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金は天下のまわりもの

 東の大国アイゼン、首都ユーラ。

 首都だというのに大豆の産地サワナよりも人口が少なく、廃れたシャッター街と化していた亡霊のような街。


 出歩くのは見慣れた豆腐やのお爺ちゃんと呉服屋の女将くらいなもので、あとは必要性を感じさせない騎士の見回りくらいだった。


 実際は民家もそれなりにあって、ユーラの民は細々と陰日向で生きていただけなんだけどね。


 要は何かを買うお金もなかったし、自分達の生活を維持するのに精一杯で街を歩く必要がなかったという話し。


 でもおから料理が正式に公布されたことによって、豆腐屋の爺ちゃんは大量のおからをユーラの民に無料で配布した。いままでの罪滅ぼしだといってね。


 おから料理を知った時の嘆きを思えば気持ちは理解できるけど、きちんと釘を刺すことも忘れない。


 時見の巫女はアイゼン国のために大豆を植えたけれど、豆腐屋のお爺ちゃんだって立派な国民なのだ。


 いままで豆腐を作り続けてきた恩恵をいまここで手にすべし。


 ある程度無料配布したら、ちゃんと課税をつけて販売するように言っておいた。


 そうすればお爺ちゃんの暮らしもよくなるはずだもの。


 お爺ちゃんの善意のおかげで民の食事も以前と比べてだいぶマシになったようで表情も明るくなり、気分転換にと城下町へ足を運ぶ人も多くなった。


 ショッピングや外食をする余裕はないだろうけど、心に余裕ができて晴れやかになるとちょっと出かけてみようかなって気分になったりするわよね。ぶらぶら街並みを見るだけでも楽しいし。


 そういった人達の姿も増えてきてとても嬉しい。


 城下町は新たに出店した三店舗を主軸に商業的に活気づき、要所要所でアピールし続けてきた着物の口コミも周知されてきたようで、遠方からも「ここでしか手に入らない限定品」を目当てに領主や貴族といった上層家庭の人種が時に料理を、時に着物に大枚をはたきにやってくる。


 ユーラ城でさえ当初は質素な食べ物しか出てこなかったのに、そんな大金どこに隠し持ってたのよ。


 きっと悪どいことをやって自分だけ裕福に過ごしてたに違いないわ。


 わたしは笑顔でお辞儀をしながら背中をジト目で睨みつけた。


 そうそう。おから公布のアピールとしてサワナに赴いた際に立ち寄った温泉街を覚えているかしら。


 茹で釜と化した源泉の泉は今も尚、煮えたっていてお湯が湧き出ているらしい。


 おかげで滅多に湯船に浸かることのできない旅人や商人などが数百年ぶりに復活した温泉を目当てに足を運ぶようになった。


 そこで出迎えるのは新たに公布されたおから料理の数々。


 女将さんは店頭のお土産販売に留まらず宿屋で提供するメニューにもおから料理を取り入れてくれて、課税分がすでにわたしの手元に入ってきている。


 それだけじゃない。温泉が復活したのはわたしのおかげだと入浴代の一部まで上乗せして払ってくれた。


 これにはさすがに驚いたんだけど、温泉街は空き宿がないほど来客が絶えないらしく、宿屋の経営者が会合で取り決めたことだと通達がきたので、有り難く受け取ることにした。


 巫女であることは内密にしていたんだけど、どのように話しをまとめたのかしら。


 そう思ったけれど代わりに宿屋街の料理人を数名、新店舗で見習いとして雇って欲しいと追記があったので得心がいった。


 温泉街を取り仕切る長は提供する料理の質を向上させたいのだ。


 なんて向上心のある素晴らしい人間なんろうと感激する一方で、さすが商売人だと笑いをこらえる。


 もちろん向上心ありきの話しだけど、彼らはその先を見据えているはずだから。


 現在、おから料理や大豆料理の最先端はここユーラ。


 そこで働きながら知識と腕を磨き情報を提供すれば温泉街全体の質が改善され、宿代を上乗せすることも可能になるかもしれない。


 美味しい料理を提供する宿が安いわけがないものね。


 くわえてお土産の種類も豊富になり、これまた収入アップへと繋がるわけ。


 入浴料は将来的な収益を見込んだ投資ってところでしょう。


 宿泊料に留まらず副収入にも手を抜かない商売根性、実にあっぱれ。


 わたしはふたつ返事でうなずいた。


 なんせ課税はすべて半額でわたしにまわってくる。

 断る理由なんてどこにあるのよ。どんどん料理を提供して欲しいわ。


 といった具合にわたしの懐も温まり始め、いざ精霊の泉に出発! と行きたかったのだけど。


「怖い」


 わたしは今や大農家と化した神殿の魔方陣中央に立っていた。


  


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