巫女となる証明
「眷属の欠片?」
____眷属の欠片とは、神々の力によって恩恵を受けた地で育ち、その加護が定着した後に現れる眷属の力を身に宿した者のことを言う。
なんだか難しいことを言う。
加護が定着した後の眷属ってなんぞや、ヤマトさんや。
頭を捻る私に、ヤマトがさらに説明を加えてくれる。
__何の加護も持たぬ土地に恩恵を与える事は神々にしか出来ぬ。しかし、神々はずっとその場所に留まる訳ではない。
__神々の力を以て恩恵を与え、その力が定着した後、その神の眷属がその力を継続させるために神に代わって宿るのだ。
__その眷属の力の影響を多く身に受けた者か、またはその血族が、稀にそれに属した力を身に宿して生まれる事があるのだ。
「なるほど」
分かりやすい説明ありがとう、ヤマトさん。
一人納得して頷いていると、その様子を不審に思ったのかロウェル爺ちゃんが目を細めて声をかけて来た。
「巫女殿や。誰かと話しておるような素振りじゃが、もしやそこに在る猫と話しておるのか?」
「そうです。ヤマトです」
そう言って、ひょいっと黒猫ヤマトを抱えて紹介してあげる。
「ヤマトは『導く者』で、私と意思疎通が出来るんです。普段は私にしかその声は聞こえませんが」
「なんと」
ロウェル爺ちゃんは、実に興味深そうにヤマトをまじまじと見つめた。
ユリウスの表情は変わらないが、ライザーはあからさまに顔を歪める。
あの時の恐怖を思い出したのかもしれない。
目を輝かせてヤマトを見つめる爺ちゃんとは対照的に、ミズノ婆ちゃんはその瞳に冷たいものを宿しているように見えた。
「眷属の欠片については、ヤマトから説明を受けました。その眷属の欠片である人間が、その恩恵を理由に巫女として名乗り出るわけですね」
ユリウスに向かってそう話を続けると、彼は頷いた。
「そうだ。話が早くて助かるな。
特殊な能力を発揮できる眷属の欠片は、巫女ほど影響力はないが、その力の一遍を様々な形で与える事が出来る。
そういった者達を巫女候補として扱い、精霊の泉で恩恵を受けられるのか試すのだ」
「そして無事に五ヶ所の泉から恩恵を受ける事が出来れば、正式に千年巫女様に巫女として認められ、力の解放をして貰えると」
「そうだ」
私はクラリとする頭で嘆く。
なんだかすごく遠い道のりに思えて来た。
もう少し簡単に力の解放して貰う方法ないのかしらー。遠いー、遠いよー、お母さん。
三千里の道のりがあるよー。その場合のお供は、黒猫ヤマトさんだよー。
化け猫と三千里っていう物語が書けちゃいそうだよー。
「それって、絶対五ヶ所の恩恵を受けなきゃ千年巫女様には会えないんですか?」
もうちょっと、ショートカットしたいよう。
泣きそうな気持ちで期待せずにそう尋ねてみると思わぬ答えが返ってきた。
「いや、そうとは限らない」
そうとは、限らない!?
思わず食いついて、ユリウスを凝視してしまう。
どういう事! 早く教えて!
私の心の声が聞こえたかのように、ユリウスがふっと小さく笑みを漏らした。
「先にも述べた通り、巫女は五ヶ所にある精霊の泉の恩恵を受ける事が出来る。
その恩恵もそれぞれ異なるため、巫女の資質によっては、身に宿せる恩恵とそうでないものがある。
極端に言うならば、五ヶ所のうち一つでも恩恵を身に宿す事が出来れば、巫女として千年巫女様と会う事が出来るという事だ」
ほほおう!?
それなら運が良ければ、全部を回るよりは早く、千年巫女と会えるかもしれない。
少しだけ気が楽になって、私はほっと胸を撫で下ろした。
「どちらにせよ、長旅となるのは間違いない。
場合によっては他国に拠点を構え、泉を回る事になるだろう。
そのために、ロウェルとミズノがいる。
ロウェルは古き知識を持ち、この世界の歴史に通じ、点在する泉の情報や場所、また拠点となり得る場所に詳しい。
ロウェルが旅に同行出来ればそれが一番良いのだが、見ての通り老体だからな。長旅には耐えられん。
ミズノは無事千年巫女と会えた場合に備え、この世界の礼儀作法を学ぶためにいる。
おそらく、千年巫女様だけに限らず、礼儀作法が必要とされる場面が出てくるだろう。
旅へ出るまでの準備期間として、この二人を教育係として其方に与える。今後のために良く学ぶといい」
ユリウスがそう言うと、二人は私に向かって身体を向け直し、恭しく一礼した。
そうして、二人の教育係を得た私は、これからの準備期間を怒涛の如く過ごす事になるのであった。




