いざ豆腐屋へ
かくして、私達は城門を抜けて城下町へと降り立った。
それは、いいのだけど。
「なぜ、爺ちゃんと婆ちゃんまで?」
そこには、護衛任務として同行して来たオスカーさんとテオ。キッシュとミカン、トキとヤマトと続いてロウェル爺ちゃんとミズノ婆ちゃんの姿があった。
なんだかすごい大所帯なんですけど……
「ほっほっほっ、巫女殿が先代の巫女様が持ち寄った大豆を使って、新しい料理を教えると耳にしたのでの。それは是非この目で見なくてはならぬと思い、飛んで来ましたわい。
巫女殿は先代の巫女様とも同郷の出。間違いはなかろうて。ぜひ後世に伝えねばなりませんのう」
ロウェル爺ちゃん、色々と興味津々なのね。
こちらも探求熱心で実に素晴らしいと思うわ。
「で……婆ちゃんは」
てっきり、勉強をほったらかしにして来た私を咎めるかと思いきや、婆ちゃんは爺ちゃんの隣に静かに立っていた。
「我らのご先祖様は、代々時見の巫女様の知恵を授かり、受け継ぎ、守ってきたのじゃ。
味噌も豆腐も、その教えを守り受け継いできたもの。
その時見の巫女様の持ち寄った大豆で、同郷の次世代の巫女殿が新しい料理を作るというならば、それも我らはしかと受け継いでいかねばならぬじゃろう」
静かな目をしていた。
遠くに想いを馳せるようで、懐かしんでいるようで、どことなく悦んでいるような、優しい目でミズノ婆ちゃんはそう語った。
「そっか。よし、じゃあ皆で行きましょう!」
私の号令に一同頷き、ミカンの案内で昼間なのに誰も通らない城下町を歩き、私達は豆腐屋へ向かった。
「こちらが、豆腐屋さんになります」
「ほっほっほっ、ここの主人と会うのも久しいのう」
「ほんに、そうじゃの」
店の前に辿り着くと、ロウェル爺ちゃんが楽しそうに笑った。
爺ちゃんも婆ちゃんも城から出る事なんて、ないだろうしなぁ。
遠足みたいな気分なのかな。
「お邪魔します……」
ミカンが店の扉を開く。
私も実際、『豆腐屋さん』なんて入った事はなかったからキョロキョロと見てしまう。
店の中は予想通りがらんとしていた。
大きな水槽のような入れ物にたっぷりと水が入っていて、覗き込むとそこに豆腐が沈んでいる。
店主はいない。
盗まれたらどうするのかしら。
そんな事を思っていると、
「はいはい。おや? ミカンじゃないか。ロウェル様とミズノ様までご一緒とは。いかがなされたのです」
店の奥からそう言って、一人の老人が出てきた。
細い身体つきのわりに、袖から見えた腕は筋肉の筋がしっかりと立ち、額には深く皺が刻まれていた。
その眼光は鋭く、いかにも職人気質といった感じた。
「久しいの。息災にしておったか。また生きておる内にお主に会えるとはのう。嬉しい限りじゃわい」
ロウェル爺ちゃんとミズノ婆ちゃんが、その老人に近寄り、互いに懐かしんで語るその様は、敬老の日の集まりのようで、なんだか微笑ましかった。
「なんと。そちらのお嬢様が大豆の新しい調理方法を教えて下さると?」
爺ちゃんから話を聞いたその老人は、驚きの表情を浮かべて私を見た。
ロウェル爺ちゃんは、私の事を先代の巫女様の同郷の女子だと紹介した。
まだ千年巫女から承認を受けていないうちは、公には出来ないんだそうだ。
別に公にしなくても、全然構わないんだけど。
「初めまして。立花朱鳥といいます。実は大豆には味噌と豆腐以外にも様々な調理方法がありまして。少し試させて頂きたいのです」
「しかし、大豆は昔からその二つに絞って使用するように言われておるのだが……良いのか?」
老人は確認するように爺ちゃんと婆ちゃんの顔を見た。
そんな法律でも決まっているのかしら。
それともキッシュが言ったように、恐れ多くてとかそんな理由なのかな。
おそるべし、『大豆は味噌と豆腐に使うべし』格言の効果である。
尋ねられた二人は、揃って頷いた。
「よいのじゃ」
良いんだって。
じゃあ、早速。
「では、まず豆腐を作っている作業場を見させて下さい」
私がそう言うと、キッシュが首を傾げた。
「おい、使うのは大豆じゃねぇのか?」
「大豆は大豆で使うわ。でもここには豆腐がある。歴史ある豆腐屋さんがね。それなら、豆腐料理から始めた方がいいでしょう」
豆腐料理、と聞いて老人の目が輝く。
「こちらじゃ、付いてまいれ」
売り場のその奥へ通じる扉を開けて、老人は私達を通してくれた。その場所は、大豆を蒸す柔らかな匂いと蒸気に満ちていた。
「豆腐を作る時に大豆を絞るでしょう? その時に出る搾かすは取ってありますか?」
私がそう尋ねると、店主は目を大きく開いた。
「驚いたわい。なぜそのような事を知っておるのじゃ。取って置いたわけではないが、豆腐を作る際には必ず出るゴミじゃからな。ほれ、ここにある」
ゴミ。だって。
ああ嘆かわしい、我らの『おから』様。
でもやっぱり予想通りだった。豆腐しか作らないなら、必ずあると思った。
いま私がおから様の生きる道を示してみせます。
大きな木枠の入れ物にどっさり入ったおから様を見つめて、私は同情しながら決意表明を心の中でしたのだった。




