真の目的
新緑の山を流れる小川のせせらぎのように、その声は清涼な響きを以て私を包み込んだ。
確かな力強さを感じる言葉に私は思わず目を見張る。
まるで天から降ってきた神様みたいなセリフだと思ってしまって。
ユリウスは綺麗な笑みを浮かべ、瞬時にその様を打ち消しライザーに鋭い視線を向けた。
「大臣共を招集せよ。これから忙しくなる。家で寝ているだけではなまくらになるぞ。叩き起こして仕事を与えてやれ」
「はっ!!」
ライザーはびしっと姿勢を正し、恭しく礼をした。
私はほっと胸を撫で下すと同時に息を吸い込む。話はまだ終わっていない。
「大豆料理の公布はお任せするとして、その料理の広め方なのですが」
「ふむ。国民はこのユーラから離れてしまっているからな。サワナに多くの者が移住しているのは間違いないが、何もサワナにだけ大豆産地がある訳ではない。大豆産地は随所にあり、豆腐屋も味噌屋も広く散在している」
「はい。公布だけでは国民に大豆に他の用途がある事を知らせる事は出来ても使い方までは伝えられません。ですから各地に何名かずつ派遣し、作り方を実演する方法を取りたいんです」
「実演して見せるのか。それならば確かに判り易いが」
そう。だけどその場でするのはそれだけじゃない。
「そしてその場で出来上がった物を国民に食べて貰います」
「その場で、だと?」
「はい。なんせ大豆が元とは言え、今まで目にした事がない、食べた事もない食べ物なんです。こういう物が作れるよ、と言ってもどんな物か分からない物を食べようとしたり作ろうとしますか? 実際に作り方を見せて食して貰い、美味しいと感じてやっと人は新しい食べ物を認め、納得して手に取るのです」
「なるほどな。確かにそれはそうだろう。しかしそうなると料理が出来る者を準備する必要も出てくるな」
「はい。必要な要員を確保して下さい。作り方は私が実践して教えます。厨房にいるキッシュという男も作り方を見たので協力を要請します。そしてこれが大事な所なんですが」
「なんだ」
「作り方を現地で実践し料理を配布する際、すべて無料で出して欲しいのです」
「無料で? 無料で配布するともなれば全国民が集まりかねんぞ」
「それが目的ですから。無料で食べ物が配布されるとなれば、みな寄って集まるでしょう。それで良いんです。もともとおからは豆腐屋ではゴミ扱いだったのですから有志で提供して貰えれば元手もかかりませんし、他の材料費も木っ端野菜でもあれば十分なんです」
「それなら負担も少ないですな」
ユリウスもライザーも納得したように揃って頷いた。
「そうやって出来るだけ多くの人に実演して見せ、無料で食べて貰うのです。そうすれば口コミでその話題は更に多くの人に広まります。ただし」
「期間限定で、です」
そう。これは決して慈善事業ではないし、するつもりも最初からなかった。
本題はここから。無料配布はそこまでのプロセスに過ぎない。
「期間を定めるのか? おから自体に経費が掛からないのならば継続する事はやぶさかではないぞ」
ライザーは慈善事業だと思ったのかもしれない。
しかし甘い。甘いぞライザー! 世の中そんなに甘くない。
金の匂いに聡い人間はどこにでもいる。そしてここにもいる。
「おからは商品になるのです。料理に使える材料として販売対象となるのです。それを用いた料理も料理人が作り、店で出せば商品です。聡い者はきっとすぐに気付くでしょう。ですから、ここで私は既存している豆腐と味噌を除き、今後のおから料理と大豆料理に関し、発案者として特許を申請します」
私のいた世界ではおからは結構な量が入って格安で手に入れる事が出来た。おからダイエットブームが来た時買いまくったから知ってる。
豆腐屋でおからを調理した時、すぐに私は思い出した。そして思った。これは商売になるのだと。
「特許だと」
それには流石に驚いたのかユリウスが驚愕に目を見張った。
この世界に特許があるのか分からない。
あればいいし、ないなら作る。それだけだ。
「特許とはどういう事だ」
「特許とは発明を保護する制度です。発案した者がその権利を有するという事。全国民におから料理も大豆料理も広げる事に異論はありません。そもそも私から提案した事ですし。
ただし私が考案したおから料理と大豆料理に関して、今後商売に転じ対価にお金を求めた場合に、その利益から権利として租税を課して頂きたいのです。
そしてこのアイゼン国の特産物という権利の元、国からも租税を課します。そのようにすれば、おから料理と大豆料理にお金としての価値が成り立った時、利益の一部が国と私に入る事になります。
料理を広める前に急務でその法案を成立させなければなりません」
「なんと……」
「おから料理と大豆料理を国益にすると言うのか」
「そうです。おいし……じゃない、そうすれば財政も安定し、国民も商売が始められ、生活も安定していくでしょう」
危ない危ない。おいしい商売、と心の声が漏れかけた。
二人は感嘆のため息を漏らし、力強く頷いた。
「無料配布はそこに至るまでの過程でしかありません。この先長く続く利益を考えれば、多少の出費も安いはずです。なんせ、無料配布は期間限定なのですから」
最後のダメ出しをする。
国の中枢にいる彼らの計算は早かった。
「すぐに大臣達を招集し、法案を固めねばなりませんなっっ!!」
ライザーが興奮したように頬を高揚させ、息巻いた。
「その意見、採用とする。おから料理と大豆料理に関しての権利を其方が有する事も了承しよう。租税率に関しては大臣達と話を詰めねばならん。決まり次第、契約書を発行する故、待つと良い」
「分かりました。では宜しくお願いします」
そう言って私は一礼して背を向け、満面のにやけ顔で退場したのである。




