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コック達の朝ご飯

「ちょっと。なんであんたまで来るんだよ」


 むすっとした表情を顔に浮かべたテオは、金髪碧眼の男を睨みつける。


 朝4時過ぎ。

 男たちは食堂へと向かっていた。


「ああん? こいつが全然起きねえからに決まってんだろ」


「だからってそんな持ち方……」


 キッシュを咎める声を上げたのはトキだ。


 キッシュの肩には未だ目を覚まさないアスカが小麦粉の大袋でも担ぐように、乗っていた。


「こいつがいなきゃ、食堂を早く開ける意味がねえだろ。いつまでも来ねえと思って来てみりゃ、婆さんは疲労困憊してるわ、お前らはただ黙って見守るわ。起こせねえなら、お前らこそ来るんじゃねえよ」


 はっと鼻で笑って、そう言ったキッシュに一同は苦い顔をした。


「しかし、トキが言うようにその運び方には問題がある」

「人攫いみたいだよ……」

「荷物みてえに持ちやがって」


 各々がキッシュを咎めるも本人はなんのそのと言った様子で、軽やかな足取りのまま、結局食堂前までその状態でアスカを運んでしまった。


「着いたぞ。おい、起きろ。起きねえとその可愛い唇奪っちまうぞ」


 アスカを床に降ろし、キッシュがそう言った途端、皆が必至の形相でアスカを揺さぶり起こし始める。


 いつもアスカと一緒に居る猫までが、ぽすぽすと軽い音を立てながら彼女を叩く始末だった。


 その様子をキッシュは実に楽しそうに見て笑う。


「アスカさん!おはようございますっ!」

『おはようございます!!』


「あ……ええと、おはようございます」


 気付いたら私は食堂の前までワープしていた。


 何がどうなったのかは知らないけど、部屋から食堂まではそれなりに距離がある。寝ながら歩いて来たのかしら。


 ウォーキン〇デッドのような様を想像してみたけど、結局は思い出せなかったので、考える事はやめにした。


 起きがけに、頭の中でヤマトが、不埒な真似は許さんぞ!! とか怒鳴ってたっけ。


 あれどういう意味。


 半分寝ぼけながらも私は用意された席に着いた。


 周りにはオスカーさん率いる第四騎士団のメンバーとコック達。


 いつもはカウンターに取りに行かなければ何も置かれていないはずのその長テーブルの上には、既にこれでもかと言う程の料理の山が所狭しと並べられていた。


 その様子を見た途端に靄が晴れ、頭が動き始める。


「凄い……これ全部皆さんが作ったんですか?」


「そうです! 自分は昨日教わったばかりなのでまだ上達してませんが、アスカさんの為に作りました!」

「あっ、お前ずるいぞっ。アスカさん、こっちは俺が作った奴なんですけど、厨房借りて練習したんですよ! こいつのより美味しいと思います」

「俺の方が味は良い」


 次々とアピールされて、思わず笑ってしまう。


 その笑顔に惚けているコックを、テオとトキは静かに睨み付けていた。


「皆さん、本当に頑張ってくれているんですね。凄く嬉しいです。私、沢山食べますから! 一緒に食べましょう」


 そう言うとコック達は実に嬉しそうに顔を輝かせ、席に着いた。


 コック達が作るおから料理は騎士達にも大好評でスカスカと料理が消えて行く。


 今までが質素で味も代り映えしない物だけだったから、余計に嬉しそうだ。


「ほらよ。試しに作ってみたんだ、後で感想聞かせてくれや」


 そう言ってキッシュが運んで来たのは、大豆の煮ものだった。


 コック達にはまだおから料理しか教えていないけど、キッシュには大豆料理も何種類か教えてある。


 アイゼンでは砂糖は貴重な物だった。決して手に入らないわけではないけど、その多くはセノーリアに収められているのだそう。


 大豆の煮ものには砂糖がいる。その貴重な砂糖を使ってくれた事に私は感謝した。


 一口食べると、柔らかくほろりと豆が崩れ、仄かな甘みが口の中いっぱいに広がる。


「美味しい〜!! 神に感謝!! キッシュに感謝!! ナマステ!!」




 __ナマステとはなんなのだ。




 ヤマトの問いかけを華麗にスルーして、そう叫ぶとキッシュは大げさだな、と言ってまんざらでもない笑顔を浮かべた。


 甘い物食べたの久しぶり過ぎて涙が出そう。砂糖万歳。


「キッシュさん、ずるいですよ。なんですかその料理は」

「ちょっと俺にも……」

「俺も」


 貴重な砂糖を使った料理だった為、それほど量はなかったけど、私はキッシュの了承を得て皆にも分けてあげた。


 皆口々に美味しさに目を見張って、これは大豆から作ったんだと説明すると、驚愕の声を上げてしきりに感心している。


「ついに法案が纏まったのだそうだ」


 そんな彼らの様子に目を向けながら、オスカーさんがそう言うと、騎士達の視線が彼に集まった。


「では、早馬が……」


「集まるまでにはどれほどかかるだろうな」


「10日ほどあれば集まるのではないか」


 口々に意見を交わす。


「ああ。御当主様も10日後を見込んでおられる。10日後には国内の領主が一斉にこの城に集う。警備体制を万全にしろとお達しがあった」


 その言葉に一同が頷いた。


 ついにあの伝承の公表がなされると共に、新法案の公布がなされる時が近づいて来た。


 あと10日……間に合うかしら。


 とりあえず婆ちゃんの所に行って話をしなければ。私はやるべきリストを頭の中で整え、満腹になったその身体で食堂を後にした。

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