精霊の泉
「さて、本題だが。朱鳥。其方には中央大国セノーリアに行って貰わねばならん。セノーリアに座す千年巫女様の力添えを得て、巫女はその力を解放する。
また、それにより千年巫女様の承認を得る事が出来れば、周辺国へも新たに巫女が現れた事が周知される事になる」
中央大国セノーリア。そこにいる千年巫女。
千年には何の意味があるのかしら。
承認とか周知とかはどうでも良いけど、とにかく力の解放の為には千年巫女に会わなきゃ行けない事は分かった。
「だが、セノーリアに行く前に其方にはやらなければならぬ事がある。『精霊の泉』を巡り、その恩恵を身に宿す事だ。
『精霊の泉』は、シュテーゼン砂漠に五ヶ所あり、それぞれにその恩恵は異なる。
巫女はその5つの精霊の恩恵を受ける事が出来るとされ、受ける事が出来なければ巫女としては認められず、セノーリアで千年巫女様と会う事も許されない」
「へっ!?」
ユリウスの言葉に思わず素っ頓狂な声を上げる。
てっきり、ユリウスの許可さえあればすぐ中央大国セノーリアに行けると思っていたのに。
精霊の泉? 精霊の恩恵? しかも五ヶ所?
しかも、あのシュテーゼン砂漠にあるって?
寝言は寝て語れと言ってやりたい。嘘でしょう?
「精霊の泉を回らなければ千年巫女と会えない?」
お願い、嘘だと言って。
「そうだ」
茫然と尋ねる私にユリウスはその眼差しを静かに向けてハッキリとそう答えた。
「千年巫女様とて、万能ではない。巫女の巫女たる基盤は自分の力で作らねばならんということだ。そうしなければ千年巫女に会えぬというのは、偽物を払い落とす為でもある」
「偽物?」
「巫女となる者の影響力は絶大だ。
神々の加護得て国に繁栄をもたらす事が出来るのだ。当然国を以て優遇される。その恩恵にあやかろうとする輩が偽物を語り現れるのだ」
なるほど。
この荒廃したアイゼンなら、余計にそんな輩は多そうだわ。
巫女がどのように優遇されるかは知らないけど、当然、生活がままならなくなった人間には嫉ましく映る。
そんな人達が巫女を語るわけね。
気持ちは分からなくもない。
飢えに苦しむくらいなら、誰だって優遇されたいと思う。
「でも、どうやって巫女だと証明するんです?
私の場合も同様ですけど、自分は巫女だと言い張っただけでは、当然誰も本気にしませんよね?
言い出した人間をすべて精霊の泉に向かわせるとも思えませんし。何か確信めいた理由がなければ、嘘も語れないと思うんですけど」
神だ、精霊だ、と信じて崇めるこの世界の人々が、そう易々と『精霊の泉』なんて神聖そうな場所に偽物を放り込むかしら。
だって、精霊の泉では恩恵を受けられるんでしょう?
誰でも彼でも行けるようなら、憩いの場とでも名前を変えた方がいいと思う。
私が疑問を抱いてそう答えると、ユリウスは薄らとその唇に笑みを浮かべた。
「その通りだ。さすがに聡いな。勿論、何の力も持たぬ輩が巫女だと主張したところで誰も取り合わぬ。
其方の場合は時見の巫女様の伝承と、異世界よりこちらへと来た事、また『導く者』の存在もあるため、信憑性が高く確信している。
しかしそれとは別に、稀にいるのだ。神々の恩恵を生まれながらにして持っている者が」
生まれながらにして?
神々の恩恵って、巫女しか受けられないじゃなかったの?
私の疑問に答えるように、頭に声が響く。
__眷属の欠片と呼ばれる者達だ。




