アイゼン国の思惑
同刻、謁見の間。
そこには、二人の姿があった。
「して、これからどう致しましょう。巫女様に此処に滞在して頂く事が決まったのは宜しかったですが……」
あの化け物のような猫。
導く者、と言ったか。
あれの監視下では、無理に我らの思うように巫女は動かせない。
あの禍々しい威圧、身に纏いし深紅のオーラ。そして身が凍るようなあの声。
ライザーは再びあの時の事を思い出して、身震いした。
「巫女はセノーリアに行くつもりだ。どちらにせよ、セノーリアには出向いて貰わねば困る。あそこで『承認』して貰わねば、せっかく巫女が出現しても、他国に影響を及ぼさないからな」
椅子の上ですらりとした長い脚を優雅に組んで頬杖をつきながらユリウスは答える。
セノーリアで巫女の承認が成されてこそ、アイゼンに巫女が出現したのだと周知される事に繋がり、周知されれば他国の興味を引き、巫女の加護によって土地に変化が起きれば、また国内も活気付くというもの。
「そうですな。セノーリアまで我らが巫女に同行するのも、巫女がここにいる限り自然の流れ。あの導く者も、力添えをしろと話しておりましたし、なんの問題もないでしょう。ただ、本当に巫女であればですが」
「そうだな。あの黒猫は神の遣い、とか言っていたが……。実の所は知る由がない。
伝承の内容も不確かで、今となっては信憑性に欠ける部分がある。だがそれも、『精霊の泉』を回れば真偽はすぐに明らかとなる。我らの動きを決めるのはその後でも良いだろう」
神の遣い……『導く者』。確かにあの黒猫はそう言った。
あの巫女がヤマトと名付けたあの黒猫だ。
我らに語りかけるあの所業、そしてあの重圧。
間違いなく只者ではないのだろう。
しかし、あの巫女はどうも掴めない。
確かに頭は回るし、弁も立つ。
よもや、政治の在り方まで批判を受けるとは考えてもいなかった。
憎らしくもある考察力は女と思えぬほど鋭く、舌を巻いたが小気味よい響きでもあった。
女の身でありながら、余の前で堂々と政治を酷評するあの度胸。有無を言わせぬ説得力。
あのカリスマ性には目を見張るものがある。
だが、それとは真逆の危なっかしさもユリウスはしっかり感じ取っていた。
ついっと、背中を押せば転がり落ちそうな危うさを。
あの透き通る様な夜色の瞳。あれほど邪気を纏わぬ瞳を見たのは初めてだと思い返す。
「精霊の泉。そうでしたな。先にそちらを回る必要がありますが、色々と準備も必要となるでしょう。
同行する人間も選ばねばなりません。しかし、誰も精霊の泉には行った事がありませんからな」
ライザーの言葉にはっとして、ユリウスは頭の奥に焼き付いた彼女の瞳を打ち消した。
「爺ならば、知っておるだろう。あれは、書物の鬼だからな。あれの知識は国内随一だ。
それと、万が一に備えて婆にも協力を頼んでおいてくれ。あの調子でセノーリアに入られたのでは困るからな」
ユリウスの言葉にライザーは頷く。
「なるほど。では、明日から早速動いて貰いましょう」
「ああ。その他は自由にさせておいて構わない。
念のため、侍女でも同行させておけば問題なかろう」
畏まりましたと一礼をして、ライザーは退出した。




