城下町到着
「ここは、もう首都なんですよね?」
「ああ。ここは城下町だ。城まではもうしばらくかかる。本来ならばすぐにでも御当主様に謁見を願うところだが……日も落ちてしまったし、明日になるかもしれん」
「城下町……」
わたしは辺りを見渡す。
ヤマトの話によれば、あの砂漠の中央にひとつ、東西南北に四つの国がある。
ここは東に位置するアイゼン国の首都ユーラ。
首都というからには、それなりに発展しているのだろうと思っていたんだけど……
確かに城下町を縦断する道は、いままでの畦道とは比べものにならないほど大きいし整然としている。奥行きだって見てとれないほど長く、両端にはひしめくようにして建物が建ち並んでいる。
だけど、まだ宵のうちだというのに人通りがほとんどない。
深い群青色の空が翳りを帯びていても、薄らと明るい光が残っているというのに。
夕飯どきにしては時間が早いし、寝るのにも早い。
よくよくみれば、商店街はあますところなく硬く扉を閉ざしていた。
まるで外界を遮断するかのように、この城下町全体に閉鎖的な雰囲気が漂っている。
茅葺き屋根の日本家屋。大きなレンガ造りの建物。
和洋入り交じった城下町の風景は統一性が感じられない。
しかし妙なまとまりがある。それこそ東京の街並みの一角だ。
わたしは様々な趣のある店が軒を連ねているのを見ると胸が躍るような気持ちになる。
いまもそうだった。
それなのにこの活気のなさが、意気消沈とさせてしまう。
「誰もいませんね。お店閉まるのはやくないですか?」
この世界ではこんなものなのかしら。
田舎のお店は店仕舞いをするのもはやいという。
だけど昼夜問わず賑わう都会の喧騒を思えば、すごく寂しい。
「ほとんどの店は看板を下ろしている。生き残っているのは城御用達の店か独自の蓄えがあった者だけだろう」
「中央都市なのにお店が潰れたってことですか?」
「そうだ。ここも他とそう変わらない。御当主様はできるだけ多くの商人と生業を通じて少しでも多く対価を払おうとなさってはいるが……城の蓄えもそう多くはないからな。限界はある」
廃れた町のシャッター街ですか。
どんな貧乏国なのよ、ここは。
商売の取引先が城しかないっていうの?
こうして立ち行きがままならなくなった人達が、野盗なんかになり果てるのだろうか。
「他の国と取引できないんですか? そりゃ、国内での取引は難しいのかもしれないけど、他国ならお金も品もあるだろうし」
「以前はユーラ特有の特産物があったと聞く。それはとても珍しい物で奪い合いに転じるほど高値がついたそうな。しかし今ではもう何百年も前から目にしていない。育たないのだ。それどころか民は自分達の食糧を確保するのにさえ困窮している。大豆も我が国が所有する特産物だが、今はそれだけが頼りとも言える。大豆の流通は古くから中央王国と取引があるから、それでなんとか我が国は維持できているのだ」
へぇ、大豆があるの。でも大豆だけじゃ全国民は賄えない。
「俺たちもサワナに行こうとしたんだけど、遠くて行けなかったんだよ」
トキが悲しげに息をはいた。そこに少し意外そうな顔をしたのはテオだ。
「お前、サワナに行こうとしてたのか?」
トキはこくんっとうなずく。
「ああ、それであそこなあ」
得心がいった様子のテオに、トキは肩を落とした。
「だってサワナまでは馬で一週間はかかるもん。俺たちには全員が乗れるほど馬はいなかったし、旅路の備えもなかったから」
「サワナって?」
わたしが首を傾げるとオスカーさんが補足してくれた。
「遠い昔に時見の巫女様が広げたとされている大豆の名産地だ」
確かにそこに移住できれば、食べ物には困らないかもしれない。
でも馬の足で一週間なんて……徒歩で行ったらいったいどれくらい時間がかかるわけ。
その間の宿泊は最悪野宿にしたって食料は調達しなきゃならないだろうし。
やっぱりお金がなくてはそれほどの遠征は難しい。
だからトキの集落はあんな中途半端なところにあったのね。
「ここで店仕舞いした人間もおそらくはサワナへ移住したのだろう。大豆はこの国で唯一、加護の影響を受けていな作物だからな」
「へぇ。どうしてでしょうね」
「わからない。巫女様の恩恵とも言われるが、明確な理由は定かではないのだ」
ふーん。よく分からないけど、とりあえず特産物があってよかった。
しかも大豆。わたしは納豆が大好き。イソフラボン、大事。
わたしは三食納豆でもイケる子なのだ。
あっちの世界では納豆臭くなると言って制限されたことも結構あるけど、ここじゃあ関係ない。他に何もなくたって納豆と白米があれば生きていける。
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