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魂の絆

 ほどなくして数多の魂は虚空に浮かぶ魔方陣へと姿を消した。

 あの魔方陣を介して、あれらの魂はどこへ行くのか。

 そんなこと当然わからない。

 だけどわたし中にいるシュナンツェの心は春風のように温かく満ちている。



 ――個人差はありますが、彼らは必ずこの地に戻ってきます。何年、何百年かかろうと必ず。


 ――そう。



 わたしは内なる声に応える。

 また会えればいい。姿形を変えてもなお魂の形は変わらないのだとすれば、またザックはハンナと兄妹になれるかもしれない。


 その頃にはこの世界も飢えに苦しむことなく、誰しもが当たり前に働き美味しいものを食べて笑う、そんなふうになっていてればいいと思った。



 ――其方がそうであるように。魂の結びつきは神といえども容易に切れるものではありません。



「……わたし?」


 わたしが誰と絆を紡いでいるって?


 想いが言葉に乗ったのと同時に、シュナンツェの気配が奥底へと沈んでゆくのを感じた。


 魔方陣が薄れゆき、空に澄み切った青さが広がる。

 淀んでいた嘆きの(おり)は新たに生まれた青空のように晴れ渡り、人々の顔をスッキリと軽やかなものにする。


 さすが巫女様だと人々が囁くなか、入り口で待機させていたフリフリナルシストは神の所業ををみたと感激にむせび泣き、ほっかぶりをした野盗達は手をすり合わせながら叩頭していた。

 

「おいら達の魂は美味しくありません。どうか連れて行かないでくだせえ!」


 トキの集落での出来事がよほど恐ろしく焼き付いていたのだろう。

 たしかにあのときのシュナンツェは悪霊のラスボスみたいだった。


 一応、これは地縛霊に対する救済処置なんだけどね……


 落雁や果物が積み重なった机の下にデカイ図体を押し込めて手を合わせる野盗と、泣きながら小躍りするナルシストを遠目に見ながらわたしは小さく笑う。


「これでシュナンツェとの約束も果たしたわ。ようやく行けるわね、精霊の泉に」


 神殿の入り口で来場した人々と見送り、握手を交わすわたしにザックが肩を並べる。


「体に異常は」


「異常なのはあなたの手下よ。わたしを恐れて近寄ってこないの。なんとかしてきなさいよ」


「ちょうどいいじゃねーか。俺は可能な限り誰にも近寄って欲しくねえ」


「あなた。よほどわたしのことが好きなのね」


 わたしはザックには目も向けず、ニッコリとしながら握手を求める青年を見つめ手を握る。その次は年端もいかない女の子を抱えたお母さん。その後には腰の曲がったお爺ちゃん。差し伸ばされる手をひとつ残らず握り返すうち、いつの間にかモデルスイッチ(営業版)が入ってしまった。


 もはや今のわたしは聖徳太子と大差ない。


 あくまでも故人のために催された祭事だったので、笑顔は控えめながらも温かく。投げかけられる言葉には謙遜をみせ、しかし場違いにもキラキラするナルシストを指し示し、「あの落雁を買って毎年命日にお供えすると霊も喜びますよ」と付け加える。


 本来なら客寄せ担当だった野盗が怯えてそれどころではなくなってしまったからだ。


 なんなら火の精霊でも呼び出してケツに火をつけてやりたい。


 一塊となってわたしや足もとでちょこんと座すヤマトに恐々とする眼差しを向ける野盗に睨みをきかせると、口をポカンと開けてこちらを凝視するザックの顔が目の端に映り込んだ。


「どうしたのよ、ザック」


「……っ! だからおまえはなあッ! そういうとこが‼」


「なんの話」


 ザックは口もとを片手で塞ぎ、もう嫌だこの女! と喚きながら野盗達のもとへ大股で歩み寄り、まるで八つ当たりじみた蹴りを尻にかました。二、三人纏めて転がったのを横目にわたしは首を傾げる。


「ひでえよ、親分!」


「図星つかれたからって俺らに当たることねえじゃ……」


「うるせえっ‼」


 

 ――お主はもう少し恥じらいというものを持った方がいいのではないか。

 


 ゴロゴロと巻き込まれて顔から地面に突っ伏した野盗に白い目を向けて、ヤマトが小さく息をついた。


「恥じらいくらい持ってるわよ。こうみえてもわたし日本人なのよ。日本人の美徳は謙虚さと奥ゆかしさって言われてるんだから」


 そりゃあ、商売根性が逞しいのは認めるわ。モデルってのは人前に出るのが仕事だしね? 度胸も多少は鍛えられているかもしれないわね。いえ、むしろ脚光を浴びるのが大好きって性分まである。そうでなくてはモデルなんてやってられないでしょうよ。


 でもそれはモデルをしているからであって……もともとはもっと奥ゆかしい性格だった…はず?


 と、過去の思い出をあれそれ遡ってみたんだけど、思いだすのは高飛車なモデル仲間と取っ組み合いをする場面だったり、ユリウスに腹黒な接待をしてニマリとする自分の姿だったりした。


 わたしはコテンと首を傾げる。


 ……奥ゆかしいってなんだっけ?



 ――お主。言葉を間違っておるのではないか。我はお主にそのような一面を感じたことは一度もないぞ。



 変な汗を感じながら、わたしはじっと見上げるヤマトからスッと目をそらした。





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