ヤマト②
ヤマト視点②
その夜、疲れていた娘は闇に沈むように深い眠りについた。
誠に寝相の悪い娘で、なんども身体の下敷きにされそうになり、私は布団の中から逃げた。
まるで起きているのかのように、その身体は動き回り、身体を覆っていた掛け布団はあっという間に足元へ蹴り飛ばされた。
また、私は人とは寝ながらにして言葉を発するのだと初めて知った。
意識もないのに、娘は言葉を発した。
化け猫
悪魔
そんな言葉を何度も繰り返していた。
それはまさか私のことではないだろうな、と意思を発したが娘の意識には入り込めなかったようだった。
そして、完全に身体は布団から転げ落ちて、床へとその身を放り出した娘は、朝方にはなぜかまた布団の上へと戻っていた。
無意識の行動というのは、神がかったものだと、その時私は思ったものだ。
そうして布団から床へと転がり、動き回った意識のない娘の衣服は大いに乱れた。
乱れない方がおかしいのだ。
汚れが取れてその美しい様を取り戻し、静かに眠る娘の横顔は、精霊の恩恵が降り注いでいるようで、愛おしいものだった。
朝方、娘を起こしに来たトキという少年が扉を開いてその様を目にした時、全身の血が逆上したのではないかと思うほど、顔が赤らんだかと思えば、何もせずにすぐ部屋から出て行ってしまった。
人間の取る行動とは実に不思議なものだ。
何をしにここへ来たのか。
その後も、砂漠まで迎えに来ていた黒髪の男と、私を老体のように扱う少年が部屋へ入ろうとしたが、彼らも結局何もせずに出て行ってしまった。
娘は夜中の動きが嘘のように、静かに横たわったままだった。
あの男達が来たということは、何か大事な要件でもあるのではないかと踏んだ私は娘に呼びかける事にした。
いい加減に起きよ、といくら声をかけても目を覚まさない。
この娘の意識はどこまで落ちて行ったのか。
手を伸ばしても容易に届かない、深い深いその底へと落ちて行ったのは確かなようだった。
仕方がないので、そのまま娘の姿を見守ることにしたのだが、勢い良く部屋へ入って来た老婆がそれを許さなかった。
耳をつん裂くような声を上げて、何度も娘を起こそうとした。
その老体から出ているものとは思えないほどの怒りを滲ませたその声には、さすがの私も耳を塞ぎたくなる思いだった。
しかし、そのような老婆の声音にも娘は反応ひとつ示さなかった。
人の睡眠力というものは、凄まじいものだ。
外部からの影響を完全に遮断して眠り続けるその様には、人間の強かさを感じる。
この娘は寝ている時までも、強かさを消さぬ者なのだろうか。
人間の強かさは計り知れぬものがあると、感服していた私に、老婆の視線が刺さっている事に気付いた。
__何用か。
そう意思を飛ばしてみたが、力を使わなければ娘以外に届くものではない。
「お主、なぜ巫女殿を起こさぬのじゃ。猫ならば引っ掻いてでも主人を起こすべきじゃろうが」
老婆は私を見てそんな事を言った。
私がこの娘を引っ掻くだと?
そんな事をすると思うのか。
驚き、刮目した私を他所に、老婆は苛立たしげに娘の頬を打った。
なんと暴力的な老婆なのか。
意識のない、寝ている娘の頬を打つとは。
老婆は頬を打つだけでは飽き足らず、頭までも打った。
思わず老婆に爪を立ててやろうかと思った時、娘の意識が僅かに戻った。
娘は頬を打たれた事はつゆほども覚えていなかった。
痛みもないという。
本当に人間というのは、脆いのか強いのか、どこでその切り替えが行われるのか不思議であった。
ユリウスとかいう、あの男との謁見が終わった後、娘がお腹が空いたと訴え出し、転移陣の前で待っていた黒髪の男の案内で食堂に赴いたのだが……
残り物を寄せ集めたというその食べ物を娘は信じられない勢いで食し始めた。
その場には私を老体扱いする少年も、トキと呼ばれる少年も同席していたが、三人共何度も瞬きを繰り返し、その様を見ていた。
娘は何度もおかわりを要求し、最後には厨房からミカンと呼ばれた娘が出て来て申し訳なさそうにもう食べる物はないと謝罪して、ようやく娘の食事は終わった。
あの細い身体のどこに、あれほどの量の食べ物が収められたのか皆不思議がっていたが、昨夜の娘の様子を知っていた私は妙に納得していた。
あれだけ動けば、腹も減るのだろうと思ったからだ。
その日の夜も、娘は布団の上でひとり暴れ回っていた。
嫌だと言うのに聞かず、私を抱き締めて、間もなく意識を手離した娘は、私を掌で払い退け、寝転がった勢いで私を叩き潰し、逃げ果せた私を足蹴にしようとした。
だが、明日の朝はまたあの老婆が来る前に起こさねばならないと心に誓う。
あの老婆の平手打ちにびくともしなかったのだ。私が頬を打ったところで、柳に風だろうと思うのだ。
ヤマト視点でした。
いかがでしたでしょうか?
個人的には書いていて楽しかったです。
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(*´ω`*)




