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輪廻への餞

「故人を偲ぶ儀式に屋台を出すバカがいるのいるのかよ。祭りじゃねーんだぜ」


 呆れたようにため息をついたのはザックだ。


「世の中は広いのよ。わたしの世界では魂を明るく送るって意味でわざとお祭り騒ぎする国もあったんですからね」


 まあ日本人には馴染みのない風習だし、わたしとしてもこういった儀式は粛と行いたい。 


 屋台を出したいといったのは軽い現実逃避よ。わかって。


「だけどよ、本当に大丈夫なのか?」


「知らない。でもやらないとわたしが呪われる」


「……前に乗っ取られた時の記憶、戻ってねーんだろ」


「まあね。でも今回はヤマトが見張ってくれるって言うから大丈夫なはずよ」


 神殿が復活したのは、わたしの体を乗っ取ったシュナンツェの所業だ。


 あれ以来ザックはシュナンツェに対してやたらと警戒心を持つようになった。なにやらよほど不気味に映ったらしい。


 実際は実態のある幽霊みたいにひょっこり姿を現すし、大きさも変えられるし、契約違反をしてお怒りを買わなければそれほど恐れる相手でもないんだけど。


 今回も風呂場に出現したようにシュナンツェ個人で執り行ってくれたら、ここまでザックが警戒することもなかった。でも鎮魂の儀式は多くの力を行使するから、つつがなく終えるためには巫女の器であるわたしの体が媒体として必要なんですって。


 だから渋々了承したんだけど、シュナンツェに体を乗っ取られる間、わたしの意識や魂はどこへいくのかしら。そう考えると少し怖い。


 ――案ずる必要はありません。前回はそなたの意識が浮上する前に妾が動いただけのこと。今回は残存ずる意識の中ですべてを目にするはずです。


 シュナンツェが頭の中で話しかける。


 それを聞いてほっとした。


 精霊と契約を交わすとき、自分が自分でないような感覚にとらわれることがある。多分、あんな感じになると予想。


 ユリウスの声で準備や警護についていたザックや、オスカーさん達が舞台から離れる。


 決して魔方陣に踏みこんではならないとシュナンツェから注意があったからだ。


 だけどヤマトだけは、さも当然の顔をして足もとにいた。


「あなたは離れなくていいの? 魂取られても知らないわよ」


 ――愚問。我に魂などない。


「……聞かなきゃよかったわ」


 今の会話はなかったことにして、わたしはすっと表情を打ち消し、能面のような顔で前を向いた。


 魂がないってどういうことよ。化け猫だって妖怪なんだもの、一応それらしいのはあるんじゃないの?


 ああ違う、導く者。神の遣いだっけ。にしても魂がないって、じゃあどうやって動いているのよ。もしかして背中にゼンマイでも付いているのかしら。


「これより立花朱鳥による鎮魂の議を執り行う。無念にも亡くなった死者は行き場をなくし、いまも嘆きに満ちてこの地に留まっている。これは彼らの魂を浄化し、神々の住まう天へと還すための儀式である。天へ還りし魂は悠久の時を経て新たな魂と生まれ変わるのだ」


 ……というのがシュナンツェの説明。輪廻転生っていうのかしら。


 魂は命が尽きても終わるわけじゃない。


 シュナンツェ曰く、定められた運命が強いほど輪廻は繰り返される。 


 巫女の魂は巫女であるために繰り返して生まれ変わり、巫女と深く関わった数奇な運命の持ち主も、再び与えられた定めを真っ当するべく生まれ変わるのだとか。


「この地から故人の魂が消えても、彼らは新たな門出に立つだけだ。今度こそ幸福な人生を送れるよう、共に祈ろうではないか」


 すすり泣く声が、沈んだ空気に染みだした。


 おそらく輪廻転生という言葉さえ知らない彼らが、この話しをどこまで信じられるのか。


 けれど彼らは祈る。両手を胸で組み合わせ、(こうべ)を垂れて薄汚れた頬に涙の筋を描き。


 ……信じたいのだ。


 無慈悲な世界で悲惨な人生を遂げた家族を。

 無念と後悔、理不尽さに戦いながら消えてしまった命の灯火が。


 幸福たる世界で再び日の目が見れるように。 


 不確かでも信じたい。


 人には心の拠り所が必要だ。


 〝ここではしあわせになれなかったけど、天国でしあわせに〟


 そう思えることができたら、ずっとひとりで抱えてきた苦悶をほんの少し軽減することができるから。


 この世界では神様というのが実在するし、人々も信じている。だからきっと信憑性はわたしのいた世界より大きいはず。


 ちらりと視線を動かすとトキも跪き、胸で手を合わせていた。


 腕を組んで立ち尽くすザックの表情は少し苦しそうにみえる。


 悲痛に歪んだ顔で唇を結ぶザックもまた、この世界の被害者かもしれなかった。


きっとこの世界で心に傷を負っていない人間なんて誰もいない。


 ふとフリフリナルシストが脳裏をよぎったけど、頭を振って一蹴した。


 ド派手な羽男は地味にしろと言ってもなりきれなかったので、神殿の外で売り子として待機させてある。もちろん急きょ準備した〝落雁(らくがん)〟の売り子である。


 ここに集った人々の風貌を見るに購入できる層は少ないようだけど、中には富裕層も入り交じっているから、彼らが買ってくれるかも。


 本当は万全に用意して故人の名前を刻める位牌や仏壇とかも売りたかったんだけど、それはまた今度にしましょう。違法な高額にしなきゃ販売してもいいってシュナンツェからも許可は降りてるんだし。

 

 ――準備はよいですか、朱鳥よ。


「……いいわ、やって」





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