案内された先
「あの……巫女様はこの国のかたなのですか?」
「違うわ。わたしはこの世界の人間ではないの」
控えめに問いつつ興味津々といったミカンに、わたしは言葉を重ねる。
「異世界ってやつよ。車っていう便利な乗り物があって馬よりも速く移動できるのよ。たぶん、あの砂漠からここまで三十分もあれば着いたと思うわ」
「さっ、三十分ですか? それはとても速い乗り物なのですね」
ミカンは目を丸くする。
「そうそう。だからこんなに長時間馬に乗ったことなくて。疲れちゃったわ」
大きなため息をついて、ずり落ちそうになるバックをよいしょと背負いなおす。
馬に乗っていたとはいえ、ここにくるまでに色々ありすぎて、すでにわたしは疲労困憊だった。軽くなったはずのバックパックがやたらと重く感じるのはそのせいだ。
「それはさぞお疲れになったでしょうね。このお城の湯殿は広くてとても気持ちがいいですよ。男女でキチンと分かれておりますし。ただ、今はシャワーが使えないのですけれど……」
ミカンが申し訳なそうにうなだれる。
わたしは衝撃に言葉を詰まらせた。
もちろん悪い意味ではない。
むしろ疲れが一気に吹き飛ぶような嬉しさを覚えたからだ。
だってシャワーがあるなんて思いもしなかった。
確かに城門のハイテクには驚いたけど移動は馬だし。
なんだかハイテクなのかローテクなのかよく分からない所だわ。
「シャンプーやコンディショナーもあるの?」
そう尋ねると、ミカンはきょとんとした顔をした。
「石鹸ならございます」
……石鹸。
それはきっとシャンプーとコンディショナーではないだろうな。
いつだったか、お母さんと秘境の温泉地に出向いた時だった。
そこにはシャンプーコンディショナーの完備がなくて、唯一あった石鹸で髪の毛を洗ってみたんだけど……仕上がりはごわごわのバサバサで酷いものだった。
ああなるのは嫌だなあ。
そう思ってミカンを見ると、あたまの上にエンジェルリングが見えた。
癖のない栗色の髪は滑らかで、彼女が歩むたびにサラサラと揺れる。
「ミカンの髪は綺麗よね。その石鹸で洗うの?」
「石鹸には二種類あるのです。体を洗う物と髪を洗う物です。中央王国から仕入れている物で城でしか使われていませんが。贅沢にも城勤めのものは使用が許されているのです」
なるほど。
それなら中央王国は、ここよりも近代化が進んでいるのかもしれない。
いいなあ。なんでわたしはこんな所に?
でもまあ、この城にもその石鹸があるというのだから安心ね。
あとは試してみるしかない。
長い廊下を進んで階段を上り、また廊下を進んで横に折れ。また進んで今度は下る。
う……だんだん道順があやふやになってきた。
「ずいぶん遠いわね」
「お城自体が広いので。立ち入り禁止の場所もありますから、わたしも全ては把握していません。湯殿はもう少しですよ」
お風呂に行くだけで一苦労だわ。エレベーターとかないのかしら。
シャワーがあるなら、あってもよさそうなのに。
でもいまは壊れてるんだっけか。
それじゃあ洗うのも一苦労しそうだ。
「こちらが女性専用の湯殿になります。今は誰もおりませんから、ごゆるりとお入りください。わたしはこちらでお待ちしておりますね」
ミカンがにっこりと微笑む。
だけどわたしはパチパチと瞬きを繰り返した。
ミカンが足を止めた場所に、『女湯』と書かれた赤紫色の暖簾を発見してしまったから。
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