プレオープン準備2
だけど朝早くから活気づいているのはナルシストだけじゃなかったらしい。
普段、この時間帯は静寂に包まれている城内だけれど今日に至っては別。すでにあちこちでがやがやと物音が聞こえる。
通路を歩む人の気配。話し声や高らかな笑い声。その原因はプレオープンに招かれた領主達だ。
今回は前回の公布と違ってユリウスとの謁見は強制ではないし、ただ料理を食べて帰るだけでいい。店舗の並ぶ城下町で食事を堪能した後は現地解散で十分。それなのに。
おから料理は彼らの胃袋をがちりとつかむことに成功していたようで、待ちきれない領主達は前日に城を訪れ宿泊していたのである。プレオープンは10時からだというのに気の早いこと。
だけど彼らの目的はプレオープンだけじゃなかった。
キッシュによれば、ここの温泉と食堂の食事にあずかれることも理由のひとつだったらしい。
おから料理が認められてから食堂の料理はだいぶメニューが豊富になった。最初に来た時の質素なご飯とは雲泥の差だ。ここに納豆があれば完璧なのに。
でもまあいいでしょう。味噌汁にだって豆腐以外の具材が入っているんだから!
現在では自宅で隠居よろしく腐っていた大臣達も毎日出勤しては食堂で朝食を取っているし。大臣なんだからお金がないわけじゃないでしょうし、自宅で食べてきなさいよ。そう思ったけどキッシュは嬉しかったみたい。美味しそうに食べてくれる様子をみるのが好きなんですって。
いまや場内勤めの人間にとっては当たり前となったメニューだけど、領主達は口々に褒めちぎりながら舌鼓を打った。その中には当然ナルシストの両親であるモルモット夫妻の姿も。
彼らはナルシストが手がけたというメイドカフェの1番目の客になるのだと意気込んでいるようだ。
そのせいかどうか知らないけど、ナルシストがわたしにまでコスプレしろというのよ。だから仕方なく。何度も欠伸を繰り返しながら着替えてみたのだけど。
「巫女様! とても可愛らしいです!」
黒を基調としたメイド服は短めのフリルスカート。胸のラインにはレースがあしらわれ、半袖の裾にもレース。そこにこれまたトップにレースのある黒のニーハイソックスをはき。きゅっと締まったウェストには大きめのリボンが揺れる。プリムの代わりにつけたのはチェック柄のリボンだ。いったいどこから用意してきたのかしら。
しかしこれでどこをどう見ても完璧なまでのメイドコス。こうなってくると乗り気ではなかったわたしの闘志にも火がつくというもの。
久しぶりにモデルスイッチが入ったわたしは気合いを入れて髪の毛を整えメイクを施した。
と、なってくると。あれやらそれやとアイディアが浮かんでくる。今回は城下町のみのイベントなので最低限の見回りに騎士を配置するに留まっている。
当然オスカーさんたちはわたしの護衛についてくれるので……
「なぜわたしまで……」
「カッコイイからです」
キッパリそう言うと、オスカーさんは照れたようにそっぽを向いた。
小料理屋はミズノ婆ちゃんが呉服屋の女将と案を練って仕立てた着物を制服として着用することが決まった。黒髪長髪の美丈夫、オスカーさんに着物の似合わない道理などない。前のイベントの時も手伝ってもらったのだし。
朝方早くに呉服屋の門を叩き、女将さんに着付けてもらった。
その傍らにはテオと少し身長の伸びたトキ。彼らにもまた着物を着用してもらう。テオとトキは初めて着る着物が嬉しかったようで、互いのデザインを見ては似合う似合う! とテンション高めに褒めあっている。
「で、なんで俺はこっちなんだ?」
「あなたは髪の毛が銀色だから着物はちょっとね。だからわたしと一緒よ」
「あの店は女しか働かねーんじゃねーのか?」
「基本的にはね。いーじゃないの。華やかな男が一人くらいいたって。今日だけよ」
そう、ザックだ。彼は銀髪に碧眼なので、どうにも和装が似合わない。なので今日はメイドカフェの手伝いをしてもらうことにした。
実はナルシストもカフェの手伝いをすることが決まっていて、自分の制服をちゃっかり準備していたの。
スラックスにフリフリのシャツ、そこに腰で巻くロングエプロンを付けるだけのシンプルな様相だけど、まあ……認めたくはないけど、その、顔だけは整っているので十分映える。
で、それくらいならザックの分も用意出来るんじゃないかと思って尋ねたら、当然可能だと返事をしてくれた。
銀髪の髪をオールバックに流して、ナルシスト持ち物から可能な限りフリルの少ないシャツを厳選し。シックな黒いエプロンを付けたザックは見違えるほどイケメンだ。思わず惚けてしまったくらい。
黙って立っていれば、どこぞの王子様と思われてもおかしくないんじゃないかしら。
「接客なんざ、やったことねーぜ」
……喋ると残念なことこの上ない。なら、余計なことを喋らせなければいいだけだ。お喋り要員にはフリフリナルシストがいるし。
「あなたは店先に立って、いらっしゃいませ〜ってそれだけ言っててくれればいいわ。可能な限り、笑顔でね!」
「はいはい」
プレオープン一時間前。
各店舗でやる気に満ちたコックたちに一人ずつ声をかけて握手を交わし、士気を高めて回ったわたしは10時ピッタリに三店舗の扉を開け放った。
「いらっしゃいませ〜!!」




