アイゼン国の食事事情
燦燦とした朝日に目を細めながら、私は起き上がった。
目の前にはミズノ婆ちゃんとミカンが仲良く肩を並べて私を見下ろしている。
なんだか既視感を覚える。
ぼうっとする頭で、なぜここに二人がいるのか思い出す。
昨日の私の寝起きがよほど酷かった事に何か思う所があったのか、ミズノ婆ちゃんは自室を私のいる棟へと移した。
そしてミカンも婆ちゃんの指示で私付きの侍女として任ぜられ、トキとは逆サイドの隣の部屋へと自室を構える事になった。
その理由は、言わずもがな、私を朝イチで叩き起こす為である。
めでたく叩き起こされた私は、ミカンにいつの間にか身支度を整えてもらって、今現在トキを連れて食堂に向かっていた。
__早く起きろと言ったではないか。お主がいつまでも起きぬから、またあのように老婆に頬を打たれるのだ。
え? 私また叩かれたの?
「覚えてない。私寝起き悪いから、仕方ないわよ」
そう言って笑うと、ヤマトは不貞腐れたようにすんっと顔を背けてしまった。
「ねぇ、ミカンは一体何時に起きてるの?」
侍女って起きるの早そう。旅館の女将さんとかも、起きるの早いんだよねぇ。
「そうですね、三時には起きます。私は厨房の手伝いもあるので、早く起きなければいけないんです。今朝も厨房の手伝いを済ませてから、巫女様の元へ向かったのですよ」
さっ、三時。
私も短時間睡眠はお手の物だけど、纏めて寝れてしまうと、なかなか起きられない。
忙しい時はちゃんと起きれるのよ、これでも。
「今は必要最低限の人数しかお城にいませんから、仕方ないことです」
「そういえば、テオもそんな事言ってたわ。自宅に帰されてる人も多いんですって?」
食費とか人件費とか、抑える為の処置らしい。
「そうです。主に御当主様であるユリウス様付きの者と騎士団の方しか今はいませんね」
「えっ、それだけ?」
削減しすぎじゃないの、それ。
「以前は宰相様や大臣様たちも城内で過ごしておられましたが、今は皆さんご自宅で待機しておられます」
よほど貧窮してるのね、ここ。
宰相とか大臣って偉い人でしょう?
その人達が城を離れるなんて、何かあったらどうするのかしら。
「ですから厨房のお手伝いといっても、大した量の準備をする訳でもないんですよ」
それでも、三時に起きなければ準備が間に合わない程度には数はあるんだろうと思う。
「でも、騎士団って割と人数いるんじゃないの?」
「騎士団の皆様も半数以上は自宅待機となっています。いま城に待機してらっしゃる騎士の皆様は、だいたい500人ほどでしょうか」
それでも十分多いと思うわ……
「大変ね」
ミカンは小柄な女の子だし、そんな重労働、キツイんじゃないかと同情してしまう。
「いいえ。その、それほど品数を多く作る訳でもないですから」
「俺はあれで十分だよ」
「品数……」
ミカンの言葉にトキは満足気にそう返したけれど。
昨日のメニューを思い返す。
白米と味噌汁が出て来たのには、感動して涙が零れるかと思ったけど。
あとは、お新香とお浸し。肉や魚のメインディッシュは結局夜も出て来なかった。
もしかしていつもないのかな。それともたまたま出てかなかっただけ?
「肉や魚は出なかったわね。買えないの?」
少し不安になってミカンに尋ねると、困ったように顔を曇らせた。
「財政的な問題も確かにあります。でも、肉や魚はなかなか手に入らないんです」
「手に入らない?」
それを聞いて、はっとする。
貿易だ。それが出来ていない。
このアイゼンで国益となっているのは大豆の輸出だけだ。
大豆自体は別に高値のつく代物でもないし、その対価はそれなりだろうと思う。
魚や肉が国内で量産出来ないのなら、貿易に頼るしかないわけだけど、大豆と肉では対価が違いすぎる。
仕入れられたとしても本当に僅かだと思う。
貿易大国日本でも、スーパーに並ぶ食材の多くは外国産だったし。
でも私は白米と納豆があれば生きていける子だし、なんとかなる。
「ないものを嘆いても仕方ないし、あるものでなんとかするしかないわね。魚や肉がなくたって、私は全然大丈夫よ」
だから安心して。そう言うとミカンは花のような笑みを浮かべた。




