寝耳に水
午後はみんながお見舞いに来てくれた。
オスカーさんやテオは「わたしたちを護衛とするなら、今後は決して勝手な真似をするな」と体調を気遣いながらも優しい言葉の裏に怒りを滲ませて、わたしは土下座して謝った。
それでも納得できなかったテオは、今後は入浴時も付いていくと豪語してミカンと不毛な争いに転じていたり。
トキに関しては腰に抱きついたまま、わんわんと泣いてしまって、親子ガエルのように離れない。
ザックはむっすとして暫く黙っていたけれど、口を開いたと思えば火の中に飛び込むなんて何考えてんだ、馬鹿野郎! と怒鳴り散らし、あたまをワシャワシャと掻きむしっては唸り声をあげて、本当に嫌だ、この女! とひとりごちっていた。手のかかる女でゴメンなさいね。
ロウェル爺ちゃんは小言の耐えないミズノ婆ちゃんを宥めることに精魂つき果たし、キッシュは以前頼んでいたデザートを次々と運んできてくれて、わたしを一番喜ばせてくれた。
豆腐をベースにしたブルーベリームースを頬を緩ませながら食すわたしは、幸せいっぱいに涙を滲ませる。
「うまぁい……! キッシュ、あなたやっぱり天才だわっ!」
「俺はお嬢ちゃんに教わったレシピに果汁を足しただけだ。それでも見た目も色付いて鮮やかになったし、この酸味もいいアクセントになった。だろ?」
「ええ!」
このブルーベリー。実は神殿に生えていたものだ。他にも苺やトマト、蜜柑など。あの広大な敷地内のあちこちに、他では見られない貴重な果物や野菜が豊富にあった。いったい季節感はどこへやら。
ヤマトによれば、あそこもまたアイゼン神の加護を深く受けている地であり、外界とは隔たれた神域のひとつなのだそうで、季節など関係ないんですって。
神殿といいつつ、あれもう大農家だ。いえ、この城の敷地とほぼ変わらない大きさがあるから第二の城といっていい。大豆もあれば稲もある。ザックの子分を神殿の管理に回しているけれど、あれでは到底人手不足だ。
加護があるから農作物は勝手に育つし腐らない。ただ放置するなら人手なんて要らないだろうけど、そんな愚かな真似をわたしがするとでも?
きっと三回死んでも、そんな馬鹿な真似はしない。
子分たちには神殿内部の果物を手当たり次第収穫してもらい、キッシュに届けるように言っておいた。
デザートといえば果物は必須。果物だけでも十分デザートになるけれど、砂糖も手に入れたいま、調理しないなんて勿体ないじゃないの。
「いきなり人相の悪い男が籠いっぱいの果物を抱えて来た時は、さすがにビビったけどな」
「あのひとたちは今後も神殿で働いてくれるの。厨房にはよく出入りすることになると思うから、よろしくね」
「わーってるよ。ああ、ところでな。お好み焼き屋とおから料理屋と、あと甘味処の出店準備が間もなく終わりそうだぜ」
「え?」
お代わり、と差し出した器にムースを盛り付けながらそんなことをいったキッシュに目を丸くする。
サワナから帰って来て、まだ一週間ほどしか経っていない。
その間、神殿が開いたりザックを護衛に引き入れたり、子分たちの配置、オスカーさんとテオの説得などでバタバタして、3日前は火災。
帰ったら早々に出店の準備をしなければと思っていたけれど、そんなこんなでまったく手をつけていなかった。それなのに出店準備か整うとはどういうことなんだろう。
「だってわたし、何もしてないのに」
「お嬢ちゃんの代わりに御当主様が仕切ってるんだ。御当主様は目覚めてすぐに、大工とコックを呼び寄せてな。お嬢ちゃんが作る料理に必要なものとか、どこの空き物件がいいのか、改築の必要性とか。そんなことを意見交換して着工に取り掛かった。このご時世だ。新しく店舗を構える奴なんて誰もいねぇし、大工は大喜びでな。とりあえず三店舗、同時に着工したけど、ほぼ完成してる」
「嘘っ!!」
あまりの驚きように口からムースが零れた。




