歓喜の悲鳴
「だああああああああっ!! 疲れたっ!!」
「ほんとだぜっ! なんだよ、あいつら! お前気付いてたか? 調書取り終わってんのにまた列に並んで握手してた奴いたんだぜ!」
「なんか気持ち悪い目でアスカの事見ている人もいたよ……」
「明日からが思いやられるな」
口々に愚痴を零しながら私達は帰路についたのだった。
その夜。部屋に戻ってすぐ布団へダイブした。
久々の握手会……もとい仕事にぐったり疲れてしまった私は浴衣にも着替えず爆睡して、翌朝なぜがヤマトにガミガミと怒られる事になってしまった。
なんでも私の寝相が凄く悪かったらしい。
いままで文句言われた事なかったのに、よほど酷かったのかしら……まあ覚えてないからいっか。
翌朝、食堂。
「な、なにこれ……」
食堂は今まで見た事もないほど、ごった返していた。
閣僚達が呼び戻された事に付随して、待機していた騎士も呼び戻されたのは知っている。
そこにさらに300人のコックが増えたのだから、今や城内は大所帯になっているのは分かってはいた。
所狭しと席を詰めて、騎士もコックも関係なくテーブルに座り、その後ろではトレイを持って席が空くのを待ってる人もいた。
「どうなってるの」
分かっているけど、騎士達は人数が多い為、班ごとに時間をずらして食事を取っていたはず。
そこにコック300人が追加されたとしても、皆一斉に朝食を取るわけでもないのに、この混みようは一体……
「嬢ちゃん! こっちだ、来い!」
「はっ? え、キッシュ? 待って、どこ行くのっ?」
人混みの中から突如キッシュが現れて私の手を引く。人混みを押し分けながら進んで、キッシュは私達を厨房の中へと招き入れた。
「なんで厨房?」
きょとんとして尋ねると、はあああっと大きなため息をついて、その綺麗な金髪をぐしゃぐしゃと搔き乱す。
「それはだなあ、遠征して来たコック共のやる気が凄まじくてよ。
昨日の帰り際に嬢ちゃんも朝食はここで摂るのかって聞かれたもんだから、ああそうだ、それに何杯もおかわりする大飯食らいだって言ってやったんだ」
「ま、そうね。間違ってないわ、それで?」
「そしたらあいつら、自分の料理を嬢ちゃんに食べて貰うんだって息巻いてよ。
講習会の為におからも大量に城内にあったし、せっかく習ったんだから、おから料理を作りたいって朝早くからコック共が厨房に押しかけて来やがったんだ。
おかげで朝食の準備はすぐに終わったんだけどよ、コック共がおから料理作り過ぎちまって、配っても配っても余るくらいあるんだよ。
そんで今日のおから料理のおかわりは自由だって言ったんだ。そしたら今度は騎士共がおから料理気に入っちまったみたいで、全然席を離れねえんだよ」
大笑いだ。
私はお腹を抱えて爆笑した。
なるほどね、騎士達が席を離れないから、あれほどごった返してたってわけ。
コックにやる気がある事も騎士達がおから料理を気に入ってくれた事も実に喜ばしい。
歓喜の悲鳴ってやつじゃない。
「良かったじゃないの。私は嬉しいわよ?」
「これを聞いてもまだ笑っていられりゃいいけどな」
そう言ってキッシュがにやりと笑う。
なにその顔、なんなのよ。
「食堂から離れねえのは騎士だけじゃねえぞ。コック共も皆嬢ちゃんに会う為に食堂で待ってやがる。昨日の握手が効いたんだろうぜ、良かったよなあ?」
その瞬間、昨日の握手会を思い出し、私の顔から表情は消え失せた。




