおう。
おからさえ使ってれば、いいはずだわ、うんうん。
そしてそのまま、どがっとフライパンにドロドロしたおからを全部入れて蓋を閉じて焼く事にした。
あと、ひっくり返して終わりにしよう。
そうして出来た訳のわからないおから料理は、焼き上がると、とてつもなく良い匂いがした。
なぜ。
「なんか、すげぇ良い匂いしねぇ?」
コック達の悪戯を笑いながら見ていたキッシュが、ひょこっと奥から顔を覗かせた。
「ええ、気のせいじゃなかったのね。なんでしょうね、これ」
「ちょっと食ってみろよ」
「嫌よ。これ、闇鍋に等しいわよ、きっと」
「闇鍋ってなんだよ」
「電気消して鍋物にテキトーな材料ぶっ込んで作るやつ」
ああ! そんな料理あったわ。
あとは、それでいいわね。よし。
まだ切った野菜はごっそり余ってるし。それぶっ込んで鍋ってことにしよう。豆腐入れればそれっぽくなるでしょ、うん。
心に決めて、私は闇鍋に取りかかった。
鍋は手間が掛からなくて最高よね。冬にはよく作った。余り物野菜さえあれば出来るんだから。
2品あればいいでしょう。
後はご飯?
豆ぶっ込んどけばいいでしょう、はい。
私は鍋に切った野菜を全て投下し、ぐつぐつ煮込んで豆腐をテキトーに放り投げ、味見もせずに味噌をといて、終わりにした。
「おまっ、味噌をそのごった煮に入れるのかよ。
勿体ねぇ。いくら豆腐も入ってるからって」
米をといていたコックの横入りして、そこにあった大豆もテキトーにぶっ込む。
ええっ!! とコックが騒いでいたがスルーした。
これだけ大豆使えば文句はないでしょう。
そうして出来た料理は、なんだか分からない良い匂いのするフライパン型の焼き物と、味噌で味を整えた鍋風ごった煮。豆ご飯。
味見、なし。
よし、行こう!
そう、思った時だった。
「アスカ殿は、こちらか」
不意に聴き慣れない声がして、一斉に皆が振り返る。
あなた誰。どちら様。
「はい。私ですけど」
「ふむ。御当主様より、夕食の御招待がある。自室に着替えが届いているはずなので、それに着替えて参れとの事だ。食事は御当主様の自室にて摂る事になる為、私が案内を申し使っている」
「……はい?」
なんですって? 夕食の御招待?
着替? わざわざ?
何考えてるの? あの人。
ぽかーんとする私を他所に、その男は奥へと視線を流した。
「作られた食事は、そちらか。ふむ、大層良い匂いがするな。その料理は先にコックに運ばせよう。アスカ殿は部屋へ参られよ」
「へっ? はぁーー??」
じゃあもうちょっと、マシな料理作れば良かったぁっ! 後悔先に立たず。
そうして、私はコック達が心配そうに見守る中、すごすごとその場を後にしたのであった。
「アスカ……あれ、大丈夫なの」
先頭を行く男性の背中をチラチラと伺いながら、トキが小声で耳打ちする。
「だ、大丈夫よ。変な物は入ってないはずよ……」
何入れたっけ。何入れたっけ。そう言いながらも、私は必死に使った材料を思い出していた。
「あのドロドロしたやつ。食べれるの?」
水も入れてないのに、なぜドロドロしたんだろう。摩訶不思議よね。
「あれは、ユリウスにだけ食べさせればいいわよ」
毒味、大事。
「御当主様のお腹壊したらどうするの?」
トキが不安そうに、コソコソと耳打ちする、
「お腹が軟弱ねって言えばいーのよ」
「アスカは頭がいいんだね」
冷や汗をかきながらも、そう答えた私にトキは感心しているようだった。
悪い子になったら、どうしよう。




