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教育係

 あちこち身体を動かされた朱鳥は、ようやく頭が動き出す。


 まだ眠いのに、なんだかうるさいし、服は剥かれるわ、顔は叩かれるわ、髪はゴシゴシととかされるわ、頭の中ではヤマトの声が延々と木霊していた気がする。


 やっと覚醒した頭で周りを見渡すと、そこにはミカンと知らない老婆が立っていた。


「あ、おはよう。ミカン」


「おはようございます、巫女様。よくやくお目覚めですね」


 困ったように眉を寄せて、小さく笑ったミカンがそう言う。


 あれ、いま何時だろう。


 辺りをきょろきょろと見渡すが、時計がない。


 ぼうっとする頭を回して、ああそうだ、ここって自分の部屋じゃなかったと思い出す。


 アイゼンのお城だ。

それにしても、よく寝た。


 うーん、とその場で両腕を上げて伸ばすと、ミカンの隣に立つ老婆と目が合った。


 わなわなと震えてその瞳には怒りを称えている。なんか怒ってる? このお婆ちゃん。


「あ、おはようございます。あの、どちら様で?」


 今すぐにでも怒鳴られそうなその表情に若干身を引きながらそう尋ねると、その老婆は膝を折ってゆっくりと正座した。


 背筋をぴんと吊り上げられたかのように真っ直ぐに伸ばし、顎を引き、顔を引き締めている。


 その様は厳格な名家のお婆ちゃん、といった感じだ。


「おはようございます、巫女殿。お初にお目にかかります。私はミズノと申す者。本日より御当主様の命により、巫女殿の教育係として任ぜられた者でございます」


 凛とした響きでミズノが畏ってそう述べた。


「はあ。教育係、ですか?」


 ぽかんとして返すと、その眼に鋭い光を宿し、お婆ちゃんは言った。


「相手から挨拶を受けた場合は、必ず自分からも挨拶を返さねばなりませぬ! さあ、挨拶を」


「へっ? あ、ああ。はい。ええと、立花朱鳥(たちばなあすか)です。ご教授のほど、宜しくお願い致します?」


「宜しいでしょう。これからは、誰かに挨拶されたら必ず挨拶を返すのじゃ、よいな?」


「はい」


 寝起きの出来事に頭が付いていかない。


 言われるままに言葉を返すと、廊下からもう一人老人が入って来た。


「ほっほっほっ、婆も実に熱心じゃな。寝起きからその様にせんでも良いじゃろうに。


 巫女殿、お初にお目にかかりますな。私はロウェルと申す者。同じく教育係を申しつかった者じゃ。婆とは、教える内容は異なるがの」


 こっちは優しそうなお爺ちゃんだ。


 この人も教育係なのか。というか、私は何を教育されるんだろうと呆けていると、


「これ! 挨拶せんか!」


 ミズノ婆ちゃんに怒られて、慌てて同じ挨拶を返した。


「巫女殿。もう朝食を摂っている時間はないのじゃ。このまま、我らと一緒に御当主様の元へ出向いて頂きますぞ」


 ミズノ婆ちゃんが立ち上がってそう告げた。


 なんで朝からユリウスに会わなきゃならないの。私はうんざりした。


 だって、遠いんだもん。


「用があるなら、自分から来ればいいのに……」


 ぽつりと呟いた私の言葉を耳にしたミズノ婆ちゃんは、これっ! 無礼な事を申すでない! と目を吊り上げた。


 隣ではロウェル爺ちゃんは、目を細めてほっほっほっと笑っている。


 はいはい、とミズノ婆ちゃんの小言を聞き流しながら私は部屋を後にした。


 トキはテオと一緒に朝食を摂って来ると言って離れて行く。


 その場にはオスカーさんもいたけど、三人ともなぜか、ほっとした様に肩を下ろして晴れやかな表情を浮かべていた。


 私も一緒に朝食食べたかったよう。


 恨めしく思いながら私は彼らを見送り、お婆ちゃん達に連行されて、長い長い廊下を進んで青色の転移陣を通り、あの殺風景な謁見の間へと再び足を踏み入れた。

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