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嘆きの集い


 ――何が恐ろしいのだ。


「だって鎮魂の儀式って何すんの」


 ――シュナンツェが執り行うなうのだろう、何千年としてきたことなのだ。任せておればよい。


「そうだけど、わたしの体を使うんでしょう。シュナンツェと違ってわたしは初体験なのよ」


 黒と白を基調とした儀式用の着物に身を包んだわたしは、眼下を見下ろしてブツブツとごちた。頭に飾りつけられた金細工の簪からは簾のように金糸が垂れている。


 これはユリウスからのプレゼントで神殿が解放された祝いにと用意してくれたものだった。


 かつて時見の巫女が使用していたものらしい。


 こんな豪華な装飾品を誂えることができたなんて、彼女がいた時代はよほど裕福だったに違いない。いえ、裕福にしたんだわ。


 わたしも負けていられない。

 いつか札束で顔を扇いでやるんだから。


 アイゼン城と同等の敷地を要す神殿は、日頃、野盗出身の粗悪な風貌の小作人が火の精霊に嫌がらせを受けながら砂糖作りや畑仕事に専念している場所である。


 眉間に皺を寄せながら見守るザックとにこやかな笑顔を浮かべるわたし。


 なんとも和やかな日常が訪れていたこの場所が、今は所狭しと人々で溢れかえっている。


 なぜかって。


 よし! 精霊の泉に出発! と意気込んだわたしに待ての声がかかったからよ。


 竫浄せいじょうの神シュナンツェから。


「妾との契約を忘れたのですか」


 ユリウスの火災や出店準備ですっかり抜け落ちていたんだけども、背筋も凍る声色でそう問われて、はっと思いだした。


 冷気を纏った黒雲が部屋をもくもくと染め上げてシュナンツェの怒りを露わにしたから、悲鳴をあげずにいられなかった。


 シュナンツェとの契約はこうだ。

 シュナンツェの恩恵をもらう代わりに不浄の魂を浄化する手助けをすること。


 ほくほく顔で旅に持って行く簡易食品を開発している場合ではなかった。 


 わたしは半ば脅されるようにしてユリウスのもとへ駆けだし、真っ青になって懇願した。


 どうか出発前にこの国の霊を鎮魂させてくれないかと。

 それが巫女であるわたしの務めなのだと。

 じゃなければ呪われる。


 ……まあ、そこは飲みこんだけども。


 で、可能な限り「神殿が復活したため、故人を祈る儀式を執り行う」と新たに公布をだしてもらったってわけ。


 時見の巫女が鎮魂の儀式を執り行った記述はないとユリウスは言った。


 もとより死人を野ざらしにするのが当然の国なのだ。

 お墓参りも葬式も何も知らない人々。


 鎮魂の儀式といって何人がピンとくるのか。


 十人くらい集まればいいかなあ、それなら気がラクだなあと思っていたんだけど。


「これ、多すぎない。こんなに集まるなら屋台でも設置しておけばよかったわ」


 広大な神殿の敷地内に蠢く人、人、人。雑踏の中では個人の顔を認識するのも難しい。


 (つど)った者達は見るからに貧相な風貌をしていて出会った頃のトキを思いだす。


 肉づきはなくて枝のように細い体。汚れが染みついた衣類。荒んだ表情。


 彼らの持つ負のオーラが神殿内に満ち、空気を変える。


 同時に城下町で見た活気は本当に一部の変化なのだと思い知らされた。


 この国の闇は、そう簡単になくなったりしないのだと。

 


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