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プレオープン準備

 その中には必ず戻ってくると言っていたナットの姿と高コスト部門で一位を取ったハリスの姿が。それだけじゃない、見覚えのあるコックたちが他にも何人か来てくれたのだ。


 わたしは久しぶりの再会に抱き合い、感謝の言葉を述べた。


「務めていた店には話をつけてきました。俺たちはユーラに骨を埋める覚悟です。これからよろしくお願いします!」


 ナットが太陽みたいな笑顔を向ける。

 彼は少しテオに雰囲気が似てる。快活で純粋で。そして優しい。


 おから審査会の時も余った食材を迷わず提供してくれて、他のコック達に声をかけてくれたのも彼だった。


 そのナットがまさか地元の店を辞めてユーラに来てくれるなんて。


「来てくれてとても心強いわ。実力は申し分ないもの。これからはあなた達が考案したおから料理がここから発信するの。頑張りましょうね!」


「はいっ!」


 ここに骨を埋める覚悟で来たと言ってくれたコックたちのために、わたしはユリウスにお願いして城下町で空き家になっている所に彼らの居住を置かせてもらうことにした。


 彼らもその方が都合がいいと納得してくれたし、それによって一気に城下町が活気づいたようだった。


 加えてユリウスとライザーが各地に向けて客寄せのための新たな公布を出した。つまりは宣伝である。プレオープンを設定し、その日は各地の領主を招く。グランドオープンは一般開放だ。


 できるだけ領主には好印象を与え、領地に戻ったらクチコミで宣伝して欲しい。


 そのための準備でコックたちは到着早々忙しない日々を送り始めた。わたしもキッシュと一緒にケチャップの製造やデザートの開発に明け暮れて、ユリウスやライザーはメニューの金額設定と課税率の調整に入る。


 店によって食材のコストが変わるし、あまり高すぎると国民には受け入れられない。そこはコックの知恵を借り、ひとつひとつ協議したようだ。


 もともと特産品の大豆をもととして作られたメニューばかりだし、結界的に出来上がったメニュー表を見ても全体的にリーズナブルな物となっていた。これならきっと国民にも手が届く。


 しかし、わたしはそこでもうひとつ提案した。プレオープンには領主を招く。そこには他と違う高級志向の人間も多いはず。だからリーズナブルなメニュー表とは別に高級メニュー表を作成してくれと頼んだのだ。


 もともとおから料理審査会で高コストと低コストに分けて審査したのはこのためだった。


 高コストで優勝したハリスがいるためメニュー考案には苦労しなかったし、あの時点で人気の高かったメニューはレシピを残してある。


 プレオープンには賓客の数だけ用意するつもりだけど、その後は一日限定何食、とかに設定しておけばハリスにも負担は少ない。高級メニュー表を作るのは小料理屋「おから」だけだし。


 そうして着々と準備は進み、プレオープンの日はやってきた。


「なんでわたしまでこんな格好をしなくちゃいけないのよ」


 鏡の前でスカートの裾をつまみ、くるくるとまわって角度を変え。

 あながち悪くないわね……と内心呟いてみたものの。

 やはりため息をもらさずにはいられない。

 

「前回のおから料理審査会の時は着物を着たんだって? だから今回はイメージチェンジを狙うんだよ!」


「狙う必要性が分からないわ」


「きみは美しいんだ! こういう時こそ着飾るべきだよ!」


 プレオープン当日の朝。まだ朝日も昇りきっていない薄暗い時間だった。ドンドンと襖を叩くナルシストにミカンが飛び起きたらしい。襖は叩くものじゃありませんとしっかり教えてさしあげました! と、寝起き一番で目にしたのは頬をぷくっと膨らませたミカンだった。


 就寝中の巫女様の部屋に押しかけるなんって非常識です! というミカンに対し、アスカは僕のフィアンセだから問題ないと言い張るナルシスト。その不毛な言い争いを半分寝ながら聞いていたのだけれど、「で、なんの用なの」と切り出したら。

 

「ぜひとも今日はこれを着用して欲しいんだよ!!」 と異常に鼻息を荒くしたナルシストが黒チェックのメイド服を突きだしてきたのだ。


 早朝だというのに期待に満ちた目はギラギラとしていて、なんなら涎まで出そうな勢い。反射的に両手を広げて間に立ち塞がったミカンもきっと危ういものを感じたんだと思う。


 ナルシストと出会ってからミカンの警戒心に磨きがかかっているような気がする。そのうちテオあたりに護身術を習いたいとか言いだしそう。


 ユリウスだけじゃなく、ミカンも日々逞しく成長しているようでなによりである。

今日はもう一話投稿します。

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