メイドカフェ見参!!
そしてわたし達は最後の店に赴く。
「これもユリウスが考えたの?」
彼は苦笑混じりに首を振る。
「ここは完全にナルシス殿の趣味だ」
「やっぱり。そんな予感がしてたわ……」
「予は残念ながら、お好み焼き屋と小料理屋に手をかけるのが精一杯でな。そこに彼が助力を申し出てきたのだ。セノーリアで最前線の店をたくさん歩き回ったから、完璧に仕上げてみせると豪語してな……」
「ああ。なるほど」
「デザートとやらに関しては誰もが知らなかった。店の雰囲気も分からずじまいで、あたまを悩ませていた所の申し出であったので任せることにしたのだが……気に入らぬか?」
珍しく不安そうな顔色のユリウスに、わたしは神妙な面持ちで首を横に振った。
「いいえ。すっごい癪なんだけど、実は元の世界にもこういう店があるのよ。メイドカフェって言ってね……それに、すっごい癪なんだけど可愛いわ」
「そうだろう! そうだろう! さすがハニーは見る目があるよ!!」
「あっこら、待て!!」
唸るようにいった途端、テオの手をすり抜けたナルシストがクルクルと回転しながら目の前に現れた。
「このカーテン見てよ! サワナから持ってきたものなんだけどね。この店にとても似合うと思わないかい」
「サワナから……あの馬車にこんな物まで積んできたのね」
「まだあるよ! テーブルクロスもカトラリーも僕のお気に入りなんだ。さあ、案内しようじゃないか!」
半ば無理やり手を引かれて飛び込んだメイドカフェには、水色ストライプの生地に白いフリルのあしらわれたテーブルクロスが全席にあって、椅子に備え付けられたクッションはフカフカで、カトラリーも少し変わったデザインのオシャレなものだった。
確かに可愛い。御伽の国にでも紛れ込んだようだ。女子高生がいたら速攻で溜まり場になりそうである。
「これ……もしかして全部……」
「僕の私物だよ! けどね、ハニー。きみのために贈呈しようじゃないか! なにせ愛するハニーが世界で初のデザート! を出店するんだからねっ!」
「え、ええ。ありがとう」
「お礼を言うのはまだ早いよ! ここが一番苦労した所なんだ。さあ! おまえたち、出ておいで!」
ふぁっさあ! と髪を掻きあげて、くるっとターンしたナルシストがパンパン! と手を鳴らす。それを合図に奥の方からぞろぞろと若い女性が列を作って登場した。
「こっ、これはっ!」
わたしは一歩引いて驚愕に目を見張る。
全員が10代かそこそこ。ツインテールのくりくりお目目の童顔から、眼鏡をかけたツンデレダイナマイト。ナチュラル美人、癒し系美少女。男の好みをこれでもかと網羅した、見事なまでのラインナップ!!
その全てが体型に見合ったピンク系のメイド服にプリムをつけて出揃ったのだ。
そして一斉に口を揃え、
「いらっしゃいませ、ご主人様!!」
と満面の笑みで言い放った。
これにはユリウスもザックもテオも顔を引き攣らせていたけど、わたしだけは歓喜に打ち震え、
「ブラボーー!!」
と涙ながらに拍手を送った。
まさに完璧なメイドカフェ!! まさかここでこれほど完成度の高いメイドカフェを見ることが出来るなんて! しかもナルシストはメイドカフェを知らないはずだ。なんの知識もなく、カフェとメイドを掛け合わせるというこの発想! これはもう天性のものでしかない。
このコスプレマニアの変態が、まさかここに来てこんな貢献をしてくれるとは。
「素晴らしいわっ、ナルシスト!!」
「そうだろう? この辺は住民が少なかったからね、探すのは骨が折れたよ。店のデザインは早々に決めたんだけど、働き手を探すのに一番時間がかかったんだ。あちこち飛び回っては勧誘してね。やっと満足のいく顔ぶれで揃えることが出来たんだよ!」
「だからあなた、わたしのお見舞いに来なかったのね」
「そ、それは! 行こうと思ったんだけど、僕が行くと悪化するから来るなと言われて泣く泣く諦めたんだよ!」
誤解しないでくれ! と泣きつくナルシストの後ろではザックとテオがうんうん、と何度も頷いていた。
「しかし、ナルシス殿がこの店のために尽力してくれたことに違いはない。この店にかける熱意は誰よりも高かったのだからな」
オスカーさんがそうフォローしてくれたことで、わたしは悪戯に虐めたことを少しだけ反省した。
中央大国セノーリアを往来しているのは、この中ではナルシストしかいなかったし、このメイド服もそこから購入していたはず。
これほど数を揃えていたことにはドン引きだけど、この様に使用してくれるならなんの文句もない。
このレベルの美少女、美女をどうやって見つけて来たのかは知らないけれど、この手の店にスタッフの魅力が加算されることを計算したナルシストは、やはり賞賛に値するのでないだろうか。
だからわたしは、ナルシストにも笑顔を向ける。
「よくやってくれたわ、ナルシスト。これほどまでに完璧なメイドカフェをこの世界で拝めるとは思わなかった。お礼に特別メニューを伝授しましょう!!」
「なんだい、それは!?」
「萌え萌えオムライスよ!」
「なんだってぇえええ!? 萌え萌え……なんて心惹かれる言葉だろうか! 聞くだけて心に羽が生えてしまいそうだよ!」
「羽は十分生えてるから大丈夫よ」
という訳で伝授してあげた。
大方、予想は付いていると思うけれどオムライスの上にケチャップでお客さんの名前を書き、ハートマークで飾りつけるだけのもの。
サワナには稲も豊富に育っているし、米には事欠かない。あとはケチャップだけど神殿内部にトマトは大量にあった。トマトケチャップの作り方は知ってるし、キッシュに教えればすぐに大量生産してくれるだろう。
一日限定10皿とかにすれば、すぐになくなることはないはずだ。
「料理に自分の名前を!」
ナルシストは握りしめた手を顎に当てて、身もだえた。
「そしてこのマーク! これは愛を示すものなんだね!? 素晴らしい! なんて素晴らしい料理だ!!」
「いい。ナルシスト。メイドたるもの、愛を提供しなくては。笑顔を絶やさず愛情を捧げ、必ず客の心をわしづかみにするのよっ! わかったわね、あなたたち!」
並び立つメイドたちは、一様に目を輝かせ、「かしこまりました、ご主人様!」と素晴らしい受け答えをしてくれた。実によく躾の行き届いたメイドたちである。
そうして店舗の準備は整った。その数日後、各地で無料配布を終えたコックたちが出店準備完了の声を聞き、再びユーラの門をくぐった。




