慟哭
本当にどうすればいいんだろう。
この広大な砂漠におニャン子様と二人。
方角もわからず東の大国が現存しているかもわからず、身動きが取れずにわたしは頭を抱えた。
「うああああああ」
もしゃもしゃと髪の毛を掻き乱して地面に頭を押し付け、何かいい案がでてこないか必死に考える。時代劇なら朱鳥様、ご乱心! と騒がれそうな場面だ。
ぶっちゃけ乱心している自覚はあった。
でもだからなんだというの。
こんな状況に置かれて冷静でいられる方がおかしいのよ。
さすがにテントをバックパックに詰めるわけにはいかなかったし。
とにかく、どうにかこうにかして砂漠を抜けるのが最優先。
そのためにはどうすればいいの⁉
さきほどから考えが堂々巡りである。
でも思考を止めたら終わってしまう。
考えるのよ、朱鳥! あなたならできるわ! さあ閃いて!
だけどそこで、必死に己を鼓舞するわたしの思考を止めるものがあった。
その正体は地面からわずかに感じる振動。
わたしはパチッと目を見ひらき、その場に固まる。
そんな。まさか砂漠で地震?
まずいわ、さすがにそれはシミュレーションしてない!
砂漠で地震が起きたら何がどうなるの?
専門家も砂漠の地震についてはなにも話してなかったわよ⁉
待って。落ち着くのよ、わたし。
やっぱり気のせいかも。
わたしは一度頭を起こして深呼吸すると、再び砂漠に額を押し付けた。
目をつぶって意識を集中すると、やはり額に小さな振動を感じる。
だけど結構小刻みな動きで遠くから近付いてくるような、そんな感覚を覚えた。
ずいぶん変わった動きだけど、この世界の地震ってこんな感じなのかしら。
首をかしげながら眉を寄せて、さらに私は意識を集中する。
――アスカよ。お主、何をしておるのだ。
おニャンコ様、ちょっと黙って。
おニャンコ様は不審な目つきでわたしを見ていた。
だけどそんなことに構っている場合ではない。
額に感じる振動が徐々に強くなっているのだ。
さっきまでは軽い振動だったのに、今じゃ額だけじゃなく頭蓋骨から背骨にかけてビリビリと振動が伝わってきている。だけど地面自体が揺れているわけじゃない。それが余計にわたしを混乱させる。
なんなんだろう、これ。
……いつ揺れるの?
わたしはむむむっと顔をしかめる。
振動はついに音までだすようになった。
どかっどかっどかっという変な音。
――おい、アスカ。
おニャン子様の声は完全にスルー。
今は大昔の知恵を持つおニャンコ様より、現代知識を持つわたしの方が役に立つはず。
――どごっどごっどごっ!
また少し音が変わった?
振動はもうお腹に響くほど強いものとなった。
これはもしかして、そろそろ来るんじゃない?
――来るぞ。
おニャンコ様も何か察知したらしい。
だけど、来るタイミングがよくわからない。
地震が起きたらどうしよう?
あっちで起きた時もそうだったけど、立っているのはやっぱり危ないわよね。
這っていた方が安定してたし。
じゃあ、うつ伏せに寝てみればいいのかな?
幸いここは屋内じゃないし、上から物が降ってくる心配もないじゃない?
地面は砂なんだし、意外と危険性は少ないかも。
……どがっどがっどがっ!!
ついに振動は耳を抑えたくなるような大きな音にまで変わった。
たぶん……今!!
「おニャンコ様! うつ伏せになって!」
わたしは車に轢かれたカエルのように手足を広げ、砂の上にべったりと這いつくばった。
これだけ平たく横になっていれば耐えられるはず!
ぎゅっと目をつぶって来たる振動に備える。
数秒、数十秒……あれ? こないわね。
それどころか音が小さくなったような?
……あら?
頭の中がハテナのお花畑で満開になった時、頭上から声が降ってきた。
「これは……死んでいるのではないですか?」
少し高い男の人の声だった。
んっ? 何?
「確かめろ」
こちらはテノールのような声。
滑らかで落ち着きがあり、妙に耳心地がいい。
あ。わたしこの人の声好きだわ。
路上で干からびたカエルのような格好をしたまま、ふとそんなことを思った。
それにしても死んでるとかなんとか物騒だわね。
ここってそーゆー所なわけ?
思わず顔をしかめたわたしの腰を誰かが持ち上げた。
ごろんっと体を転がされ視界がめまぐるしく反転する。
「え……」
茫然とするわたしの視界に飛び込んできたのは青空ではなく……わたしをじっと見下ろす大きな馬の顔だった。
重量感のありそうな大きな骨格。長い睫毛をしばたく真っ黒な目と鼻先がすぐそこにあって、ふしゅーっと生暖かい鼻息が顔を煽る。
恐る恐る視線だけ動かしてあたりを見渡せば、そこにいたのは一頭だけじゃなかった。
ざっと目にした数は四頭。
それらがみんな一斉に鼻先をこちらに向けてわたしを取り囲んでいた。
にじり寄る馬体で徐々に視界が埋め尽くされ、青空はほとんど見えなくなる。
わたしは突然現れた馬の集団に息も忘れて硬直してしまった。
——馬。
わたしは知っている。
普段は温厚な性格だが、車にも馬力という言葉が使われるようにその脚力は強靭。
蹄は掌に収まらない程の大きさで硬く、蹴られたら冗談じゃなく死ぬこともある。
その馬の足元に私は仰向けになって転がされているわけで……
ぶるるるるるっ!!
真上から見下ろしている馬が、顔を左右に揺らして嘶いた。
その時、わたしの目は生涯で一番大きく見ひらいたんじゃないかと思うくらい開き切った。目玉が飛びだすとはよくいったものだと思う。
それは現実に起こり得る話で、わたしは身をもって体感することになってしまった。
「ぎゃあああああああっ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ヒヒヒィィィィィィン!!
全身全霊を込めて叫んだ。
髪の毛の先からお腹の底、つま先に至るまで全身に力を込めて叫ぶ。
全身の毛穴が開いて血が吹きでるかもしれないと思うほど叫んだ。
遊園地の絶叫系アトラクションに乗ってもこんな風に叫んだことはない。
絶叫とは本来こうである、というお手本のような叫び声だったと思う。
そのとたん何かが身の内から湧き上がる。堰を切って吹きだす。
驚愕したわたしの感情に上乗せするように、様々な感情が雪崩のように襲いかかる。
その衝撃にわたしの身体は悲鳴を上げた。
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