入城
寂れた城下町を真っ直ぐに抜けたその先で、わたし達は馬を止めていた。
そこには対になった白亜の石柱が二本そびえ立っている。
螺旋状に彫り込まれた匠細工は水流のうねりと花模様を壮観に象っていた。
でも、その門の奥には何もなかった。
そこでぷつりと街並みが消え失せ、門の奥には飽きるほど見てきた緑の草原が広がっている。
な、なぜ……
わたしは愕然としてその景色を見つめる。
一度外へ出るの? どういう造りの国なわけ。
城下町って言うからには城のお膝元でしょう?
なんなの、これ。どういうことよぉ!
もうやだ、私疲れたっ! 休みたいー!!
わしゃわしゃっと髪の毛をむさぼって馬に突っ伏したわたしの後ろでオスカーさんが門番に向かって声を掛けた。
「我が名は第四騎士団隊長、オスカー・ベッドフォード。御当主様の任を受け、ただいま帰還した。開門の許可を願う」
そう言って何かを門番に差しだす。
門番がそれを門に掲げると天辺にあった何かが眩い光を放った。
目を細めるわたしの横を走りすぎ、門番はオスカーさんに手渡して一礼した。
「確かに。どうぞお通り下さい」
「ご苦労」
なに今の。
動揺するわたしをよそに、平然とする一向はオスカーさんを先頭に門を潜る。
景色は何も変わらないのに、門を抜けたとたんに妙な感覚に襲われた。
――水だ。
こぽっと水に沈んだ感覚と、軽い奔流。
そんな感覚が通り過ぎて瞬きした時には、目の前に広大な敷地と大きなお城が見えた。
「えっ……?」
わたしは目を丸くする。
慌てて後ろを振り返ってみたけど、代わり映えしない門があるのみ。
トキも驚きを隠せないようでキョロキョロとあたりを見渡していた。
「あの門は御当主様の許可がない人間は通れないんだ。許可のない人間がいくらあの門を通っても城下町の入り口に戻される」
テオが可笑しそうに笑いながら、そう説明してくれた。
おおーっ! すごーい! ファンタジック!!
どういうシステムか知らないけど、オスカーさんが手渡した何かとあの光が関係あるのかしら。
寂れた貧乏国だと思ったら突然ハイテクじゃないのよ!
テンション上がるわあっ!
凄い! 凄い! と興奮するわたしの隣ではトキが首がもげそうなほど頷いていた。
敷地内には大小様々な建物と訓練場みたいな所があって、いかにもお城らしい噴水やガゼボなどが華を添えていた。それらを突っ切って進んだ先に城門がある。わたし達はそこでようやく馬を下りた。
立派な正面扉をくぐると着物姿の女性が横一列に並び立ち、頭を下げた。
皆、縦ストライプの着物姿で旅館の出迎えみたい。
その真ん中でひとり、紺色の着物を着た女性が一歩前に進み出てる。
このひとが一番偉そうだ。女将かしら。
「お帰りなさいませ、オスカー様。御当主様より謁見の許可が出ております。巫女様をご案内せよとの命にございます」
「ああ。分かった。しかし巫女殿は旅の疲れもある様子。先に旅の汚れを落としてからでもよいだろうか。その後伺うと申し伝えてくれ」
女将の視線がわたしに向けられる。
「巫女様はそちらにおられる方ですか?」
「そうだ。色々あってな。このまま謁見するわけにもいくまい」
ああ、そういうことですか。
そうですよね。当主がどれだけ偉いのか知らないけど、わたしの身体は煤だらけの真っ黒黒助なのだ。
この状態で謁見なんて失礼、というか汚い。
当主に会ったらトキの処遇も検討してもらうつもりなのである。
こんな格好じゃ奴隷騒動の二の舞になりかねない。
女将は口に手を当てて少し困惑する表情を浮かべた。
その目はどうやったらこんなに汚くなれるのかとでも言いたそうだ。
火事現場の焼け落ちた家屋を頭から被ったら同じスタイルになれるよと教えてあげたい。
「……そうですわね。かしこまりました。巫女様には先に湯浴みをして頂きましょう。御当主様にはそのように申し伝えておきます。ミカン、巫女様をご案内して差し上げなさい」
ミカン? なんて美味しそうな名前。
女将の横からわたしと同い年くらいの子が一歩前に歩み出る。
くりっとした目のぱっつん前髪のおかっぱさんだ。
「ミカンと申します。では巫女様、湯殿へご案内致しますのでこちらへどうぞ」
ミカンはぺこりと頭を下げて手を廊下の向こうへと差し伸べた。
「わたしは先に行って報告を済ませておく。ゆっくりと疲れを取ってくるといい」
オスカーさんがそう言い、その場にはテオとトキだけが残る。
「トキはどうするの?」
「トキは中に入れないんだ。ここで俺と待ってるから」
テオが申し訳なさそうにトキを見る。
そうか、トキは城の人間じゃないんだもんね。仕方ないのかもしれない。トキのことはテオに任せることにして、わたしはミカンの後を追った。
「あの、巫女様。その猫は巫女様の猫なのですか?」
不思議そうなミカンの目がトコトコと後をついてくるヤマトに注がれる。
「ああ。うん、そうよ。ペット」
「ペット……飼い猫、という意味でしょうか」
「そう」
――我は飼い猫などではない。
ヤマトの抗議は華麗にスルーした。
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