東の大国アイゼン国の違和感
「おっいかんいかん、申し訳ない。動けるか? 外で話したいことがあるのだが」
テントをのぞき込んだ男性は慌てて一歩後ろに下り、テントの外に出た。
わたしはこてんと首を傾げてみせた。
一旦入ろうとしてやめるなんて変なの。
「はい。今行きます」
ん、喉がガラガラだ。
あれだけシャウトしたのだから当然といえば当然だけど。
――大丈夫なのか。
「平気よ」
心配そうな目を向けるおニャン子様に小さく笑い返してみたけど、ぎこちないものになってしまった。だって動くとあたまがガンガンするんだもの。
這うようにして外にでると変わらぬ青空が天高く広がっていた。
わたしはバキバキに凝り固まった体をうーんと伸ばし、めいっぱい太陽の光りを浴びる。
……よし! 元気!
ぐるっと辺りを見回してみたけど、わたしが使用していたもの以外にテントは見当たらなかった。もしかしてわたしのためだけに設置してくれたのかしら。そうだとしたら申し訳ないことをしちゃったわ。感謝の念とともにそんなことを思った。
「こちらだ」
先ほど呼びに来てくれた男性が手招きをしている。
後を追いかけて出向いた先には、何十人もの男の人たちが大きな布をシート代わりにして円陣を組むように胡座をかいていた。
「お目覚めになりましたぞ」
男性が皆に向かってそう伝えると、一斉に全員が私を振り返った。
みたところ年齢はてんでバラバラ、十代くらいの若者から五十歳ほどの壮年まで。だけどそろって同じ服を着ていた。上下黒地のスーツタイプ。襟元や胸に銀細工の飾りを施さ
れた軍服のような装い。そして脇には鞘に収められた刀剣が置かれている。
お母さんは時代劇に出演することもが多くて、幼い頃から現場に付き添っていたわたしは自然と小道具についても詳しくなった。結局じっと腰かけて見学しているしかないから、スタッフの方が子守りをしてくれたのよね。
だからなんとく目がいってしまう。
彼らのそれはまるで日本刀だ。
鞘に入っているからよく見せてもらわないとわからないけど……多分、古いタイプの剣だわ。
日本刀は時代とともに改良を重ねて形を変えてきた。昔のは反りのない直刀で、平造と切刃造というものがほとんどで、彼らが携える剣はそれとそっくりだ。
ならばここが奈良時代の日本でしたっていわれた方がしっくりくるんだけど――
着ているのは洋服なのよねえ。この世界って変わってる。
でもいまさらよね、しゃべる猫がいる時点でおかしいんだもん。
「その……あの時は他のことに気を取られていて皆さんが来られたことに気が付かなかったんです。それですごく驚いてしまって。お騒がせしてしまって本当に申し訳ありませんでした」
やや萎縮しながらも、そういってぺこりとあたまを下げた。
「あたまを上げられよ」
ありがたく頭を上げてみれば、声をかけてくれたのはまだ若い男のひとだった。
歳の頃なら二十くらい。背の中ほどまである長い黒髪をひとまとめに後ろで結わえ、透き通った黒目でわたしをみている。凛とした佇まいは男らしく、端正な顔立ちにはほのかに艶っぽさがある。そんなひとだった。だけどぎゅっと寄せた柳眉には不満が刻まれている。
やっぱり何か怒っているのかしら。
と、思ったけど予想に反して彼は殊勝にもあたまを下げた。
「謝らなければいけないのはこちらの方だ。騎乗した状態で不用意に近寄るべきではなかったと反省している。どうか許してほしい」
それに続いて周りの人達もみな一斉に頭を下げる。
わたしは驚きのあまりブンブンと手を振った。
「いえ! あれは本当に自業自得で。わたしが悪かったんです。テントまで使わせてもらいましたし感謝こそしていますが、謝られるようなことは何もありません。どうかあたまを上げてください」
どれくらい寝ていたかわからないけどテントの存在は有り難かったと思う。
多分、気絶したわたしを誰かが運んでくれたんだろうし……何から何まで迷惑をかけているのはこちらだ。
「そういってもらえると助かる。まずはこちらに来て座ってくれ。まだ体調は万全ではないのだろう? 男所帯で申し訳ないが、立ち話をさせるわけにもいかないからな」
「はい。あの、じゃあ、お邪魔します……」
彼の近くに座っていたひとが場所を空けてくれので、ちょこんと正座する。
隣にはおニャンコ様が当然の顔をして腰をつけた。
「紹介が遅れたが我らは東の大国アイゼンの中央都市、ユーラから参った騎士団である。わたしはこのたびの指揮を任されているオスカー・ベッドフォードという。現御当主である頼朝様より命を受けて、そなたを迎えに参った次第だ」
わたしは無意識に瞬きを繰り返した。
「今、よりとも……様って言いました?」
よりともって日本人に付ける名前みたい。しかも古い時代のように感じるけど。
あの日本刀といい、御当主様の名前といい。
もしかしてわたし異世界にきたんじゃなくてタイムワープしたのかしら。
でもこのひとはオスカーさんよね?
なんで御当主様だけが和名なかしら。
「そうだ。我が国の御当主となられるお方は代々その名を受け継ぐ決まりだ」
わたしは首を傾げた上に眉をよせる。
「じゃあ、初代御当主様がその名前を襲名されたんですか?」
「いや。確か六代目の御当主様からだったと記憶しているが」
六代目? なんて中途半端な。
その時に誰から襲名したというの?
オスカーさんは東の大国からきたといっていたけど、そこで暮らしているひとはみんな和名なのかしら。少し気になるけど他にも聞きたいことはまだある。わたしは話題を切り替えることにした。
「それで当主様の命令でわたしを迎えにきたっていいましたか?」
「そうだ」
迷いのない返事だった。
だけどそれが一番あり得ないのだ。
「きっと誰かと人違いしてます。信じてもらえないと思いますけど、わたしはこの世界の人間じゃありません。気付いたらこの砂漠に着地……というか転がり落ちていたというか。だからこの世界のひとがわたしのことを知っているはずがないんです」
異世界からきたなんてあたまのおかしい女だと思われるかもしれないけど、事実だし隠す気もない。
ある程度、馬鹿にされることを覚悟していたわたしに、オスカーさんは意外にも真剣な表情で静かに言葉を紡いだ。
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