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執務室

「……それとこちらが法案要項と、招集する各領主の名簿、規模、必要経費などの報告書になっております。それでこちらが……」


 当主執務室。


 現在、ライザーが山のような書類を抱えてユリウスの傍に付き、確認と署名を求めていた。


 最後の一枚を手に取り、その内容に目を通した彼は、小さなため息を吐いてその書類をユリウスに手渡した。



「厨房から許可申請が出ています。……普段より1時間早く食堂を開けたいという申請です」


「厨房から? 珍しいな、確か食堂の開放は5時からではなかったか? そのように早く開けてどうするのだ」


「朱鳥殿と招集したコックを先に分けて配膳する必要があると」


「どういう事だ」


 話しながらも動かしていた署名の手を止め、ライザーを見やると彼は苦々しい顔をして立っていた。


「実は先日、初回のおから講習会を終えた翌朝の出来事だったのですが……」


 ライザーから一連の出来事の報告を受けたユリウスは、笑いが止まらなかった。


 確かに朱鳥はこの世界では珍しい黒髪を持ち、美しい娘だが、なぜおから料理の講習会が握手の行列を作る事になるのか。


 あの気の強そうな娘が、笑顔で対応したとはどういう事なのか。あの娘に心酔したコック達が朱鳥の為に料理をし、食堂で待ち詫びるとは。


「くくく、まあそういう事なら仕方がないだろう。許可をくれてやれ。あの寝坊助の娘が起きられるかまで責任は取れんがな」


「は。その時にコックから聴取したリストがオスカーより上がって来ております」


「ふむ。使える物は使った方が良いだろう。リストアップされている現地の農家に協力を仰げ。その為に握手をしたのだろうからな」


 未だこみ上げる笑いを堪えてユリウスは言った。


 本当に面白い娘だ。異世界の知恵だろうが、外で食べ物を作り配布するなど聞いた事もないし、無料で配布してアピールし、更にその先の情勢を見越した話まで出した。


 しかも国民の仕事を増やし、国益にし、自分の利益まで考えてだ。


 あの時はその知恵に感服の思いだったが、あの娘の周りでは予想も出来ない事が起こる。


「かしこまりました。それと本日付けで法案が可決されます。領主の招集に伴い、城内を整備するよう指示致しました」


「ああ。可決次第、各地に早馬を飛ばせ」


「は」


「それにしても、ますます放しがたい娘だ……」


 薄っすらと笑みを浮かべたユリウスの瞳には、一国の当主としての強かで狡猾な色が静かに熱を発していた。


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