黒い死神②
馬に乗せられてしばらくすると「重い……」というつぶやきが後ろから聞こえて、死神のペットを手渡された。
この猫はなんだか不気味だから、あんまり触りたくないのに。
そんなことを思っていたら、騎士のひとりに話しかけられた。
「なあ、お前名前なんていうんだ? あ、俺テオな」
なんか馴れ馴れしいやつだ。
「トキ」
ぶっきらぼうに返す。
「何歳なんだよ?」
「十三」
「俺と同じか!」
え、同い年なのか?
目を丸くするテオに俺もまた唖然とした。
テオは俺よりも体が大きくて立派だし、もっと歳上だと思っていた。
嘘でしょ、と言いかけたら、
「嘘でしょ!!」
と後ろからデカイ声がした。
死神の声だ。
「騎士は嘘なんかつかない!」
「だって体の大きさが全然違うじゃないの!」
怫然とするテオは、むきになったように返した。
だけど死神も負けじと声を張った。
俺とテオはあたまひとつ分くらい違うから、よほど信じられなかったんだろう。
「俺はほら。一応、三食たべれるしさ。鍛錬だって毎日してるから結構筋肉はあると思うぜ」
「へぇ。鍛錬もしてるの。そう聞くと本当に騎士みたいね」
「みたいじゃなくて騎士なんだって!」
今頃気付いたけど、死神の声って女みたいだ。
「その歳で偉いじゃない。ねえ、わたしにも稽古をつけてくれない?」
死神はそんなことを言った。
死神が人間に稽古を付けてもらうの?
変わった死神……
死神がそう言うと、テオは凄く驚いた顔をした。
「女の子に剣の稽古なんて付けられるわけがないだろ!」
女の子? 俺は首を傾げた。
「騎士ってめんどくさい」
小さくボソッと呟いた死神の声は俺の耳によく届いた。
「別にいいじゃないの。護身のためよ」
死神に護身なんて必要あるのだろうか。
この死神、本当に変わってる。
俺はさらに首を傾げた。
「騎士は弱い者を護るためにあるんだよ。つまり女の子のことも俺は護る。女の子が自分で剣術習うなんて危ないし、そんなことさせられないだろ」
弱い者を護る、か。俺も強くなったら誰かを護れたりするのかな。
「な! トキもそう思うよな!」
急に話を振られて困惑する。
「え……俺も強くなりたいと思う」
「そうじゃなくて! お前もアスカのこと止めてくれよ。こいつ、言い出したら言うこと聞かないタイプだぜ、絶対」
どうして分かったのかしら、と死神が呟く。
「アスカってだれ?」
「お前の後ろにいるやつだよ。そいつ、そんなんでも伝承の巫女なんだぜ」
「伝承の、巫女?」
伝承が何かは知らないけど、巫女が何かは知っている。
アイゼン国には巫女がずっといない。
巫女は神々の力を借りて、様々なことができるって聞いた。
土地が痩せたのも巫女がずっといなかったせいだって昔母さんが話してたっけ。
ポカーンとしてしまった俺を見て、テオが笑った。
「トキのやつ驚いてるぜ。そりゃあ、そんな真っ黒な女の子が巫女って言われても信じられないよな。顔くらい拭けよ、まったく」
顔をしかめながらテオが呆れたようにいう。
「だって煤って水で拭けないじゃない。もっと汚くなっちゃうのよ。だからお風呂に入るまでこのままでいるのがベストなのよ!」
「煤?」
俺は思わず振り返った。
抱えていた猫が落ちそうになる。
ん? とキョトンとした顔をした死神の顔をよくよくと見てみる。
あれ?
俺は手を伸ばして死神の頬を撫でてみた。
煤がスーッと伸びて少しだけ白い肌が現れる。
「トキ?」
死神が訝しがる瞳を向ける。
だけど夜空を写し取ったように真っ黒な瞳はとても澄んで綺麗だった。
冷静になってみると可愛らしく聞こえる声を奏でるのは漆黒の唇。
少しドキドキしたけど俺は袖口を握ってごしごしと死神の唇を拭いてみた。
テオが驚いたように、おいっ! と叫んでいたけど耳に入っていなかった。
だってほんのりと果実のような赤みが垣間見えたから。
不思議そうな目をじっと俺に向ける死神の眉が、困惑したように寄せられる。
そのとき、あ、眉もあったと気がついた。
それらすべてのパーツを当てはめれば、死神は人間以外の何者でもなかった。
「ひとだったんだ…」
愕然としながら呟いた俺に、その女の子――アスカはショックを受けたように固まった。
場に妙な沈黙が流れる。
ついさっきまで「女の子の顔に勝手に触れるなんて失礼だぞ!」とかなんとか、まくしたてていたテオまでポカンとしちゃってる。
だけどそれもつかの間のこと。
腹を抱えて小刻みに肩をふるわせたかと思えば、目に涙をためて笑い声を爆発させた。
「お腹が苦しい!!」
ゲラゲラと笑いながらテオは馬にへばりついている。
だけどアスカはまだ呆然と俺を見つめたまま固まっている。
「あ……ご、ごめん」
「い……いいのよ。その、家屋が崩れちゃってね。頭から煤を被っちゃったの」
「ああ……そうだったんだ」
なんて間抜けなひとなんだろう。
それでこんなに真っ黒くなっちゃったんだ。
じゃあ、このひとが姉貴にしてくれたことは丁寧な埋葬だったんじゃないか。
体を綺麗にして食べ物まで捧げてくれて。その上、俺にも水や食べ物をくれた。
俺にしてみたら恩人じゃないか。
そんなひとを死神だと思ったなんて。
俺、すごく誤解してた。
このことは絶対秘密にしよう。
そう心に決めた。
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