ヤマトの怒り
いつもと違ったのは、その声色だけではなく、外から聞こえて来た事だった。
どこからともなく聞こえて来たその声に、場の空気が変化する。
身を包む空気が圧をかけたように重くなり、息苦しい。
じわりじわりと首を絞めつけられるような感覚に皆顔を歪める。
威圧__
その場に戦慄が走る。
「なっ!?」
悲鳴にも似た声を上げたのは誰だったのか。
__我が名はヤマト。此処にいる巫女の器を持ちしヒトの子に名付けられし者なり。古の神々より遣わされた、巫女を『導く者』である。
その声は地の底から暗く静かに湧き出るように朗々と響き渡る。
赫赫たる光を纏い、闇夜から生れ堕ちたかのようなその姿と相まって更に兵士達を戦慄させる。
「『導く者』だと…」
驚愕に目を見開きながらも、その声に答えることが出来たユリウスの精神は確かに一国の民を纏めるだけの気概が窺えた。
その闇から創り出されたかのような異形の者は、その大きく見開かれた金の瞳に業火の炎を灯し、ユリウスを捉えた。
__左様。古代より巫女は『導く者』の力を借り、神々の加護を受けるとされる。
__そして、また『導く者』は神々の意思によって巫女の元へと馳せ参じる。それはこの世界へ活力を取り戻し、秩序と均衡をもたらす為である。
__すべては神々の意思によるものであり、巫女がどのような加護を得ようと、どの地でその恩恵を行使しようと、皆一律に神が創り賜うたこのミステスの地に同じ。
__お主ら人間が定めるべき事ではない。
お、怒ってらっしゃる?
怒ってらっしゃるよ。
初めて見えたヤマトの浮遊するその姿と、怒気を含んだその声色に思わず口元がひくついた。
__お主ら人間は愚かにも神々が定めし巫女の在り方に異を唱えた。その傲慢で愚かな我が身を悔いよ。さもなくば、この地に未来永劫巫女が現れる事はないと知れ。
な、なんと。めっちゃ怒ってるよ、これ。
いや600年も巫女がいなかったんだから、もう今更いなくてもいいんじゃないかと私も思うよヤマトさん。
「お、お待ち下さい。『導く者』よ。どうか、その怒り鎮めてはくれぬだろうか」
ユリウスが血の気の引いた顔で、なんとか声を絞り出した。
周りの兵士達はヤマトの言葉に畏怖を覚え、震えながらその場に平伏している。
顔を上げてその異形の者を目にする事に怯えているようだった。あのライザーまでもが、である。
「確かに我々は貴方の仰るように愚かにも浅知恵を絞り、巫女様をこの国に留めようとした。
その事はこのアイゼン国を代表する者として深く陳謝する。しかしながら、このミステスの地に活力を取り戻したいと願うのは我らも同じ。どうかその想いを汲んで怒りを鎮め、愚かな我らを赦して頂きたい」
形の良い唇が白じみ、小刻みに震えている。
巫女が未来永劫いなくなると言うのはそんなに恐ろしいことなのかしら。それともヤマトが怖いから?
私はただ、そんな二人の様子をポカンと見ているだけだった。
__愚かな人間どもよ。巫女がこの地に遣わされたことは、ミステスの地に活力を取り戻さんとする神々の意思である。
__その意思に逆らうべからず。強欲な私利私欲は捨て、巫女を支えよ。それが延いてはこのアイゼンにも恩恵をもたらす事となろう。
「寛大な御心に感謝する。確かにその意、真摯に我ら心に刻み、このミステスの地に活力を取り戻すため、私利私欲は捨てて巫女様のお力添えを賜るべく尽力することをここに誓う」
そう言ってユリウスはヤマトの前で頭を下げてひざまずいた。
__その言葉、忘れるでないぞ。神々はいつでもお主らを見ておる。
またホラーみたいな捨て台詞を吐いたかと思えば、ヤマトの身体から紅く光るベールはすっと消え失せ、ゆっくりと静かに地へとその姿を降ろしたのである。




