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おから料理握手会

 それから私達は手分けして役割を分担し、コック達を班分けして、教えて回った。


 さすがに300人もの人数をいっぺんには教えられない。


 二時間が経過しても、コック達はお互いに教えあったり、さすが専門職だというような意見や質問まで飛び出して、後半は質疑応答の場と変わった。


 豆腐屋で探し出せなかった醤油。


 あれがあれば味は格段によくなるのだけど、と言ったら本当に様々な意見が出て、『ランナ』という調味料が一番醤油の風味に似ていた事から、私達はその場でおからを作る際にはランナを使用する事に決めた。


 おから作りにはこれと言った決まりはない。豆腐のおからを利用さえしていればいい。


 出来れば野菜と鶏肉が沢山あると良い、と話した時だった。


「自分のとこの故意にしてる農家があるんですが、そこで質の落ちた野菜が売り物になんなくて、家畜にやってるって言ってた。もしかしたらくれるかも」


「ああ、俺のとこの農家も同じ事言ってたなあ」


 うちも、おれも、と一同騒めき出す。


 家畜に? 売り物にならないって。でも国民は貧窮してるって言ってたのに、なんで家畜にやってんのかしら。


 私は首を傾げながらも、声を掛ける。


「そういう事なら、その農家の方に声を掛けて家畜に回している野菜を分けて貰いましょう。家畜に回すより、人の食べ物となった方が有意義でしょうし。出来そうかしら」


「声を掛ければ、良いって言うと思いますよ」


「じゃあ、そういう農家を知ってる人、場所と名前を教えて下さい」


 私が持って来たノートを広げてそう言った途端に、大波のようにどっとコック達が押し寄せて来た。


 ええっ!! こんなに!? ちょっと待って、待ってえええええ!!


 もみくちゃになってあっという間にコックに囲まれる。


「アスカっ! ちょっとおまえら、待てっ! 落ち着けっ」


 テオが目を丸くして大慌てで走ってくる。


 一斉にどこの誰んとこの農家が、と言われて目が回りそうになる。頼むから、一人ずつ並んでよっ! 並ぶって事知らないの!?


「ストーーーーーーーーーーーーーーップ!!!!!」


 ぐわっと立ち上がり、天に向けて大声で叫ぶ。


「整列しなさいっ! そこっ、押し合わないっ! 私、オスカーさん、テオの前にそれぞれ一列に並びなさい! 一人ずつ調書を取ります。さあ、並んで!!」


 どよどよとコック達が動き始め、私はノートをびりっと破いてオスカーさんとテオにボールペンと一緒に手渡す。


「すみません。こんなにいるなんて思わなくて。手伝って下さい」


 オスカーさんもその様子には驚いたようだった。


「ああ。大丈夫だ、私もテオも字は書けるからな」


 良かった。それで私達三人はそれぞれテーブルに腰掛け、ずらりと並んだコック達の調書を取るはめになった。


 なぜ、どうして、こんなことに。


 厨房のコック達は食堂内に三列になって並ぶ彼らの様子をポカンとした顔で見ていた。


 おから作りの講習会だったはずなのに、サイン会みたいになってる。


 てゆーかこれ、全員並んでるんじゃ……


「マイセルの東地区にあるトックって奴の農家で家畜にやってるって言ってました。その、アスカさんはどちらの出身なんですか?」


「シャーナルって村のメリッサがやってる小さい農家なんですけど。アスカさんて、結婚されてるんですか?」


「パックって町のウランって奴が家畜に野菜やってるって言ってました。アスカさんの髪の毛、とてもお綺麗ですよね。いえ、髪だけじゃなくてお顔もすごくお綺麗なんですけど……」


 なぜか調書を取る度に余計な言葉が付いてくる。


 初めは丁寧に答えていたんだけど、調書の内容を書き取るより、受け答えの方が疲れてしまって、げっそりして来た。


 しまいには握手までせがまれるようになり、本当に握手会のようだと感じた私に、モデルスイッチが入る。


 どんなに疲れても、どんなに気持ち悪くても、どんなにウザくても、笑顔。笑顔。笑顔である。


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ。ぜひまた会いに来てくださいね」

 にっこり。


「ありがとう。あなたの髪の色もとても素敵だわ」

 にっこり。


「ありがとう。いいえ、結婚はまだです、今はおから料理を広げる為に一生懸命だから。一緒に頑張りましょうね」

 にっこり。


 それぞれ、顔を赤く染めて照れながら、列を後にする。


 その様子を見ていたトキは、まるで警備員のように私の傍に厳しい顔つきで並び、触らないで下さい、と私への接触を懸命に阻んでいた。


 この子、警備員の素質があるんじゃないかしら。


 更にその横ではテオが調書を取りながらも、おいっそこのお前、アスカに余計な事言うんじゃねえ! とぎゃあぎゃあ喚いている。


 オスカーさんは爽やかな表情で、厨房のコック達を動員し、私の列に並んでいるコックを自分の列に引っ張っていた。




 __なぜこやつらは、お主に握手をせがんでおるのだ。




 足元にいるヤマトが不思議そうに尋ねる。


「知らないわよ」

 にっこり。




 __今の者は何も言わずに握手だけして行ったが。




「そうね」

 にっこり。




 __なぜお主はおかしな顔をしているのだ。




 おかしなって。失礼ね。

「営業スマイルってやつよ」




 __お主はいま営業をしておるのか?




「知らないわよ」


 額に怒りマークが浮きそうである。


 そうしてやっと全ての調書を取り終わったと思ったら、すでに夜中を回っていた。


 私は慌てて解散を宣言し、また明日同じ時間に集合するように呼び掛けると、はいっ!! とまるで軍隊のごとく声を揃えてコック達は皆やる気に満ち満ちた返事を返してくれた。


 私は笑顔を張り付けたまま、ではまた明日皆さんとお会いできるのを楽しみにしています、とその場を後にしたのだった。

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