休息の時
部屋の中は既に布団が敷いてあって、見ただけで眠気を誘う。
やっと重かったバックパックから解放されて、私はうーんと伸びをした。体中がバッキバキだ。
しばらくすると、テオとトキが私の部屋を訪れた。
テオは元々汚れていなかったけど、トキは焼き払われた家屋にいたせいか、それとも今までの生活の中で付いたものなのか、全身の汚れが酷かった。
お風呂から上がって来たトキは、その汚れが綺麗に落ちて頬には薄らと赤みが差し、石鹸の良い香りがする。
パサついていた髪にも艶が戻っていた。
「聞いたぜ。トキもここに滞在許可下りたんだってな! 良かったな、ほんとに!」
ふわりとした石鹸の匂いを纏わせながら、にかっと嬉しそうにテオが笑う。
「うん、ほっとしたわ。色々とあったけど」
黒猫浮遊とか、色々。
「まあ、良かったじゃん! 俺も命令があるまでは待機だし、ちょこちょこ様子見にくるからさ」
そういえば、テオは騎士団に所属してるんだよね。
今回みたいな任務がなくても、毎日やるべき事はあるんだろうな。
「そう言えば、テオの寝室はどこにあるの? このお城の中なの?」
確か城に入るまでの敷地内にも何軒か施設が建っていた。あれはなんなのかしら。
「俺は騎士団の厩舎棟に部屋があるから、そこだな。アスカ達の棟の隣だぜ。
前は城内にも沢山人が働いていて、部屋も埋まってたんだけど、今は自宅に帰されている人も多いんだ。
俺ら騎士団は帰るわけにいかないし、部屋が空いているなら城内で生活すればいいって御当主様が仰って。自室を当てがって貰えたんだよ。
まあ、騎士団が全員城内で寝泊りするのは、さすがに危険だから交代で寄宿舎にも行くけどな」
自宅に人を帰してるって。
そう言えば、トキの面倒を見るように頼んだ時も、そんな余裕はないって話してたから、人件費削減のための対策なのかしら。
にしても、あのユリウスとかいう当主。
抜け目なくて聡そうな人だった。
私を見る目が怖いと感じたけど、わりと良いところもあるのね。
騎士団に自室を与えたり、私にも和室を準備してくれたり。気配り上手さんじゃないの。
「それで、トキの部屋はどこなんだ?」
テオがミカンに尋ねる。
「トキ様のお部屋は巫女様のお隣です」
まあ、そうでしょうね。拾ったの私だし。
あまり遠くに離されてもなんだか不安だし。
トキが隣の部屋で良かった!
少し嬉しくなった私とは打って変わって、驚きの声を上げたのはテオだった。
「と、となりぃ? 隣って。隣って。だってトキは俺と同い年なんだぜ。しかもこの棟って、他に誰もいないだろ?
それに女の子の部屋と隣同士なんて、その、何かあったらどうするんだよ……」
何かってなによ。
首を傾げた私の横でトキが頭半分ほど身長が違うテオを少し上目遣いで見上げて、
「俺、何もしないよ」
そんな事を言った。
「なっ! 当たり前だろ!? 何もするんじゃねぇぞっ!!」
さらりと平然な顔をして言ってのけたトキに向かって、テオは顔を真っ赤にして声を張り上げた。
じゃあ、また明日な! そう言って手を振り去って行くテオを私達は見送り、各自部屋へ戻った。
ああ、そういえばまた『頼朝』がなんなのか聞きそびれたなぁと思い返す。
準備してくれた浴衣に着替えて、私はノートとペンと取り出した。
__それは、文字を書く道具だな。何か書き留めるのか?
「うん、まぁね。すっごく大事な事を書いておくのよ。誰が見ても、一目で判るようにね」
そう言って、すらすらとペンを走らせて書き終えると、ノートを破って表の障子に挟んだ。
よし、これでOKっと。
「じゃあ! 寝ましょう! ヤマトおいで〜!」
私は嫌がるヤマトを羽交い締めにして抱き寄せ、もふもふの感触に癒されながら布団をかぶった。
ああ〜布団最高。
布団を考えた人、天才。
そんな事を考えながら目を瞑り、身体が沈んでいくような感覚に身を任せながら、意識を手離した。




