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おから料理講習会開始

 しっかし、着物を売り出そうと思っても、お金を出す人がいないんじゃ売れない。


 なにせ、国民は貧窮している。


 安価のおからならまだしも、着物はこの世界でだって高値で売れるはず。


 食べ物より優先して衣服に大金だすバカはいないだろうし。


 うーん、参ったなあ。悪くない案だと思ったんだけど。


 むむむと部屋で物思いに耽ってうなっていると、廊下から可愛らしい声がした。


「巫女様、準備が整いました。お時間です」


 ああ、もうそんな時間なのねと、私は立ち上がる。




 __今日からだったか。




 ヤマトの声に私は頷く。


 ユリウスが集めた大臣閣僚各種は、法案成立に向けて動くと同時に、人件費削減の為に待機させていたコックを全て城内に呼び戻した。


 それだけに留まらず、主な派遣地に在住するコックにも詳しい事情は伏せたまま、城内に集結させた。


 これからそのコック達は、おから料理を習得し、派遣されるまでこの城内で暮らす事になる。


 講習会の時刻は夜9時から始まる。


 厨房を借りて行う為、夕食の片付けが終わった後でなければ、出来なかったから。


 今日はその初日。


 私はミカンと共にトキを伴って食堂に向かった。オスカーさんからの報告によれば、300人ほどが集まったとの事。


 これからその全ての人におから料理を教えなくてはならない。


「上手く出来るかしら……」


 少し不安になる。


 だってそんな大人数に料理を教えた経験なんてないもの。誰かと料理をしたことなんて、涼太とくらいしかないのに。




 __案ずるな。豆腐屋に出向いた時も、皆にしかと教えていたではないか。それを繰り返すだけだと思えば良い。




 ふふ、頼もしいなあ。

 私はお礼を言ってヤマトを抱き上げた。


 不安になる時いつも相談に乗ってくれたのは涼太だった。今はその涼太がいない。


 今でも、たまにこれで良かったのかと不安になる時もある。でもその度に不安はヤマトが払拭してくれていた。


 この前は悪魔とか思っちゃってごめんねと、内心呟く。


 食堂に到着すると、大勢の人達が私の到着を待ち構えていた。


 ぞろりと揃ったその顔ぶれを見た時、あれ、と思った。


 金髪と茶髪がほとんどを占めていて、黒髪の人がいなかった。


 これだけの人数が揃っているのに、黒髪がいないなんて。そんなに珍しいものなのかな、黒髪って。


 私は内心首を傾げながら歩み出て、厨房カウンターの前で見知った顔ぶれを見つける。


 キッシュは当然の事、そこにはオスカーさんとテオ、そしてライザーがいた。


 人の事言えた義理じゃないけど、こうして見るとオスカーさんの黒髪って凄く目立つわ。


「朱鳥殿、此方へ参られよ」


 ライザーの招きで隣に並び立つと、彼はコック達へと向き直った。


「皆遠い所から良く参られた。御当主様に代わり、感謝する。此度、このような場へ赴いてもらったのは、皆もよく知る大豆について新たな発見がなされた事を伝える為である」


 がやがやと、コック達がお互いの顔を見合わせ、どよめきが生れる。


「まだ詳しいことは言えぬが、じきにその事について大体的な公布がなされる。皆がよく知る時見の巫女様の作られた大豆で、新たな料理が作れるという事だ。


 御当主様はそれを了承なさった。皆にはこの場でその調理方法をしっかりと学び、今後地元に戻った際にはぜひ民へ広げて貰いたい。


 そして此方にいるのが、皆に新しい大豆料理を教える教師となる者である。挨拶を」


 視線で促されて、私は一歩前へと歩み出る。


「皆さん初めまして。この度、広く国民へ新たな大豆料理を広げる為、教師として任ぜられました、立花朱鳥と申します。


 この度、皆さんに覚えて頂きたいのは、皆さんがよく知る豆腐を活用する物となります。厳密に言うと、豆腐を作る過程で出来る余った素材を活用すると言う事です。


 時見の巫女様が作られた大豆に余す所はありません。ぜひ熱心に取り組んで頂き、それを国民へ広めて頂きたいと思います。


 今日より皆さんが帰るまでの短いお付き合いになるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します」


 プロデューサーにも大御所俳優にも言った事がない、長ったらしい挨拶をして、私は深々と頭を下げた。


 拍手で返され、ほっと溜息をつく。


「朱鳥殿はまだお若いが、大豆料理に精通している。心置きなく学ぶといい。


 それと、ここにいる料理長のキッシュ・バーグ始め、オスカー・ベッドフォード、テオ・アーモットが補佐に就く。協力を得るように」


 補佐? 私聞いてないんですけど!


 ライザーはそう言うと、その場から去って行った。


「オスカーさん、補佐って」


 慌ててオスカーさんとテオに駆け寄る。白いコックコートの中に騎士団の黒い制服はやたらと目立つ。


「我々もあの豆腐屋で作り方を学んだ者だ。少しでも教える者は多い方が良いだろう。そう思い志願させてもらったのだ」


 志願……わざわざ志願してくれたんだ。


「凄く嬉しいです! ありがとうございます!」


 そう言うと、オスカーさんは柔らかな笑みを返してくれた。


「隊長、凄いんだぜ。コックが300人も集まるって聞いてから、毎晩訓練が終わった後は厨房に行ってさ。キッシュさんに作り方教わって。まあ、俺も一緒にやったけどな!」


 テオがそんなオスカーさんに視線を送りながら、にかっと笑った。


「訓練の後に? そうだったのね……オスカーさんにもテオにも感謝しなくちゃね。テオもありがとう。心強いわ」


「おうっ! 頑張ろうぜ!」


 向日葵みたいな笑顔でテオが笑うから、元気が出る。


 ようっし、やるぞうっ!!


 その元気を貰って、私は300人のコックに向き直った。

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