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呉服屋

 午後、私達は城下町へと下りていた。


 傍には財布を握るミカンと婆ちゃん、そしてトキがいる。急遽呉服屋に行きたいと申し出た私の言葉を二人は首を傾げながらも了承してくれた。


「此処がそうじゃ」


 そこは平家作りの、和風な建物だった。


 この城下町には洋館もあるけど、その中でもこの呉服屋さんの佇まいは歴史を感じる風情がある。ただ、残念なことに店は閉まったままだ。


「閉まってる」


「当たり前じゃろう。今やこの呉服屋から生地を買っておるのは、わしくらいじゃからの。その際も主人が城へ届けに参るのじゃ。店はもう長い間開いておらぬ」


「はあ……」


「でも、店主さんはいらっしゃるんですよね?」


 ミカンも実際に訪れたこたはなかったのか、きょろきょろとその外観を見ていた。


「ああ、おるじゃろう。裏の勝手口から回れば開いておるはずじゃ」


 それで私達は婆ちゃんの案内で裏手へと回り勝手口をくぐって、その店内へと足を踏み入れた。


 店内には、部屋中の壁を塗り潰すように、衣紋掛けに着物がかけられている。


 商品棚には、無地の物から柄物、ちりめんと、布地が色鮮やかに並べられている。


「店主! いるんじゃろ、わしじゃ。ミズノじゃよ」


 すると、奥からカタカタと微かな音が聞こえ、一人の着物姿の女性が姿を現した。


 まだ若い。多分キッシュと同じくらいだと思う。


 てっきり婆ちゃんと同い年くらいだと思っていた私は少し驚いた。


「あらまあ、ミズノ様。勝手口からお招きするとは、失礼致しました。御用件がおありでしたら、私から伺いましたものを」


「良いのじゃ。今日はこの店に赴なければならぬ用件があっての」


「はあ。なんでしょう?」


「ちぃとこの店にある物を巫女……此処におる娘に見せてやって欲しいんじゃ」


 婆ちゃんがそう言うと、女店主が私に顔を向けた。


「おやまあ、まだ若い娘さんですねぇ。このような娘さんがこの店に赴く用件など、とんと見当たりませんが……娘さん、何をお探しです?」


 目尻の垂れ下がった、優しそうな人だった。


「この店にある全ての生地と、小物などもあれば見せて下さい」


「生地と小物ですか? 全て、と申しますと、それはまあ、たいそう時間がかかりますが、宜しいので?」


「はい。構いません」


「では、此処では少し手狭ですねぇ、あちらへどうぞ」


 そう言って案内された先は、横長に伸びた広い和室だった。


 そこへ案内されて待つ事しばし。


 女主人ともう一人、トキと同い年くらいの女の子が布地を抱えて入って来た。


 緊張したように表情を硬くして、不慣れな動作で女主人を見真似ている。


 その子に視線を移した事に気付いたのか、女店主はその子の肩にそっと手を乗せてにっこりと笑った。


「うちの娘です。ミヤビと申します。 店もずっと閉めたままですし、接客に関してはまだまだ不慣れなのです。ご容赦下さいませね」


 そう言うとミヤビは、ペコリと手を添えて頭を下げた。


「ちゃんとお辞儀が出来るのね、偉いわ」


 関心してそう言うと、女主人は少し驚いたように私を見た。


「お辞儀をご存知なので? この国の者でお辞儀を知る者は少ないと思うてましたが……」


「左様。この娘はあの時見の巫女様と同郷の人間なのじゃ。わしも驚くほど着物にも精通しておる。此処へ赴いたのも、何か訳があっての事じゃろう」


「そうでしたか……あの時見の巫女様と……」


 ふんわりと笑って、それから彼女はミヤビと一緒に次々と生地を部屋に運んで来た。


 私は婆ちゃんと相談しながら、何時間もかけて一つ一つ生地を選んで行く。


 選んだ生地は6つ。


 ないかと思っていた小物も、数点だけだったけど置いてあった。


 それを組み合わせて、この10日で量産する。


「10日で、ですか?」


 女主人が口にそっと手を当てて考え込む姿勢を見せる。


 実際、私も作った事がない物だった。


 一つ作るのにどれほどの時間がかかるのか、想像もつかない。


 女主人の返答によっては、この計画は頓挫する事になる。私は祈るような気持ちで女主人を見つめた。


「なんとか、なると思います。ミヤビは、幼い頃から私と一緒に仕事に携わっておりましたから、手先は器用なのです。ミヤビにも手伝って貰えば期日までには納品できるかと」


 その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。


 良かった。私も手伝いたいけど、裁縫は、婆ちゃんのお墨付きがあるほど不器用だから。


 私の手が、指が、私の意思に背くので。ここはお任せしよう。


「ならば、わしも手伝おう。そのような小物を作る事は暫くしておらん。忘れてはならぬからの」


 婆ちゃん、やりたいんだろうなぁ。


 確かに、お城じゃ使わないもんね。


 きっとウズウズしているであろう、婆ちゃんの申し出に、私は首を横に振った。


「婆ちゃんには、他に頼みたい事があるの。それは城に戻ってから話すわ、女将の手も必要になるかもしれないし」


「侍女長だと言うておろうが」


 それから私達は呉服屋を後にして城へと戻り、侍女長を呼んで話を付け、嫌々ライザーに会って事情を説明し、渋々領主のリストを複製して貰って、それを吟味した。


 営業の成功の元は、相手のニーズを知る事にある。


 それらの情報に精通していたのは、ロウェル爺ちゃんだった。


 もちろんライザーや閣僚達も詳しいけど、私に構ってる暇はないはず。


 私はロウェル爺ちゃんにも協力を仰ぎ、情報収集に努め、夜にはまたおから料理講習会へと出向いた。


 目まぐるしいけど、時間がないので仕方がない。


 コック達への講習会も、明日には全員基本的なおから料理は覚えられる予定だった。


 となると、領主達が集まるまで一週間ほど余裕がある。


 この時間を無駄には出来ない。


 明日からのスケジュールを頭の中で立てながら、私は針と布地を握ったまま、夢の中へと落ちていった。















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